19.青柳司は明言する
放課後まで寝たらだいぶん回復したから仕方なく生徒会室に向かう。
生徒会室の扉を開けるとピンク色がいて心底うんざりする。
「司くん!今日こそ完全誓言してもらうわよ!」
「……一生忠誠を誓えって?」
「そうよ!わたしは姫なんだから当然でしょ!」
視線が合わないままの命令に、なんだか本当にどうでもよくなった。
「あーうん。君に完全誓言はできないよ。もう他の子に捧げちゃったからね」
「……はあっ?誰にそんなことしたのっ!」
叫ぶ女の声が耳に刺さって不快だ。
「言う必要ある?」
一応笑顔を作って返事をすると、
「誰でもいいわ!今すぐ殺しなさい!」
血走った目で詰め寄られた。
……まあね。完全誓言は捧げた相手が死ねば無効にはなるけどね。
女の言葉にすうっと貼り付けていた笑顔が引いていく。
「それは無理だよ。一生涯殺さないし殺させないって誓ったから。それでも殺せって言うなら先に俺が相手になるよ?」
……もうここで殺しちゃってもいいかな?
服従を完全誓言させようとかいうあたりから気に入らなかったし。
殺そうと踏み出しかけたところを、
「おいおい。本気でか?」
赤羽に腕を取られてやんわりととめられた。
今日は赤羽が来ていたのかと無感動に思う。
「ずいぶん歪な陣だな。相手の魔力が感じられないぞ。……寝込みでも襲ったのか?」
「寝込みは襲ってないけど寝起きは狙ったかな」
「らしくないな」
「そうかな?」
自分のらしさなんて感じたこともない。
「とりあえずやめておけ。さすがに姫相手じゃ庇い切れん」
「ならあれ何とかしてよ」
「さっきからなんなのよ!わたしを殺す気?さっさと相手を殺して誓言しなさいよ!」
普段の猫なで声すらかなぐり捨てた女の言葉は聞くに堪えない。
「……誓言なんかなくても自分の身くらい自分で守れるでしょ」
使役獣さえいない彼女と違ってさ?
「いつ殺されるかもしれない怖さなんてあんたにはわからないのよ!」
うん。わからないね。わかる気もない。
「だから何?」
「あたしは死にたくないの!絶対に殺されたりしないんだから……!」
なぜか泣き出したピンク女を黄樹が抱きしめる。
「会話にもならないね。邪魔だから出て行ってくれる?」
彼女と言っていることは同じなのに、印象がこんなに違うのはいっそ不思議だ。
ピンク女は、こちらを射殺しそうな目を向けてくる黄樹に抱えられるようにして出て行った。
二人に落ち着くようにと声をかけながら赤羽も出て行く。
扉が閉まると部屋の中が一気に静かになった。
「もう少し穏便なやり方があったでしょう」
声をかけてくる従者に苛立ちのまま答える。
「我慢したくなかったんだよ」
「わからないでもないですが。……彼女の警護を見直してきますから、生徒会の仕事やっておいてください」
黄樹と従者の受け持ち書類をどさりと机の上に置かれる。
「俺も行く」
「今のあんたは邪魔です」
ばっさり言い切られて、考える。
魔力も戻っていない状態で彼女のところに行っても、守れもせず怯えさせるだけだろう。
「わかった。任せる」
「そっちの会計報告は今日中なんでなるべく早くお願いしますね」
「わかったからさっさと行けば」
今の自分にできることは従者が動きやすいように仕事を片付けることくらいだ。
机の上に積み重なった書類から会計報告関連の資料を取り出すと、青柳は黙々と書類を作り始めた。