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22 嘘

 というわけで,学校帰りにいつものショッピングモールのフードコート。食事どきではないことから,今日はだいぶん空いている。

 僕たちは,四人掛けテーブルに男女が向かい合って座った。僕の向かい側に園田,神田の向かいに佐々木さん。

 改まって4人でどこかに行くことはせず,一番定番の遊び場を選んだ理由は,お小遣いも続かないし,よく知った場所の方が演技もしやすいということ。モールをぶらついた後,フードコートで休憩ということで,場面設定完了。


 ここまでは園田との打合せどおり。後はアドリブで作戦開始ということになっている。

 演技なんて自身はないけど,まあ,やるのは園田との普段どおりの会話だし,何とかなるだろう。


「ああ,ちょっと歩き疲れたなあ」


「相変わらずたかくんは体力がないなあ。ちょっとは体鍛えたら?」


「ええねん,無駄なエネルギーは使いたくないし」


「私も普段全然運動してないから,結構疲れるかなあ。美月は何でそんなに体力があるのよ」


「うちもまあ,そこそこは疲れてるけど」


「なんや,園田も疲れてるんかいな。僕には厳しいくせに」


「あんたは男やろ」


「まあ,俺も結構歩き疲れたな。男でも疲れる時は疲れるって。」


「そやろ? 特に自分に興味ないことで歩かされると余計に疲れるからな」


「なによ,たかくんは私とエリカのショッピングに付き合うの嫌やったん」


「いや,そういうわけやないけど」


「ごめんねタカナリ君,いろいろ買い物に付き合ってもらって。やっぱり,男子からしたら女子の買い物は時間がかかるかなあ」


「ごめん,そういう意味やないし。買い物くらいいくらでも付き合うで」


「何やのん,あんたこそエリカには優しいやん。うちにはきついことばっかり言うのに」


「それはお互いさまやろ」


 よし,このへんからかな。


「だいたい,いつも先にきついこと言うのは園田やろが」


「あんたの態度がうちにそういうこと言わせんねん」


「態度って」


「いつもうちだけ除け者にしようとするやん」


「え,そんなことしてないやん」


「この四人で会ってても,エリカと神田君にはニコニコするのに,うちにはいつも冷たい態度とるし」


「それはお互い様ちゃうんか」


「うちはいつも笑顔で接してるやろ」


「笑顔って,園田が僕に笑顔見せるのは馬鹿にして笑ろてるときやん」


「ほれ,うちが笑いかけると馬鹿にされたと思て腹立てて,エリカが笑いかけると喜ぶんやから,差別やん」


「何でや,実際,お前いつも嫌味しか言わへんやん。笑顔で嫌味言われたら,馬鹿にされたと感じるのが普通やろ」


「口が悪いのは昔からやろ。だいたい,それやったってたかくんのせいなんやからな」


「なんで俺のせいやねん」


「たかくん以外にそこまでひどいこと言うてへんし」


「あ,俺にひどいこと言うてるゆう自覚はあるんやな」


「たかくんかて,いつもうちにひどいこと言うくせに」


「それはそっちが先に言うから,言い返してるだけやろ」


「普通に話しかけても冷たい返事しかせえへんやん」


「いつもきついことばっかり言われてるからな。普通に話しかけても裏があるようにしか見えへんし」


「ふん,どうせうちは性悪女です」


「開き直りよった」


「小さい頃はうちにニコニコして話しかけてくれてたのに,なんでそれができひんのよ」


「小さい頃て,いつの話やねん」


「幼稚園の頃とか,小学校1,2年の頃とか」


「そんな小さいときのこともう覚えてへんわ」


「うちは覚えてるし。あの頃は『みっちゃん,みっちゃん』いうて,いつもうちの家に遊びに来てたやん」


「そら,母親同士が仲が良おて,うちの母親が僕を連れて園田んちに遊びに行ってたからやろ」


「そやかて,たかくんかてうれしそうにしてたやん。それが3年生くらいになったら急にほかの男子とばっかり遊ぶようになって,うちのこと避けだして」


「そら,それくらいの年になったら誰でもそうなるやろ。男は男同士,女は女同士で遊ぶのが普通やん」


「そんな普通は知りません。大きなっても分け隔てなく遊べる男子はいてはるわ。無視されたこっちはほんま悔しかったんやから」


