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19 彼女を応援するということ

 その日の夜。佐々木さんから電話がかかってきた。心臓が痛い。


「あの,今日はごめんなさい」


「う,うん。大丈夫? 無事に帰れた?」


「うん。ちゃんと帰れたよ。帰った時にはぼろぼろで,家の人には心配されたけど」


「ぼろぼろって」


「家に着くまでは我慢してたんだけど,家に着いたらぶわーって涙が出てきて。家族の前で大泣きしてしまったの」


「そりゃあ,大変やったね」


「うん,家族に心配かけちゃった。みんな腫物を扱うようにしてくれて。痴漢とか喧嘩とか,そういうのじゃないって言ったら,なんとなく察してくれたみたい

で,それ以上は聞かれなかったけど」


「いいご家族やね」


「うん」


「あのー」


「ごめんね,今日,ひどいこと言って」


「えっ,いや,僕の方こそ黙ってて」


「ううん,一杯心配してもらってたのに,ほんとごめん。八つ当たりだよね,あんなの。自分でもわかってたんだけど,あの時はどうしても自分が抑えられなくて」


「ええよ,そんなん」


「ほんとはタカナリ君は悪くないってわかってたんよ。だって,何時も真剣に心配してくれてたし。私のためにいろいろ考えてくれてたのに。振られたのは全部自分のせいなのに。ほんともう,自分が嫌になる。私って,ほんと嫌な性格だよね?」


「そんなことないて。それより,ほんま大丈夫? 落ち着いた?」


「うん,ありがとう。まだ完全には立ち直れてないけど,大分落ち着いた。落ち着いてきたら,タカナリ君にとんでもないこと言ってしまったなあってまた落ち込んで」


「まあ,僕のことはもういいから。こうやって電話かけてきてくれたから,元気になったし。ていうか,僕の方が元気づけてもろてどうすんねんな。佐々木さんの方が大変やのに」


「あは。まあ,あそこでああなるとは思わなかったからびっくりしたけど。でも,なんとなくいつかはこういう風になるかもって分かったたし」


「え? そうなん?」


「後付けかもしれんけど,神田君の方は私のこと友達としか見てないのはなんとなくわかってたし,もしかしたら神田君は美月のことが好きなんかもっていうのも,何回かは考えたことあったし」


