10.何があったのかはわかりませんが
十二月の大きなイベントといえばクリスマス。
今日は二十三日。私たちは今、授業が終わって、明日のための飾り付けをしている。
明日からは冬休みで授業はないけど、クリスマスパーティーのために学園を開放してくれるのだ。
今頃講堂では色付きたちのパーティーのための準備に大忙しだろうけど私は食堂にいた。
一度話しかけられて以降、なぜか青柳に付きまとわれるようになって、私の緑川先輩に就職アピール計画は一時凍結状態になっている。
このわけのわからない状態でさらに生徒会に飛び込むほどの勇気はなかった。
明日の講堂ではピンクちゃんと色付きたちのイベントが繰り広げられるんだろうけど、群衆には関係ない。
群衆は群衆で食堂に集まってクリスマスパーティーがあるのだ。
「このモールこっちでいいの?」
「うん。あっちの男子に渡してくれる?」
「おーい、ツリーって真ん中だったよなー?」
「ばっか、そんなとこで組み立てんなよ!邪魔だろ」
群衆同士って気が楽でいい。わいわい話しながら見慣れた食堂を飾り付けていくのは単純にわくわくする。
……すごく楽しくはあるんだけど。どうにも不可解な存在がさっきから視界の端にちらちら映って仕方がない。
「……講堂に行かなくていいんですか?」
机が寄せられた食堂のすみ。そこだけぽっかりと人がいない場所に濃紺の頭がぼさっと立っていた。
「……ええと……見回り……。端っこにいるからほっといて」
明らかに反応が鈍いんだけど大丈夫だろうか。
青柳はだるそうにため息混じりで言うと、重ねてあった椅子を勝手に下ろして座り、近くの机に突っ伏して動かなくなってしまった。
そこにいられるとけっこう邪魔なんだけど、群衆が色付きに言えることじゃない。あと顔色が悪いけど体調悪いんじゃないのとも思うけど、そんなのも群衆の仕事じゃない。
他の子達と一緒に飾り付けをしながら、ちらちらと濃紺の頭を見てしまう。……本当にぴくりとも動かない。
調子が悪いのか、疲れているのか。
……関わりは最小限にしたいんだけど。
飲もうと思って買ってきた、あったかいミルクティーのペットボトルを音を立てないように青柳の近くに置く。
これだけ人がいるんだから誰が置いたのかなんてわからないだろう。
結局青柳は従者くんが呼びに来るまで一切動かなかった。
*
クリスマス当日はさすがに青柳も姿を見せなかったので気がねなくパーティーを楽しみ、そのまま冬休みに突入して年越しも寮のみんなとのんびり過ごした。
そんな楽しい時間はあっという間に過ぎて、始業式がやってきた。
講堂に集まりクラスごとに並んだところで、青柳がこっちを見ているのに気づいた。今日は生徒会としての役割があるらしく、教職員側に立っているから距離は遠い。
「冬休みはさんだだけじゃ興味は変わらないかあ……」
がっかりしてつぶやく。
新年の挨拶や新学期の注意事項なんかを生徒会長が壇上でしゃべって始業式はあっさり終わった。
しばらくしたら授業が始まるから教室に戻ろうとしていると、青柳が小走りでこっちに向かって一直線にやってくる。
ちょっとなんでこっちに来るの。片付けとかあるんじゃないの?
「冬休み何してたの」
横に並ばれてびくっとする。ちょっと近い近い。みんな一斉に講堂から出ようとしてるから色付きも大勢まわりにいる。この状況でむやみに殺しはしないだろうけど心臓に悪い。
「……えーっと、寮のみんなとご飯食べたりゲームしたりですかね」
「いいな。そっちのほうが楽しそう」
珍しく、本当にうらやましそうに言われたのでつい聞き返してしまった。
「何してたんですか?」
「親戚の挨拶回り」
それはつまらないだろう。青柳の家になると親戚の数も多そうだし。
「あれこれ聞かれて嫌になった。殺したいのに殺せないし」
「殺さなかったんですね」
珍しい。色付き群衆お構いなしに殺したくなったら殺してるんだと思ってた。さすがに親戚は別なのか。
「じじいがいるから殺せない」
「……」
それ、じじいさんが青柳を抑える力の持ち主ってこと?
「青柳家、魔窟すぎる……」
「本気でやったらもう俺のほうが強いけどね。でもあのじじいには勝てる気がしない」
青柳にも苦手な人がいるのか。
でもなんとなくだけど嬉しそう……?
「君がいれば楽しかったのかも。……ああでも余計にうっとうしいか」
いやいや、色付きは色付き同士で楽しんでいてください。
本当、何の変哲もない群衆にかまってないで早くどこか別のことに興味が移ってくれないかなあ。




