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6 親友は親友で

 で,余計なことはしない方がいいのは分かっていながら,頼まれたことをいつまでも無視することもできず,学校で神田に聞いてみる。


「あれからどうよ」


「うん?」


「遊園地の件,その後どう?」


「遊園地の件て,あの子の件?」


「うん,その後も向こうからいろいろゆうて来てるの」


「うーん,まあなあ」


「あ,無理に言わなくてもいいからね。相手もあることだし」


「そやなあ,でも,タカもおんなじグループで巻き込んでしもたんやから,無関係やないしな。一応,報告しとくわ」


 律儀な奴である。


「えーっと,まあ,連絡はよく取ってる。ていうか,向こうからよくかかってくる」


「デートとかは」


「いやあ,ちゃんとしたのはまだない。1回,帰るのが一緒になったことがあるだけ」


「ええやん,放課後デートやん」


「けど,別に待ち合わせして一緒に帰ったんちゃうし。偶然校門のとこで一緒になったし,知らんふりするのも悪いかと思て,駅まで一緒に帰っただけや」


 佐々木さん,狙ったんやろなあ。神田が帰るのを校門のところで待ってたんやろなあ。校門から駅まで歩いて10分しかないし,その後,二人の乗る電車違うのに,頑張ったんやなあ。


「正直,佐々木さんから来るとは思てなかったわ」


「ん? やっぱ,園田の方やと思てた?」


「うん」


「まあ,普通そう思うよなあ」


「てっきりというか,もしかしたら園田さんかなあって,ちょっと期待してたんやけど」


 ん? あれ? なんか雲行きが怪しいぞ?


「えっと,神田は佐々……いや,園田のこと好きなん?」


 佐々木さんのことをストレートには聞きにくい。


「え? いやあ,どうやろ。そうやって正面切って聞かれると困るんやけど。まあ,ええ子やなあとは思うで」


 ちょっと,ちょっと,神田君。眼科行く?


「ええー,園田がええ子てかあ。んー,まあ,そやなあ,人によってはういう見方もあるかもなあ? 蓼食う虫も好き好きってことわざ知っとる?」


「タカは園田さんに厳しすぎひん?」


「いやあ,幼馴染てそんなもんやろ」


「まあ,俺はそういう幼馴染がおらんからわからんけど」


「子供のころの素のあいつを知っとるからなあ,そういう目では見られんなあ」


「なんやそれ,何かされたんかいな」


「いや,別になんもされてないこともないけど。そこまでひどいことは。まだ生きながらえてるし」


「けど,園田さんてなんか面白いやん。ちょっとつんとしているけど,そこがいい」


「あのつんはちょっとやないと思うけど」


「結構美人やし」


「それを言うたら,佐々木さんの方が――あくまで,一般論としてやけど」


「まあ,佐々木さんも美人やけど,なんかこう,違うんよなあ」


 ああ,佐々木さん,ダメ出しです。心の中でご報告します。ご冥福をお祈りします。お祈りメールを差し上げます。いや待て。こんなこと,直接本人には言えへんがな,どうしよ。


「どこが違うんや?」


「んー,別に嫌いて訳やないんやけど,特別どうこうとまではなあ」


「向こうはどうやろな」


「どう思う?」


聞くなよ,僕に。


「こないだからずいぶん積極的なようにも見えたけど」


「やっぱそうかなあ。そこらへん,園田さんはどう思てるんやろ」


 神田ばっかりモテてなんかむかつくし,ここはとどめを刺しとこう。


「そら,女子やし,相談済みやろ。でないと,園田から僕に誘いの電話はかかってこん」


「やっぱそうよなあ。やばいなあ」


 神田が難しそうな顔をしている。それを見て留飲を下げるのは,親友として,いかがなものだろう。


「二人とも俺に気があるって可能性はないかな?」


 いや,やはりイケメンは撲滅すべきだ。人類のために。でも,ホントにその可能性ってあるんかな?


