17 彼女と幸せと
「だから,ごめん!」
「サテ,ナンノコトデショウ」
「ちょっと口が滑った?」
「ヨクスベルオクチデスネ」
「タカナリ君が先に歌ってくれて,ホント,助かりました!」
「ヨカッタネ,ボクヨリジョウズニウタエテ」
「タ,タカナリ君もけっこう,よ,よかったよ?」
「ええねん,園田と一緒に笑っといてくれたら。僕はそれでええねん」
「もう,そんなこと言わないでよ」
「笑われるのは慣れてるから」
「笑ってないって。先にタカナリ君が歌ってくれなかったら,私,緊張して歌えなかったかも」
「ほんま,神田も園田もびっくりするくらいうまかったしなあ」
「ほんとよ,あれはもう,反則だわ。美月もちゃんと前もって言っといてくれないと」
「神田もね。ああ,その後に歌うのはつらかったなあ」
「ほんとに感謝しております」
「いいよなあ,下手な人の次に歌えて」
「ぐっ」
「はは,冗談やって。そのあとは佐々木さんも調子よく歌えたしよかったやん」
「まあ,なんとかね。でも,タカナリ君はそのあとは全然歌わなかったよね」
「もちろん」
「ちょっとくらい歌ったらいいのに」
「笑われると分かってて歌う気にはなれません」
「笑わないって」
「佐々木さんが笑わんでも,園田は絶対に笑うし。なんなら,いじってくるし」
「あー,今度,もうちょっとタカナリ君にも優しくするように言っておくから」
「ええねん。小学校以来の因縁やから。あいつに優しくされたら,そっちの方が気持ち悪いし」
「もう,そこまで言ったら美月がかわいそうでしょ」
「それより,佐々木さん,園田には神田のことあんまり相談してないの」
「うーん,最近はねー」
「なんで?」
「まあ,話したら聞いてくれると思うけど,美月はほら,あんまりそういうこと関心がないっていうか」
「そういうことって,色恋沙汰?」
「うーん,そうねえ,全く関心がないっていうのとも違うんだけど,普通に女の子同士で話すときと,ちょっと感覚が違うっていうか」
「まあ,あいつがきゃっきゃ言うてそういう話に乗ってくるとこは想像できんな」
「でしょー,その点,タカナリ君の方がよっぽど相談しやすいから」
「まあ,園田やったら『ふーん,そうなん,ええんちゃう』くらいで流しそうやな」
「はは,うまいうまい。まるで聞いてたみたい」
「あいつ,神田のことはどう言うてるの」
「うーん,別にいいとも悪いとも言われたことないけど――なんか,あんまり関心ないみたい。まだ,タカナリ君のことの方が関心示すかな」
「げ,僕のことなんか話すんの?」
「別に悪口は言ってないよ? あー,少なくとも私は」
「なるほどね,園田が僕の悪口を言うてるわけや」
「えっと,その,悪口っていうか。ほら,ね? ちょっと口の悪いとこがあるだけで,悪気はないというか」
「どうせ,小学校の時に僕がどんな失敗をしたとか」
「まあ,あはははは」
「まあ,大体想像は付くわ。そういうやつやから。佐々木さん,園田の言うこと素直に信じたらあかんで」
「いやあ,はは,そんなひどいことは言ってないよ?ほら,泣いた時の顔がどんなやったとか,かわいらしかったとか」
「自分がいじめて泣かしたくせによう言うわ」
「はは,でも,美月はタカナリ君のこと嫌ってるわけではないと思うし」
「まあ,しつこかったからな,当時は。嫌ってたというよりかは,面白がってた感じやったかな。いたぶってるというか」
「ふーん,そうかなあ」
「ほな,園田の話はもうええとして,神田のことはどうする?」
「どうするて?」
「まだ告白はせえへんの?」
「うーん,今のままでも楽しいし,もうちょっとこのままでもええかなって」
「まあ,慌てることはないんやけど,友達関係が長引いたら,今度は告白するきっかけが難しなるんちゃう?」
「うーん,そうかもしれないんだけど……。でも,今くらいの距離感もいいっていうか,4人で一緒に遊んでるのが楽しいなって思うの」
「うーん,それはまあ,僕も楽しいと思うけど。ただ,神田の気持ちがわからんままでいい?」
「うん。神田君とも前よりは話しやすくなったし。4人の時は神田君も普通に話してくれるから,私もあんまり意識しないで話ができるから。また神田君と二人きりになったら,意識してしまってぎこちなくなってしまうと思う。神田君も何か距離を取ってきそうな気がする。だから,今の関係を続けて,少しずつ変わっていった方がいいかなって」
「ふーん,そうか」
「タカナリ君はどう思う?」
「僕もよう分らんけど,確かにそれも一つの手やと思うで。いっぱい話してたら,神田も佐々木さんのええとこが分かってくるやろし」
「うん,ありがとう。タカナリ君にそう言ってもらうと,なんか元気が出てくるわ」
「そりゃよかった。でも,油断は禁物やで?あいつけっこうモテるみたいやし,他の子にとられてしまうで?」
「やっぱ,ライバルは多いかな」
「そうちゃう,よう知らんけど」
「まあ,なんとなくそれはわかるけど」
「大丈夫,佐々木さんならほかの子に負けへんて」
「ふふ,そうかな」
「うん,大丈夫,大丈夫」
「ほんとにありがとう。これからもよろしくね」
「うん」
その言葉がうれしいんだけど,そこから先はない。
彼女の幸せを願うけど,自分の幸せを願ってはいけない。
嫌な嫌な自分は,彼女の不幸の先にしか自分の未来はないと考えてしまうけど,彼女の笑顔の前ではそんな考えは霧散してしまう。
彼女が神田に振られたら,自分にもチャンスが回ってくるのか。
それを願うのは彼女への裏切りか。
それを願わないのは,自分への裏切りか。
いや,そこにたどり着く道はない。
チャンスはあっても,当たりはない。
今度は自分が彼女に振られるだけだ。
とっても気まずい最後しかないん。
だから,僕は選ばなければいけない。
せめて彼女だけでも幸せになる道を。
いや,違った。
彼女と神田が幸せになる道だ。
それもいいじゃないか。
情けない自分よりは,かっこつけたピエロの自分の方が,きっと好きになれる。
失恋の自己憐憫ほど甘美なものはない。