「それで,僕に嫌味を言うようになったんか」


「その前にあんたの遊び友達の男の子らをいじめたったけどな」


「あ,なんかみんなが僕のこと避けてた時があったけど,あれお前のせいやったんか」


「ふん,ちょっといじめられたくらいでたかくんと遊ばへんようになるんやか

ら,男の友情なんてしょうもないなあ」


「おまえなあ」


「それやのに,たかくんはうちの家に来おへんようになったし」


「お前そのころから嫌味ばっかりやったやないか」


「ふん,うちのことほったらかしにしたにゃから,その罰や」


「そんなんで一緒に遊べるかい」


「そやし,仕方がないからうちがたかくんと遊びに行ってあげたんやん」


「来んでもええのに毎日のように来てたよな」


「誰にも遊んでもらえへんかわいそうなたかくんをなぐさめてあげたやろ?」


「どこがや,あの頃のお前は最低やったやないか」


「優しいお姉さんやったやろに。たかくんが私を無視したのも許してあげたんやから」


「どこがやねん! 毎日ねちねち嫌味言うてたくせに。僕が逃げようとしたら,暴力まで振るったやろが!」


「小学生女子の暴力なんてかわいいもんやったやろ」


「あの頃はまだお前のほうが背も高くて力も強かったから,相当きつかったわ!」


「ふん,あんたが先に私を無視して傷つけたんやから,それくらい当然や」


「どこが当然やねん,親が見てへんとこで殴るわ,蹴るわ,つねるわしたくせに。嫌がっても無理やり抑え込んでとことんまでいじめようとしてたし」


「男やったら自分のやったこと反省して,それくらいがまんせな」


「しるか! 僕のゲーム機壊したのも覚えてるからな」


「あれはたかくんが自分ばっかり勝って,えらそうにしてたからや」


「そやかて,親に買うてもろた高いゲーム機壊すなや!」


「ああもう,何時までも細かいこと覚えてるなあ」


「いじめられた方は忘れへんのや」


「たかくんがもっと素直にしてへんからそうなったんやろ」


「そんなに僕のこと嫌いやったら,僕のとこに来おへんかったらいいやろが」


「そやかて,たかくんいじめるの楽しかったし」


「僕はちっとも楽しなかったわ!」  


「いじめられて泣きべそかいてるたかくんの顔見るのが好きやってん」


「ええ迷惑や!」


「そやかて,泣き顔が可愛いかってんもん」


「なにいうてんねん!こっちは真剣に嫌がってたやろが!」


「あ,あの,二人ともちょっと冷静になって」


 見かねた佐々木さんが割って入ろうとする。


「あーあ,最近のたかくんは泣き顔見せてくれへんからおもろないわ」


「おもろなくて結構!」


「まあ,難しい顔して,心の中で泣いてるのは分かってるから,それなりに面白いけど」


「知らんがな! ほっといてくれや」


「あんたのせいでうちも肩身の狭い思いしたんやからな」


「なんでやねん」


「あんた,あの時,お母さんに泣きついたやろ。男のくせに,女にいじめられたゆうて泣きつくんやから,恥ずかしないんか」


「仕方ないやろ!母親同士が子供を一緒に遊ばそうとするから,親に言わんとしゃあなかったんや」


「ふん,おかげでうちはお母さんに散々怒られて,もうたかくんとこ行ったらあかん言うて,会うの禁止されて下たし」


「ふん,こっちはおかげで助かったわ。あの時かて,お前とこのお母さんはうちまで謝りに来てくれたのに,お前は1回も謝らへんかったがな」


「なんでうちが謝らんの。もとはと言えばたかくんが悪いんやのに」


「ほらな,典型的ないじめっ子の言い方や。いじめられる方が悪いゆうんやろ」


「だって,ホンマのことやし」


「田舎やから中学校まではどうしても一緒の学校やし,高校でやっと離れられるかと思たら,また一緒の高校になってしもたし」


「ほんま奇遇やなあ」


「そのうえ,こうやって一緒に行動するようになってしもて」


「いやなら止めたら」


「別に,4人で遊ぶのが嫌やてゆうてないやろ」


「そやな,私と遊ぶのが嫌なだけやもんな」


 園田の口元が少し吊り上がった。嫌な予感がする。


「そんなにうちと遊ぶのが嫌やのに,何で我慢してはるんやろ」