「いや,それはないな。わかってる。いくら何でも希望的観測すぎるわ」


「そうか,で,どうすんねん」


「いや,どうするもこうするも,今のところどうもせんよ」


「なんで?」


「別にまだ佐々木さんから告られたわけやないし,園田さんともお近づきになったばっかりやし,まだ可能性はあるやろ。ここは親友による橋渡しを期待してじっくりとやな」


「あ,用事思い出したわ。ほな,お先に」


 僕が椅子から立ち上がろうとすると,神田に腕をがしっと掴まれて止められた。


「待て。ここに困ってる親友がおる。それを置いて帰るなんて,そんな人でなしはおらんよなあ」


「僕にできることはない。せえぜえ,神田が困ってるとこを遠くから生暖かく見守るだけやな」


「これくらいまだ何とかなる。グループ交際では割とよくあることなんや。最初はお互いに目指す相手が一致してなくても,結果としてうまくカップルが成立することもあるし」


「どういうこと?」


「つまりや,最初は見た目だけで誰がいいとか思てグループ交際し始めるやん?」


 知らん。グループ交際なんてしたことないし。


「でも,相手と話してるうちに,最初思てたのと違う面も見えてくるし,話が合うか合わんかも分かってくる。そうなると,だんだんターゲットが変わってくることもある」


「ふーん」


「特に,合コンみたいにその場で決めるのとちごて,グループ交際で時間かけて話してみると,『この人,なんか思ってたのと違うかも。それより,あっちの人の方がいいかも』ってなってやなあ,ベストカップルが誕生することもあるわけや」


「そんなに合コンとかグループ交際とかしてたんかいな」


「いやいや,俺やってそんなに何回も経験はないけど」


 何回かは経験あるんかいな。


「けど,見た目だけの印象と,話してみての印象が違うことはよくあるやろ」


 そらまあなあ。佐々木さんがあんなに愚痴を言う人やとは思わんかったし,それを僕みたいな友達でもなんでもない相手に長々としゃべる人やていうのもびっくりやけど。


「そやし,ここはもう1回グループ交際に戻して立て直しを図るんや」


「へー,がんばってや」


「頑張ってやあらへんがな。タカに頑張ってもらわなあかんがな」


「なんでやねん。僕,もう関係ないやろ」


「もともとタカが持ってきた話やんか」


「いや,僕やなくて園田が持ってきた話や」


「その園田さんがタカに持ってきた話や。そやからこの4人でグループ交際を続けるのはちっとも不思議やあらへん」


「なんで僕がそんなことせんなんのかが不思議ですわ」


「な,頼むわ,親友が困ってるんやし,助けると思って」


「…… 」


 正直,佐々木さんが神田に一生懸命話しかけてるのをまた近くで見るのはつらすぎる。僕と園田とペアになるのは,まあお互いに無視しあってるだけだから,時間がたつのを我慢してたらいい。園田の嫌味攻撃は無視しきれないけど,子供のころと違うんだし,泣いて家に帰ったりしいない。たぶん。けどなあ……。


 そこまでだけならまだいいけど。


 神田の方の気が変わって,やっぱり佐々木さんと付き合うとか言い出したら……。


 園田の正体に気付いたら,さすがの神田も考えを改めるだろう。そうなったら,神田と佐々木さんが仲ようしてるとこを見せつけられることになる。まあ,それも我慢できないことはないけど。というか,我慢するしかないわけだけど。佐々木さんには『よかったね。それじゃあね』とか言って,愚痴を聞いたり頼まれごとをする関係を終わらせても,別にいいけど。いやほんとはよくないけど。


 けどなあ,もしも何かの間違いで神田と園田が引っ付いて,佐々木さんが悲しんでるのを見るのはなあ……。


 上手に慰めるなんてできない,まして,それに付け込んで自分と佐々木さんが付き合うなんて,考えることもできない。そうなるくらいだったら,佐々木さんが神田と付き合えて,うれしそうにしてる顔を見る方がまだましだ。その方が僕としても諦めがつくし。自分と好きな人が結ばれなかったのは,自分に魅力がなかったかせいと思うより,たまたま相手にほかに好きな人がいたせいと思った方が,精神衛生上いいだろう。


「旅行から帰った後は園田と連絡とりあってへんし,園田が乗ってこうへんかのうせいもあるで」


「まあ,その時はその時や」


「その時はどうするん?」


「んー,まあ,佐々木さんに期待持たせるのもあれやから,うまいことフェイドアウトせんとなあ」


 ヤバイ,待ったなしか。神田との仲を取り持ってほしいと必死になって頼んでいた佐々木さんの声が頭の中で蘇る。はあ~,仕方ないか。


「親友の頼みかあ,しゃあないなあ,一回,園田にゆうてみるわ」


「そうか! 頼むわ! やっぱ,持つべきものは親友やなあ」


 まあ,親友の気持ちも大事にしたらんとなあ,あくまでついでやけど。あっちを立てればこっちが立たずやからなあ。


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