4.楽しい日々
学園での楽しい日々が始まった。
さすが学園。これだけの色付きが集まってるのは壮観だ。
だけど、これだけ色付きがいてもボクほどきらきらと輝く色を持っているやつはいない。
くすんだ色や薄い色。混ざり物の姿もちらほら見える。
「さあて、どれで遊ぼうかな?」
護衛と従者を引き連れて、足取り軽く学園内を歩く。
目についた汚らしい混ざり物の緑を階段から突き落とした。
緑は恐怖と痛みに顔をゆがめながら落ちていく。
とんとんと軽く階段を降りて、体を丸めて痛みに震える緑を足で仰向けにする。
手のひらを緑の額に当てて、術を発動させればそれでおしまい。
「ふふ。自由って楽しいね」
誰にもとがめられることなく歩いていく。
ああなんて楽しいんだろう。
*
ボクが廊下を歩いている時やまわりに人がいない時に、時々ピンク色が現れて甘いお菓子を渡してくる。
「いつもがんばっててえらいね。わたしはちゃんと見てるからね!」
一体ボクの何を見てるっていうんだろう?
それより、ピンク色から出てる術のほうが気になるなあ。
精神操作系のこのボクに対して魅了をしかけて来るなんて、身の程知らずにもほどがあるよね。
もちろんあっさり跳ねのけて、ボクは笑ってやる。
「バッカじゃないの?」ってね。
*
無理やり入らされた生徒会には目障りなやつが何人もいる。
そのうちの一人が黒木。
せっかくの黒髪を短く切って、いつもフードをかぶってうつむいている。
強者に生まれたのに、それを恥じているバカみたいな腰抜け。
その腰抜けから、なんでかボクが説教をされている。
落としたり陥れたり色々しているうちのどれかが問題になっているらしい。
「ボクがやったって誰が言ってるんですか?」
術で記憶は消してある。だから誰もボクがやったなんて言えるわけがない。
「記憶がないからわからない。けれど、記憶がないから君だろう。君の能力は忘却だと聞いている」
「えーなんですそれ?ボク傷ついちゃうなあ。誰も見てない、誰も言ってないのに状況証拠だけでボクって決め付けるなんて。そういう考えからエンザイが生まれるんじゃないですかぁ?そんな考えの人が教師をやってるなんて怖いなあ」
笑いながらフードの奥の目をのぞきこむ。
大げさなほど顔をそらして黒木はぼそぼそと言う。
「たしかに証拠はないが……」
「嫌なら疑われるような行動は慎んだらどうかな?」
「誰の許可があってしゃべってるの?混ざり物は黙ってなよ」
緑に言えば、緑は生徒会長の肩を軽く叩いた。
「僕はパス。赤羽お願いね」
「……生徒会の一員なら、行動には気をつけろ」
「はあーい。わかりましたー」
赤の一族は弁護士や警察官なんかが多い。良好な関係を築いておいて損はないからね。
「でも、それなら青柳はどうなんですか?人殺しの化け物でしょ?」
我関せずという顔で淡々と自分の受け持ち分の仕事をしている青柳を指差すと、赤羽は苦い顔をした。
「学園外のことは問わないことになっている。青柳は学園内では群衆しか殺してないからな」
「群衆なら殺してもいいなんてサベツですよね?ボクこんな化け物と一緒にいるの嫌だなあ」
「……はい、できたよ。もう帰ってもいい?」
「どこかの仕事のできない小猿と違って完璧だね。今日の分は終わりだから帰っていいよ」
青柳が緑に書類を渡してさっさと帰っていく。
黒に近い色の髪があいかわらず目障りだ。
「死ねばいいのに」
「こら黄樹!口を慎め」
「はあーい」
家格で生徒会に入ることになったけど、ほんと面倒くさい。
仕事なんて格下のやつらにさせればいいのに。
どうでもいい人間のためにボクがあくせく働かなきゃいけないなんておかしいよね。
*
夏休みが終わった頃から、階段下の狭い場所でピンク色がうずくまってるのをよく見かけるようになった。
夏休みの間中、長老どもに姫の動向を聞かれてうっとうしかったから、仕方なく近づく。
「……なんで、なんでうまくいかないの?」
「何が?」
声をかけたらピンク色はびくっと飛び上がった。
「なっ、えっ、黄樹っ!……くん」
「何がうまくいかないのさ?」
重ねて聞いたらピンク色は目に見えて動揺した。
うろうろ視線がさまよって、ものすごく挙動不審だ。
「攻略対象だし……でも、もう……」
ぶつぶつとつぶやいて、意を決したようにボクを見上げてくる。
「わたしの話を聞いてくれる……?」
そこから始まったのは、『この世界はゲームの世界なの』から始まる荒唐無稽な話だった。
……この女、頭おかしいんじゃないの?
そりゃボクはこの女と恋仲になるように長老どもには言われてるけど、そんなつもりはこれっぽっちもない。
そもそもボクのルート?で現れるっていう取り巻きなんていないし。そんなのがいたら記憶消して二度と近づかないように放り出すよ。ボクに近づく人間を勝手に排除するとか気持ち悪いしね。
話しているうちに泣き出したから仕方なくハンカチを貸してやる。
「あっ、ありがとう……」
ぼたぼた涙を流して泣く姿は醜いの一言だ。
それでも、姫の証の解放という言葉には興味を引かれた。
長老どもの恋仲になれっていう言葉はこれのことを言ってたのかもしれない。
だけどそれなら、他に四人のキスが必要っていう話はちょっと変だ。
……まあ、全部この女の妄想かもしれないけど。ちょっとくらいなら付き合ってあげてもいいよ。うまくすれば長老どもの鼻をあかせるかもしれないしね。




