2.黄樹の場合
物心ついたときには五人の長老たちと暮らしていた。
陰気くさい部屋で延々長老たちの愚痴を聞く。
ボクの前にいた鬱金とかいう奴が馬鹿な事をしてせっかくの髪色を失った。
だからボクはそんな馬鹿な事をしないように、親からも遠ざけて保護をした。
赤よりも青よりも一番尊いはずの黄の一族が敬われないこの世界はおかしい。
濃色の子どもさえ生まれれば、世界を変えることができる。
ボクの使命はより濃い色の子どもを作ること。
黄色の中でも一番尊い黄金を。できるなら突然変異の黒を。
繰り返し繰り返し。延々と聞かされて育った。
*
「学園へ行き、『姫』となる少女と恋仲になるのだ」
長老に突然言われて内心で首をかしげる。
有象無象ばかりの学園には行かなくていいと言われていたのに、どうして突然そんなことを言い出したのか。
それに『姫』なんて実在するかどうかもわからないものをなぜ持ち出してきたのかもわからない。
「妻紅の娘が『姫』の素養を持っているらしい」
「十六になったら貰い受けるはずだったのだが、事情があって今は学園に通っているのだ」
「『姫』の力を覚醒させるには恋仲になる必要がある」
「妻紅の娘と恋仲になり『姫』の力を手に入れるのだ」
……それが本当なら長老たちが言っていることもわかる。
『姫』というのは『始祖』という非常に強い色付きを産める存在なのだ。
長老たちにとっては、のどから手が出るほどに欲しい存在に違いない。
「わかりました」
素直にうなずいて部屋から退出する。
「……バッカみたい」
何が『姫』だ。そんなに欲しければ勝手にさらうなり奪うなりしてくればいい。
そこまでしないのは、確信がないからだろう。
その程度のものにすがるしかできない長老どもが滑稽だ。
「まあいいか。愚痴を聞くのも飽きたしね」
お望みどおり学園には行ってあげるよ。
姫なんてどうでもいいけどね。
*
学園の入学式。鮮やかなピンク色の頭を見つけて近づいてみる。
新入生用の花を渡してきたから「ありがとう」と言って笑いかけてやった。
ゆるゆると見開かれた目が、恐怖に染まっていくのは少し面白かった。
「え、なんで……」
ピンク色はつぶやく。
花はもらったからもう行ったっていいんだけど、気になってそのまま見てみる。
「嘘でしょ……なんでっ……黄樹っ!」
ふらふらとさまよっていた目がボクを見つけて悲鳴に変わる。
「嫌っ!」
ピンク色は信じられないという顔でじりじりと後ずさるとそのまま走り去った。
「……なにあれ」
あれが姫?
特別なところなんて何もないあれが?
「なあーんだ。つまんないの」
姫なんてどうせガセだろう。
ま、せっかく手に入れた自由な時間なんだから思いっきり遊んでやろうっと。