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14 彼女と謝罪と

「ごめん!」


「え,なに?」


「だって,今日ハイタッチの時,タカナリ君とだけできんかったから」


「あー,そうやったっけ」


 まさか,ショックで家に帰ってからずっとふさぎ込んでたとは言えない。


「別に,タカナリ君とハイタッチするのが嫌だったんじゃないよ?」


「そうなん」


「そう,ほんとにごめん」


「いいって,そんなん気にしてへんし」


「でも,あの時なんだか変な空気になったし」


「そうかな,次が僕の順番ですぐに投げに行ったからわからんかったわ」


「でも,タカナリ君が立ち上がって,私と目が合ったのに,私が止まってしまったから」


「そやから,自分の順番やったから立ち上がっただけやし」


「そ,そうかもしれないけど……」


「僕,ハイタッチとか普段せんし,特に女子とはしたことないから」


「私だって普段男子とハイタッチなんかしないよ」


「でも,今日は神田とできてよかったやん」


「うん,ちょっと嬉しかった」


「おめでとう」


「うん,それで,神田君とハイタッチした感触に浸ろうとしたところでタカナリ君と目が合って」


「それで,固まったわけや。別に気にせんでええよ。そら,好きな人とハイタッチ出来たら,誰でもうれしいやろし」


「うん,でも,別にタカナリ君とハイタッチするのが嫌だったのとは違うしね? それは信じてね?」


「うん,それを聞いて安心したわ」


「え,やっぱり気にしてたの」


「はは,あの時の佐々木さんの顔,ほんまに固まってたし」


「いや,言わないで! 絶対変な顔だったでしょ」


「いや,そんなこともないけど,でも,ほんと,表情が固まってたから」


「あー,お願い,もう勘弁して」


「まあ,ほな,これでおしまい,な?もう気にしてへんから」


「うん,ありがとう。タカナリ君は優しいなあ」


「神田からもハイタッチしてもろてたから,今日は2回神田とハイタッチできたわけや」


「うん,それでね,2回目に神田君とハイタッチした時,一瞬,『この神田君の手の感触を家まで持って帰りたい』って思ってしまったのよ。それで……」


「そのあと僕と目が合ったわけや」


「申し訳ございませんでしたもごもごもご」


「いや,もうさっき謝ってもらったからええって。佐々木さんの気持ちはよお分かったから」


「うん,ありがとう」


 まあ,完全には立ち直っていないが,僕の手に触るのを気持ち悪がっていたわけではないと分かってほっとした。


 そりゃ,僕だって好きな子(佐々木さん)とハイタッチ出来たら,そのあとは何も手で触らず,好きな子(佐々木さん)の手の感触を家まで持って帰ろうとするだろう。

 ついでに,その晩は風呂でも手を洗わず,翌日まで余韻を残したいと思うだろう。

 気持ちはわかる。

 

 ただ,僕はそのチャンスに恵まれなかっただけで。


「次はどうしよう」


「うーん,あんまりお金のかかるところばっかり行くのもつらいよね」


「そうやな,別にモールのフードコートでダラダラしゃべってるだけでもいいと思うけどな。最初のころよりかは緊張感も取れてきたし」


「そうね。お金のかかるところは月に2回くらいにしとかないとお金が続かなくなるよね」


「じゃあ,しばらくはモールでダラダラかな」


「そのうち,誰かの家に行くのもありかも」


「うーん,だれのところかが問題やけど」


「神田君のおうちって遠いのかな」


「神田は電車通学やから遠いっちゃ遠いけど,確か電車賃が片道300円くらいやから行けんことはないんちゃうかな。また聞いてみるわ」


「うん,お願いね」


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