2 幼馴染
帰宅後,自分の部屋でごろごろしていると,スマホに着信アリ。
ディスプレイに表示された相手の名前を見てびっくりする。
「もしもし,たかくん?」
「はい,なに?」
「あのなあ,今日,先生から班分けのこと聞いたやろ? たかくん誰と班組むかもう決めた?」
「いや,とりあえず友達の神田と一緒に回ることになったけど,あとの二人はまだ決まってへん」
「ふーん,やっぱり神田君と一緒なんや。よう一緒にいるもんなあ。うちも友達のエリカ,佐々木エリカと一緒の班になるとこまでは決めたんやけど,あとの二人はまだやねん」
「ふーん」
「………」
「………」
えーっと,これはどういう事態何でしょう?
急に電話をかけてきて,こいつは何を言いたいんだよ。
「たかくんと神田君は,どうするん? あとの二人は男子を誘うん?」
「いや,まだ決めてないけど」
「うちらもまだ決まってないんやけど」
「へえ,そうなんや」
「………」
「……」
わからん,何が言いたいんやろ。
間違っても園田が僕と一緒に回りたいとは思ってないやろし。
「神田君はなんかゆうてた?」
「いや,神田も具体的なあては言うてなかったけど」
「まだ決まってないっていうのは,女子を探してはるんかな」
「まあ,そうかもしれん」
「じゃあ,うちらと一緒に回らへんか聞いてくれへん」
「え,どういうこと?」
「神田君とあんた,うちとエリカの四人で班組まへんかって言うてるんやんか」
ちょっとびっくり。
いや,かなり驚いた。
「本気か?」
「嫌なん?」
「いや,別にいいけど」
「ほんなら,返事待ってるし。明日までに返事もらえる?」
「わかった」
電話を切ると,僕はしばらくボーっとしていた。
園田は,神田の返事を聞いてきたくせに,僕の返事は聞こうともしなかったんだけど,それはまあいい。
お互い,相手に対して異性としての興味を持っていないことは,今更確認するまでもない。
長年口をきいていないが,子供のころはよく一緒に遊んだ仲だ。
園田がそういうやつだってことはよくわかっているし,向こうだって僕がどう思っているかわかっているはずだ。
女子が声をかけてくるのはいつも神田だ。
神田がモテるのもいつものこと。
これまでも同じクラスや別のクラス,はては別の学年の女子から声を掛けられているのを何度も見てきた。
ときには,僕がそばにいる時でも神田に声をかけてくる。
そういうとき,その女子の目に僕は映らない。
たいていは道端に落ちている石ころ程度の扱いで,下手に動くと『何でいるの?』という目で見られるから,いつもじっとしてる。
後で神田が謝ってくれるが,別になんかの被害があるわけでもない。
そういえば,今日,学校で神田が園田のことを何か言ってたような気がするし,僕の知らないところで二人の間に何かあったのかもしれない。
でも,正直,そんなことはどうでもいい。僕,関係ないし。
神田と園田の間に何があろうと構わない。
問題はそこではない。
園田が神田と一緒に回るということは,同じ班である僕と佐々木さんも一緒に回るということだ。パンパカパ~ン♪
いや,先ほどからいろいろといじけたことを申し上げましたが,正直に言います,うれしいです。
いや,もちろん何も期待なんかしてないよ?
僕と佐々木さんは,神田と園田のついでだからね?
でも,例えば二人掛け席の乗り物に乗ろうとするでしょ?
神田と園田が並んで座るでしょ?そしたら,ほら,残った二人も一緒に座るしかないやんなあ?
