3.危険人物の宝庫
記憶が戻って見回してみると、学園は危険人物の宝庫だった。
頭の中の知識を整理してみる。
生徒会長の赤羽は正義感が強いけど馬鹿でよく暴走する。赤羽のルートは学園で起こる生徒の失踪事件を追っていくのが主な目的になる。
主人公はその中で秘密を知ったと勘違いされて殺されたり、赤羽をかばって死んだり、人質にされたまま救出が間に合わずに死ぬ。
ただ、赤羽自身が何かするということはないので、事件にさえ関わらなければ比較的安心だといえる。
副会長の緑川は定番のドS。頭はいいけど性格がゆがんでいて、好感度が上がれば上がるほど主人公を精神的に追い詰めていく。緑川のルートでは、主人公は精神を破壊されたり、自殺したり、緑川から逃げようとして屋上から落ちて死んだりする。
好感度が上がると危ないけど、緑川自身が手を出してくることはない。
書記の黄樹はショタキャラ。黄樹の場合は本人より、まわりのほうが危ない。熱狂的な取り巻きがいて、黄樹に近づこうとする主人公を徹底的に排除しようとする。主人公はプールで溺れ死んだり、突き飛ばされて車にひかれて死んだり、閉じ込められた建物ごと火をつけられて死ぬ。
黄樹のルートでは取り巻きに目をつけられないよう好感度を上げられるかが一番の鍵になる。
会計の青柳は人殺しを楽しむ精神異常者。主人公はナイフで刺されたり、首を絞められたり、毒を飲まされたり、ありとあらゆる方法で殺される。他のキャラの攻略中でも、好感度が足りないと青柳が出てきて殺される。青柳のエンドの場合、生き残れるのは青柳が興味を失った時だけ。しかも条件を満たしていても出現はランダムという鬼畜仕様だった。
生徒会の顧問であり現国の先生である黒木は昼行灯に見えて実は腹黒。赤羽のルートで追っていた事件の黒幕がこの人だ。生きるのに飽き飽きしているという設定で、自分が死ぬための術のいけにえにするために生徒たちをさらっている。主人公はつかまっていけにえにされたり、学園崩壊エンドに巻き込まれたり、一緒に死のうと言われて学園崩壊の中で愛を誓ったりする。もちろんどのエンドでも主人公は死ぬ。
隠しキャラの月白はとにかく会うのが難しい。月白に会おうとすると、とにかく不運なことが起こる。上から植木鉢が降ってきたり、強風で工事現場の足場が崩れたり、スリップしたトラックの積荷が落ちてきたり。月白が気づいてくれれば回復してくれるが、好感度が足りないとそのまま死んでしまう。
月白はハーレムエンドには関係ないし、関わらないのが無難だろう。
……これってあれよね。詰みってやつじゃない?
たったの一年間で、月白以外全員の好感度をまんべんなく上げてキスまでいって、姫の証を解放してハーレムエンドってどんな無理ゲーって感じよね。
でも、あたしには製作者としての知識がある。
最短ルートでハーレムエンドを目指してやるわよ!
*
開始早々涙目だ。
怖い……。画面ごしと本物では怖さが全然違う。
自分が死ぬ原因になるキャラたちと話をするのはものすごく神経がすり減る。
それぞれのキャラのキーワードをちりばめて話しかけてるけど、好感度が上がってる手ごたえがない。
ほんっと、ゲームの好感度上昇アナウンスは偉大だわ。
そろそろひとつめのイベントが起きてもいい頃なのに何にもないのは……あたしのバカさが足りないのかしら。主人公をちゃんと演じないと好感度が上がりにくいのかも。
夏休みまでに終わらせておかないといけないイベントがいくつかあるから、まずはそれを目標にがんばらないと。
いつ殺しにくるかわからない青柳と、黄樹の取り巻きには特に気をつけて。
青柳は笑ってるけど殺す気満々なのが怖いのよね。他のキャラは殺される原因とかタイミングがだいたいわかってるけど、青柳だけはけっこう初期から殺しにくるから気が抜けない。
最近食欲がなくて、ちょっとやせたみたい。
こんなことでダイエットが成功しても嬉しくないけどね。
*
……おかしい。
イベントが全然起きない。
もうすぐ夏休みよ?
二人っきりのお説教イベントは?勉強イベントは?怪しい人影を目撃したり、怖いお姉さんに脅されたりは?……まあ、脅されるイベントは取り巻き回避してるからだろうけど。
それどころか黒木が休職ってどういうこと?青柳も全然つかまらないし。
選択肢も出ないし、マップ表示でそれぞれのキャラがどこにいるかわかったりもしないから効率悪いのは仕方ないにしたって、これだけイベントが起こらないのはおかしい。
ちょっとこれバグってるんじゃないの?デバッグ担当ちゃんと仕事しなさいよ!
このままじゃモブ落ちエンドが濃厚になってくる。
「それは嫌……」
誰もいない階段下の空間で頭を抱える。
なんとか巻き返していかないと。
一日、一日とゲームの終わりが近づいてくる。このままじゃ時間が足りない。