 こいつ,予定と違うがな。二人の仲が悪いとこを神田と佐々木さんに見てもらうだけの予定やろ。さっきから変な方に持っていこうとするなよ。


「まあ,お互いにもう大きなったんやし,昔よりはましやから我慢できるし」


「無理に我慢してもらわんでも結構ですう」


 嫌味な言い方しやがって。


「はあ,もうええわ。昔のこと話したってしゃあないし」


「ほな,今の話しょうか?」


「もおええて,そろそろどっか他のとこ行こか」


 苦笑いしている神田と心配そうな顔をした佐々木さんがそれに同意し,テーブルの上をかたずけ始める。しかし,その流れに逆らうやつがいる。


「はーあ,たかくんは何で大嫌いな私と会うのを我慢してまでみんなと一緒にいたがるんやろうなあ」


 こいつ。もう無視して行ってしまうしかないか。


「なんでやろなあ」


 しつこい。園田はどっしりと椅子に座ったまま動こうとしない。それを見て,神田も佐々木さんも立ち上がりかねている。僕は無理やり立ち上がってこの場から逃げ出そうとする。


「いったい誰のために我慢してはるんやろなあ」


 やばい,何考えてるんやこいつ。これ以上言わすわけにはいかない。


「おい,もうええやろ。さっさと行くぞ」


「私にはとことん厳しいのに,他の人にはずいぶんと優しいみたいやしなあ」


「ええかげんにせえよ」


「いったい,何のためにそんなことしてはるんやろなあ」


 神田がきょとんとしている。佐々木さんは困惑した顔をして,僕と園田の顔を見比べている。やばい,もう相当ヤバい。いくら何でもあかん。これ以上言わしといたら,みんなに気付かれてしまう。


「そんなに優しくしたいんやったら,陰に隠れてせんと,もっと堂々としたらいいのに。やましい気持ちがないんやったら」


 あかん,もうあかん。気付かれてしまう。佐々木さんに。


「はたで見ててイライラするわ。ダメでもいいから神田君みたいにはっきりさせたらいいのに。神田君の方がよっぽど男らしいわ」


「おい,もうやめえや」


「そんなに振られるのが怖いんかなあ。それとも,相手が他の人に振られるのを待ってはるんかなあ。ずるいなあ,好きな相手をだまして自分のこと好きになってもらおうやなんて」


「おい! やめえ言うとるやろ!」 


「あ,ごめん。なんか心当たりあったん? それとも,エリカの前で言うたらあかんていうこと」


「……」


 くそ,もう,何も言えない。ておくれだ。全部ばらされてしまった。


「さ,ほな行こか。エリカもこんなアホに騙されとったらあかんで。横から見てたら下心が丸見えやんか」


 だめだ。もうだめだ。もう佐々木さんの顔が見られない。僕の卑怯で薄暗い面がばれてしまった。ここまできたら,もうごまかしようがない。

 園田への腹立ちもすーっと消えていく。園田が言ったのは全部本当のことだ。僕が佐々木さんに隠していた僕の本心だ。意気地なしで,小ずるくて,身勝手な自分。それが今,佐々木さんの前にさらされてしまった。本当の自分を見つけられてしまった。

 自分自身にまで嘘をついてごまかそうとしていたのに,みんなに知られてしまったら,もうそれもかなわない。ただ,みじめで,怖い。みんなにどう思われたかを知るのが怖い。佐々木さんに嫌われるのが怖い。まさかこんなに恐ろしいことだとは思わなかった。嫌われるのは,相手からなんとも思われないことよりも,はるかにつらいことだった。

 これなら,告白して振られる方がずっとましだったのに。自分に勇気がなくて,振られるよりもいい人でいようと自分を誤魔化してきた結果がこれだ。


「美月,もうやめて」


「そうか,うちが悪かったかなあ。ごめんな。美月が騙されてへんか心配で,ついいらんこと言うてしもたなあ」


「あの,タカナリ君……」


 僕は我慢できずに立ち上がると,自分のカバンを持ってその場から逃げ出した。結構騒いでいたから,周りの人からも注目を集めていたかもしれないが,そんなものは全く気にならなかった。

 みじめで,恥ずかしくて,どこかに消えてしまいたい。

 このままどこか遠くへ,誰にも会わないで済む,はるか彼方へ行ってしまいたかった。


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