あれ? つまり? 僕と佐々木さんが二人並んで一緒にジェットコースターとか乗っちゃうわけですか?一緒にキャーとか言いながら?一生の思い出になりそうなんですけど。
すぐにでも神田に電話を掛ける。
神田がほかの子を誘わないうちに電話しなくちゃ。
「おっす,おらタカナリ」
「ああ,おっす。なんや,機嫌よさげやなあ」
「え?そんなことないで? ところで,班分けのあとの二人,まだ決まってへんなあ?」
「うん,どうしようか計画中」
「実はな,いま園田から電話があって,園田さんと佐々木さんの二人と一緒の班にならへんかって聞いてきたんや」
「えっ! マジか!?」
「マジ,マジ」
「お前,園田さんとはめったに口きかへんて言うてたのに,なんでいきなりそんな話になるんや」
「いやあ,なんでやろ? まあ,詳しいことは聞いてないけど,園田がお前と一緒に回りたいって思ったんちゃう?」
「えっ,そうなん?」
「いやあ,知らんけど」
「知らんのかい! まあ,ええわ。そうかあ,向こうから言うてくるとは予想外やったなあ。ほんまに,お前が誘われたんとはちゃうんやな?」
「え? 僕のとこに電話がかかってきて誘われたんやで?」
「いや,そういう意味やなくてやなあ。まあいいわ。とにかくすぐにオッケーの返事しといて」
「わかった」
「あと,向こうのアドレスとか電話番号も聞いて教えてくれへん」
「ああ,多分大丈夫やと思うし,いま教えよか?」
「そらあかんやろ,ちゃんと向こうの了解を得てくれ。お前がよくても,向こうが嫌がるかもしれんし」
「いや,向こうから誘ってきてそれはないと思うけど。まあ,一回確認しとくわ」
「ところで,なんでお前らはお互いの連絡先を知ってるんや」
「いや,小中高と一緒で何回か同じクラスになったことあるし,クラスの連絡網とかで登録してあったからな。全然使ってなかったけど」
「そうか,まあええわ。そしたら,絶対に今日中に連絡しといてな」
「わかった」
神田もえらい力入ってるなあ。
神田て,もしかして園田狙い?
それなら別にかまへんけど。
まさか佐々木さんの方を狙ってるってことはないよな?
佐々木さんかぶりやったらまずい。
神田のイケメンは,女子に対しては最強カードやしなあ。
僕では絶対に負けるし。
まあ,かぶらんかったとしても,僕が佐々木さんとどうのこうのとはならへんやろけど。
自分が,非イケメン,非リア充であることは十分自覚してますから,ハイ。
それでも目の前で二人が仲良くなっていくのを見せつけられるのはちょっと気が重いしなあ。
あれ,神田と佐々木さんが仲良く話してる場面を想像したら,急になんか気が重くなってきた。どうしょ,園田に電話するのが怖いんやけど。
「もしもし」
「あ,たかくん? どうやった? 神田君と連絡付いた?」
「うん,神田もオッケーやって」
「ほんまに?よかったあ。ほな,うちとエリカと神田君とたかくんの4人で決まりやね?」
「うん,そうみたい」
「ほんなら,すぐにエリカに知らせとくわ」
「あ,神田が連絡先教えてて言うてたんやけど,園田の電話番号とか教えといてええか?」
「うん,ええで。エリカの連絡先も後でメールするし,神田君に回しといて」
「了解」
「ほな,よろしく」
「ほーい」
なんかずいぶん喜んどるなあ。
その後,佐々木さんの連絡先が僕の携帯に届いたので,神田にも転送しておいた。
気になる女の子の連絡先をゲット。
神田からの指示で,SNSを使って4人のグループチャットも作った。
ああ,俺にもこんな日が来るとは。
これでリア充の仲間入りやんね?
違う? まだ気が早い?
でも,リア充ヘ向けての第一歩には違いない。
昨日までの僕とは違う,一つ大人になった気分だった。
ただ,神田は,園田とも佐々木さんともこれまで接点がなかったらしく,今のところぎこちない感じで会話は弾んでない。
僕と佐々木さんの間の会話が弾まないのは言うまでもない。
結局,今のところは,僕と園田が連絡役になっている。
まあ,これからだんだん仲良くなればいいさ,むふふふふ。