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20.色にまつわる話

「ちょっとうちの主がやらかしまして。護衛させていただきます」

 そう言って青柳の従者くんがやってきたのは、青柳から完全誓言を受けた次の日だった。


「やらかしたって何したんですか」

「まあ色々です」

 ため息をつく従者くんはいろんなところで苦労してるんだろうなあ。

 しみじみ思って、

「ご苦労様です」

 深々と頭が下がった。

「ちょっとやめてください。次代のせいなんですから貴女が頭を下げる必要なんてないんですよ」

 あわてたように頭を上げさせようとする従者くんはやっぱり苦労性だ。

 ……けっこうな頻度で見てたから、『初めまして』という感じがしないなあ。


「前から聞きたかったんですけど、次代っていうのはあの人のことですよね?」

「ええ。一応あんなのでも次期当主なので。ほんの少しでも自覚を持ってもらえたらと思って呼んでいます」

 残念ながら青柳には通じてないんだろうな。

 思わず苦笑してしまう。

「そういえば、ええと……」

「ああすみません。まだ名乗っていませんでしたね。月草優也(つきくさゆうや)といいます。お好きに呼んでください」

 群衆に対してずいぶん丁寧な対応だ。どうにもむずがゆい。

「ええと……月草さんは防御特化型なんですよね?あと探査能力もあるっていうことは使役獣は蝶ですか?」

 実は青柳みたいに使役獣をひょいひょい表に出している人の方が珍しい。

 ついこの間読んだ本の内容と答え合わせがしたくて聞いてみると、月草さんの目が、こぼれ落ちるんじゃないかっていうくらい丸くなった。


 ……遠目からしか見てこなかったから気づかなかったけど月草さんの目と髪は水色に緑を混ぜたような色をしている。特に目は黄緑から水色のグラデーションになっていてきれいだ。

「きれいな色ですね」

 思わずつぶやいたら、月草さんはぱくぱくと口を開閉した後で、なぜかため息をついて照れたように笑った。

「ありがとうございます。オレにとってこの色は誇りなので嬉しいです。……ですが、色や使役獣について話すのは、もう少し気をつけた方が良いと思いますよ」

「どういうことですか?」

「群衆の方にはあまりなじみがないかもしれませんが、使役獣や能力を知られるのは手の内を知られることと同義なので嫌がる者が多いんです。それに色も人によってはデリケートな問題を含みます」

「……そうなんですか?」

 そんなに重大なことだとは思っていなかった。

 本だけじゃわからない大事なことだ。

「オレのような混ざりものの場合や……特に黄の一族には話題にしないほうが賢明です。少し話が長くなりますが、大丈夫ですか?」

 もちろんだ。こんな機会はそうそうない。

「オレたちの世界では、目と髪の色が濃いほど強いと言われています。

 ですが黄の一族は元々濃い色が生まれにくい血筋でした。

 他の一族より劣っていることに耐えられなかった黄の一族は、濃い色の子どもを作り出そうと必死になりました。少しでも濃い色の子どもは本家の養子にし、淡色であれば家を追い出しました。

 そこに本人の能力や性格などは一切考慮されません」

 まあたしかに黄色ってあんまり濃い色のイメージがない。

 だからって濃さだけで決めるのもどうなんだろう。

「色の濃さは魔力の強さには関係なく、黒に近いほど攻撃特化、白に近いほど防御や回復特化なだけだという研究結果もあります。ですが、今でも黒に近いほうが強いという風潮は変わりません。

 ……黄の一族には色の濃淡によってえげつない差別があります。

 それが嫌で逃げる人間もいます。オレの母親もそのうちの一人です。

 オレの母親は青の一族のところに逃げてきて、そこで恋愛結婚をしました」

 普通は別の一族と結婚することは避けるんですけどね。

 そう言って、月草さんは笑う。

「純血を尊ぶ黄の一族からすればとんでもない話で、黄の一族からは混血も逃げ出した一族の者も粛清(しゅくせい)の対象になります」

「……それって大丈夫なんですか?」

 月草さんやお母さんも粛清対象に入ってるんじゃないだろうか。

「大丈夫ですよ。青の一族は恋愛至上主義と言いますか、恋愛がからむと馬鹿になる方々が多くてですね……。慣習や常識といったものをものともせず、力ずくでねじ伏せてしまうようなところがあります。

 たとえば逃げ出してきた人間と、その子供たちのために町ひとつ作ってしまうなんてことも平気でしてしまいます。

 ……さすがに表には出てこれませんが、オレの母親もその町でのびのび暮らしてますよ。父親も母親を守るからって移住しましたしね」

 思ったより平和そうだ。良かった。

 それにしても町一つ作るってすごいな。青の一族。

「オレ自身は次代の従者に選ばれたのでその町には行きませんでしたけど。青柳の家に守られていますから手を出されることはありません」

 なるほど。たしかにそうじゃなきゃ、色付きが集まる学園になんか通えないよね。

「ちなみに町から独立したのが緑の一族ですね。黄の一族から逃げ出してくる人々はたいてい青に来るので、混血が増えまして。

 一応一番多い緑の色を(かん)していますが、どんな色でも受け入れる混血集団と言った方が正しい状態です。

 彼らは総じて先進的で独立心が強い傾向があります。

 有名なベンチャー企業やAI産業などは、ほぼ緑の一族が独占していますね。成り立ちから黄の一族からは下位扱いされていますが、社会的に強い力を持っているので簡単には手を出せません。

 魔力や腕力ではなく経済力で身を守る新しい形ですね」

「……生き延びるにもいろんなやりかたがあるんですね」

「それぞれ事情があるので、色についてはあまり触れないのが安全だと思います」

「……ですね」

 立ち位置によってどこが逆鱗(げきりん)になるかわからない。

「ちなみにオレの使役獣は仰るとおり蝶です」

 ふわり、と淡い水色の小さな蝶がたくさん月草さんの手のひらから現れた。

「十三匹で一個体扱いです。このうち二匹を探査に使えます。実は前々から貴女にもつけさせていただいていました」

 ……なるほど。だから見てる位置がばれてたのか。

「二匹ということは……」

「そうです。次代にもつけています。あの人の位置がわからないと仕事にならないので習得しました」

「大変ですよね……」

 気ままにふらふらする青柳を迎えに行くのは目印なしでは難しいだろう。探査ができるようになった理由が青柳だっていうのが気の毒でならない。

「近くにオレや蝶が現れることもあるとは思いますが、気にせず過ごしていただけるとありがたいです」

「忙しいのに仕事を増やしてすみません」

「気にしないでください。全部うちの主が悪いので」


        *


『顔見せだけのつもりだったのに長く引き止めてしまってすみません』と、最後まで丁寧な態度を崩さずに月草さんは去っていった。

 きっとこれから生徒会の仕事なんだろう。

 そういえば具体的に青柳が何をやらかしたのかを聞きそびれてしまった。

「……やっぱり完全誓言関連かな……」

 勢いで受けちゃったけど、命をかける誓言なんて明らかに群衆相手にやるようなものじゃない。

 なんとか完全誓言を無効にする方法はないんだろうか。




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