13.青柳司は希求する
「ピンクちゃんのところに行ったらどうです?」
生徒会室の自分の机に座ったところで彼女の言葉を思い出してしまい、ものすごく苛々した。
彼女の言う所のピンクちゃんは今日も生徒会室に居座っている。
くるくると変な形に結い上げているピンク色が目に障る。
ついこの間、この女が始祖を生むことができる特別な存在、姫だということがわかった。
丁重に扱うように言われているが正直自分にとってはどうでもいい。
どうやら心酔している人間もいるようだが、『かわいそうなあなたをわたしだけはみすてないわ』なんて言われてありがたがる感覚がよくわからない。
『みんなが大好き』という言葉を撒き散らしながら、本心では『みんな』を警戒し怯えているのが見え透いている。
……どうせ怯えるなら彼女くらいわかりやすく怯えればいいのに。
彼女は怯えるだけでなく、俺に殺されないようにあれこれとやっているのが面白い。
授業中以外は手の届く範囲には絶対に近づいてこないし、俺の言動全てを警戒している。
時々何かに集中しているときは俺が近づいても気づきもしないことがあって、苛々するけれどなぜか今まで殺さずにいる。
三年になって家格と年齢の順で生徒会長になったが、正直ピンク女が毎日現れるのにうんざりしている。
最近はできる限り早く、自分にしかできない仕事を片付けてあとはとっとと生徒会室から抜け出すことにしている。
会計に任命した従者もいるし、卒業したはずの赤羽や緑川も二、三日に一回は顔を出すので仕事は回っているようだ。
……早く彼女を見つけに行きたい。
放課後の早い時間なら渡り廊下や裏庭付近で彼女を見つけられるのだ。
遅くなってしまうと、寮に帰ってしまうのか見かけることがない。
話しかけるたびに怯える彼女には苛々するけれど。時々殺したくなるけれど。だけどこんなところよりずっといい。
まっすぐに怯えた目を向けてくる彼女のそばではどうしてか息が楽にできる。いや、彼女と話すようになって、今までが息苦しかったと気づいたというほうが正しいのかもしれない。
この間、たまたま彼女の寝顔を見る機会があった。
怯えていない、安心しきってゆるんだ表情。
もう少し見ていたいなとぼんやり見つめながら、不意にこの瞬間を壊したいような衝動に駆られて自分でも困惑する。
俺は、彼女をどうしたいのだろうか?