「ほんま,どういう趣味しとるんやろなあ」


「あはは。タカナリ君はそういうけど,美月は美人やし,歌もうまいし,本当にいい子なんだから,神田君が好きになるのは当然よ」


「僕には全く理解できんけどなあ」


「ふふふ。でも,あんまり美月のこと悪く言わないで。かえってみじめに思えてくるから」


「あ,ごめん。無神経やったかな」


「ううん,気を使ってくれてありがとう。あーあ,でもやっぱり,すぐには立ち直れないかなあ」


「これからどうする?」


「今は何にも考えられない」


「まあ,そうだよね」


「うん。あーあ,結局告白もできなかったなあ」


「ほんと残念やったけど,告白する前に振られるっていうのもよくあることやから」


「そうかなあ」


「好きな人がほかの人を好きやて分かったら,その後に告白するのはなかなかできんやろ。振られるのが分かってるのに」


「そうよねえ。前にタカナリ君に言われたとおり,もっと早くに告白しておけばよかった。そのほうがちゃんと振ってもらえたのに」


「まあ,それはそれで大変ちゃう?」


「そうかなあ,告白して振られる方がすっきりするようなきがするけど」


「まあ,そうかもしれんけどね」


「もしかして,私が振られるって分かってたから,神田君の気持ちを教えてくれなかったのかなあ?」


「え,いやそれは……」


「うそうそ,冗談冗談。タカナリ君だって困ってたんでしょ」


「えっと,なんていうか,僕もどうなるかようわからんかったし……」


「うん,心配してくれてありがとう」


「けど,佐々木さんはまだ振られた訳やないし,希望はあるんちゃう?」


「ええー?それはちょっと前向き過ぎない?」


「まあ,今日の明日というわけにはいかんやろけど,結局今も神田はフリーなんやし,園田のことに区切りがつけられたら,またほかの人にも目を向けられるようになるやろ?」


「そうかもしれないけど」


「もちろん,1週間とか2週間とか,そんなすぐには無理かもしれんけど,2,3か月もしたら気持ちが切り替えられるかもしれんやん?」


「どうかな,神田君,美月のことそんなに早く忘れられるかな」


「まあ,人によるやろし,振られた相手をどれだけ深く思ってたかにもよるやろけど。まあ,その辺は様子を見てみなわからんけど,可能性としては十分ちゃう」


「そうかなあ。私だったらそんなにすぐ忘れられるとは思えないんだけど」


「神田のこと?まあ,佐々木さんは告白して振られたわけやないから,そもそもまだあきらめる必要ないわけやし。その状態で忘れろ言われても難しいかもな」


「そうなのかなあ。今の自分の気持ちがよくわからないんだけど。そういうタカナリ君はずいぶん詳しいわね?」


「まあ,想像で? そんなもんかなあと」


「まるで,そういう経験があるみたいに聞こえたけど?」


 現在進行形で経験中だとは言えません。


「まあ,僕のことは置いといて」


「ええー,私のこと全部知ってるのに,自分のこと言わないのはなんかずるい」


「また,そのうちな。今は佐々木さんの話が大事やし」


「ぶー,なんか誤魔化そうしてるし。いつかちゃんと聞かしてもらうからね」


「はいはい,いつかな」


「もう,ほんとに必ず聞かせてもらうからね? あ,まさか美月との間に何かあったとか!」


「なにゆうてんの。そんなわけないし」


「例えば,タカナリ君も昔,美月に振られたことがあるとか?」


「やめて! 考えるだけでも怖いわ。僕が園田に告白するなんて,絶対にありえへんし」


「なんだかいつもそんな風に美月のことことさら悪く言うし,本当に何かあったんじゃない?」


「単に子供のころいじめられてただけです」


「子供のころだし,好きな子をついいじめちゃうってやつ?」


「あいつは僕が好きなんやなくて,いじめるのが好きやったの!」


「ええー,美月はそこまで悪い子じゃないよ?」


「そこまでっていうことは,多少は心当たりがあるんやね?」


「いやあ,どうかなあ,ははははは」


「はい,あほな話はここまで。もっとまじめに話しましょう」


「ええー,これも真面目な話なのに」


「僕の話はこれで終わって,佐々木さんの話の続きです」


「はーい」


「で,佐々木さん,まだ諦めたわけやないんやろ」


「うーん,どうしよう」


「まだ頑張るんなら応援するし」


「ありがとう」


「それでさ,4人で集まるのは続けた方がいいかな」


「ええー,でもみんな気まずいでしょ?」


「まあ,みんなの意思も確認せんなんけど,たぶん,園田は続けるのに賛成するんちゃうかな」


「そうなん?」


「うん,あんまり神田の告白を気にしてる様子はなかったし」


「それは神田君がかわいそう」


「まあ,ちょっと変わってる園田のこと好きになってしもたんやから,神田には諦めてもらうしかないな。あと,神田がどうしたいかはまだ聞いてないから,今後のことは神田次第かな」


「タカナリ君はいいの?」


「うん,僕は今までどおりでいいよ。佐々木さんのことも応援したいし」


「ありがとう。タカナリ君が応援してくれるんだったら,もう少し頑張ってみようかなあ」


「まあ,別に無理することはないし。ここでみんなが会うのをやめてしまうと,完全に終わってしまうかもしれんやろ?別に,引き続きみんなで会うからゆうて,絶対に告白せんなん分けちゃうし。神田が振られてもずっと園田一筋みたいやったら,諦めがつくかもしれんし。それも,一緒にいいひんと分からんからなあ。そやし,迷ってるうちは,みんなで会うのを続けてもいいんちゃうかな」


「そうね,何も今すぐ決めなくていいよね。ショックでもうダメって気になってたけど,まだどうなるか分からないし。それに,やっぱり美月は友達だから,美月と神田君がどうなるかもちゃんと見届けなくっちゃね」


「あそこはどうもならんと思うけど。園田があれな性格やから」


「もう,すぐそういうこと言うんだから。でも,自分のことばっかり考えてたらだめよね。私もタカナリ君を見習わなくっちゃ」


 いやいや,見習わない方がいいと思うよ。自分でも何やってるんだかわからなくなってるし。

 さっきから思い付きでいろいろ言ってしまったけど,ほんと,自分が何をしたいのかわからない。

 佐々木さんを励ますことで,佐々木さんから感謝されたいだけみたいな。

 けど,それって自分で自分の首を絞めてるだけみたいな。

 ほんと,場当たり的すぎるだろう。佐々木さんが悲しんでるとつい励ましてしまうけど,それで佐々木さんの気持ちを自分の方に向けるんならともかく,神田の方に向けてどうする。


 いや,まあ,それは仕方ないけど。僕と佐々木さんは友達だし。

 友達としてずいぶん仲良くなれてうれしい。けど,それはどこまで行っても友達止まり。自分から告白する勇気もないし,告白したら友達関係も終わってしまう。

 結局,4人で会うのを続けようとしてるのも,自分と佐々木さんの友達関係を続けたいだけかもしれない。

 佐々木さんが神田のこと諦めてしまったら,もう4人で会う理由がないし,佐々木さんと連絡を取り合う理由もなくなってしまう。

 そうなったら,僕と佐々木さんとの関係もそここで自然消滅だ。

 今はそれが一番つらい。

 神田と佐々木さんの関係を見守るのもつらいが,佐々木さんと話せなくなるのはもっと辛い。

 もう,自分でもどうしたらいいんかわからない。

 4人の中で一番あほなことしてるのは自分だな。園田にも言われたけど,ほんとうに考えなしだ。


 けど,そう考えるのも,自己憐憫に浸ってるだけかもしれない。

 自分を誤魔化してる。

 神田が園田を好きで,佐々木さんのことはあんまり気にしてないのを知ってたから,佐々木さんを応援できたのだろう。

 神田も佐々木さんを好きだったら,さすがにそれはできなかったんじゃないか。

 知らない振りして,佐々木さんが喜ぶようなことを言ってただけ。

 佐々木さんに信頼してもらえるように真実を隠していただけ。

 結論を先延ばしにして,佐々木さんが自分を頼ってくれる時間を,少しでも長引かせようとしてただけだろう。


 それでも,ずるい自分を許してしまう。

 佐々木さんが神田のことを好きで,諦めないのだったら,応援しても裏切ったことにはならない。

 だって,いつか神田だって佐々木さんの方を振り向くはずだから。

 こんなにかわいい子に一途に思われてて,その気にならんはずがない。

 いまは園田に目がくらんでるけど,もう振られたんだし,諦めが付くだろう。

 そうしたら神田もそばにいる佐々木さんに目を向けるはず。

 そこで僕の役目は完全に終わりだ。

 もう,佐々木さんは僕の友達ではなくなって,友達の彼女になる。

 そうしたら,僕と彼女が電話で話することもないし,気持ちが通じることもない。

 間に神田一人分の距離を開けて,一歩引いた関係になる。

 しばらくはつらいかもしれんけど,そのうち慣れるはず。

 そうなったら,佐々木さんのことはいい思い出として心にしまう。

 心のずっと奥の方にしまって,忘れたことにする。

 忘れたふりをする。

 それでいいはず。


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