番外編SS 司の誕生日
「お誕生日おめでとう」
教室に着いて一番に言ったら、司はきょとんとした顔をした。
「三月七日が誕生日って言ってなかった?」
ちょっと不安になって聞いたら、
「あーそっか。俺の誕生日だったっけ」
軽く首をかしげながら答えてくる。
……本当に自分の誕生日に興味ないんだなあ。
ちょっと苦笑してしまう。
「それで、これ。誕生日プレゼント」
カバンの中から焦げ茶色の細長い箱を取り出す。
……うん。箱にかかった金色のリボンもよれてない。
しっかり確認して、両手で差し出したのに司はなぜか受け取ろうとしない。
「どうしたの?」
「……くれるの?俺に?」
「うん。そうだけど?」
司は何が起こっているのかわからないという顔で私とプレゼントを交互に見ている。
え、なに?この世界誕生日プレゼントの習慣がないの?
でも、相談したいつもの男子はそんなこと言ってなかったし……。
「ありがとう!」
急に抱きついてくるからあわてる。
……箱は……つぶれてない。大丈夫だ。丈夫な箱でよかった。
「と、とりあえず受け取ってくれない?」
「うん。ありがとう。開けてもいい?」
「どうぞ」
司が椅子を引いて自分の席に座る。手を引かれてひざの上に横抱きにされて、ぎゅっと司に引き寄せられるまでが一連の流れだ。
私をひざの上に乗せたまま、司が箱のリボンをほどく。
ふたを開けると、万年筆とインクが入っている。
「これ……髪の色?」
「うん。作ってもらったの」
万年筆はミルクティーみたいな淡い茶色と黒に近い茶色のマーブル模様だ。一緒に入っているインクも黒に近い茶色。
「顔料インクだから水にも強いし、これなら仕事の時にも使えるって」
最近仕事が忙しそうだから、少しでも役に立つといいなと思う。
「……嬉しい。じじいはびっくり箱とか激辛チョコとか変なものばっかり渡してくるからこんなまともなプレゼント初めて」
「よかったら使ってくれると」
「毎日使うよ!」
後ろからぎゅうぎゅう抱きしめられる。
「でもこれ、セルロイドでしょ?高かったんじゃないの?」
たしかに特注だしちょっと高くはあった。でも、どうせなら長く使えるものを渡したかったし。
「司といるとお金使わせてくれないんだもん」
お昼ご飯も飲み物も、休みの日に遊びに行くのも全部司のお金だ。
正直、お金を使う機会がほとんどない。
「また新しい服買いに行こうね」
「もう充分だって」
「流行をおさえるのも大事だって月草が言ってたよ」
「そんなにいっぱいあっても着こなせないから」
「なに着てもかわいいから大丈夫」
最近、色付きの間で恋人の色の万年筆やインクを使うのが流行しているらしい。
実は一緒に司の髪の色の万年筆とインクも買ったんだけど、ちょっとだけ恥ずかしいから隠れて使うことにしている。
万年筆って今まで使ったことなかったけど、好きな人の色が使えるのって楽しい。
司も、仕事中でも少しでも楽しい気持ちになってくれたらいいな。




