11 映画デート
日曜日。
映画館もショッピングモールに併設されている。そのため,集合場所は,モール内のフードコート。
僕は,近所に住む園田と連絡を取ることもなく一人で早めにモールに行き,時間まで本屋を回ったあと,少し早めにフードコードの4人掛け席に陣取った。
待つことしばし。神田が来たと思ったら,すぐに佐々木さんと園田が二人そろってやってくるのが見えた。
4人そろったところで,まずは映画館のカウンターでチケットを買って座席取り。人気のアニメ映画ではあったが,初上映からすでに何日も立っていたので,4人並んで座れる席が取れた。
ここで座席のチケットを配ってしまうとややこしいので,『とりあえず僕が持っとくわ』などと言って,チケットは僕が4人分を全部預かった。
いったんフードコートに戻り,上映時間までジュースを飲みながらだべる。
そしていよいよ開場時間となり,移動を開始する。入り口で僕が4人分のチケットを係の人に渡して入場。
そのあと,僕は係の人からもらった映画の半券をさりげなく全部佐々木さんに渡す。
「座席番号は半券に書いてあるから先に行っといて。僕,トイレ行ってくるし」
と,計画通りことを進めようとする。
ところが,ここで邪魔が入った。
「あ,じゃあ俺も」
「うちも行っとこかな」
神田と園田もトイレに行くと言い出した。思わず佐々木さんの方を見ると,佐々木さんもびっくりした顔で僕の方を見た。あれ?佐々木さん,園田と打ち合わせしてないの?
「エリカはどうする?」
「あ,じゃあ,私もー」
と言って,結局4人全員でトイレに行くことになった。さっき,フードコートでみんなしてジュース飲んだしな。映画の前にトイレ行っといたほうが無難だよね。
トイレはやはり男子の方が先に終わり,トイレ前で女子が出てくるのを待つ。
このシチュエーションも,童貞はそわそわしてしまう。考えすぎか。
しばらくして女子二人も出てきた。佐々木さんが半券の座席番号を見ながら,みんなを先導する。
座席の列まで来ると,園田が僕の腕をつんで引っ張った。
「隣に知らん人が座ったらかなんし,両側に男子が座っといて」
そう言うと園田は僕を座席の列に押し込み,端の席に僕を座らせ,次に自分が座る。その隣にエリカを座らせて,更にその隣に神田を座らせた。
まあ,これで無事佐々木さんが神田の隣に座れたし,めでたしめでたしか。
園田のやつ,遊園地の時と同じやり方やったな。
まあ,一応,理由はついてるからええやろけど。
神田とは席が離れてしまったので顔がよく見えない。
佐々木さんが何か話しかけ,神田がそれに答えている様子だから大丈夫だろう。
園田はスマホをポチポチやってる。
何してるのかと覗いたら,ギロっと横目で見られた。
僕は何か言われないうちにプイっと顔をそむける。
みんなには言わなかったが,実はこの映画,見るのは3回目である。
僕は,オタクというのもおこがましいニワカだが,学校では一応オタクに分類されており,オタク話のできる友人も何人かはいる。
でも,一緒に映画を見に行くほどの仲でもない。
神田はそこまでアニメに興味がなさそうなので,この映画には誘っていない。
そのため,この映画の1回目と2回目は一人で見た。
映画は一人で見るのが正道と思うのだが,世論はそれをボッチと呼ぶ。
なので,あとの3人には視聴済みであることを言ってないのだが,とにかくいい映画なのだ! 3回目上等! 今回も集中して見るぞ! と気合を入れてみることにした。
……………
上映終了。
女子二人は映画に感動して泣いていた。
佐々木さんは泣くかもと思っていたが,まさか園田まで。
鬼の目にも涙のことわざは本当だったのか。
あ,また園田にギロっと睨まれた。心の声が聞こえたんか。地獄耳やな。
「あんた,男のくせに泣いて」
ええやろ! 男が泣いたって! いい映画なんやから,泣くのは人として当然や! 3回目には3回目の感動があるんや! ストーリーがわかってても泣けるんや!
「な,泣いてへん。あくびしただけや」
「隠さんでもいいのに,なあ」
そう言って,園田は隣の佐々木さんに同意を求める。佐々木さんは,こっちを見てくすくすと笑った。恥ずかしいけど,その笑顔が見れたからオッケーです。
「あかん,途中で寝てしもた」
神田,お前は人生損しとる。今度,女の子がおらんとこでじっくりオタク文化について解説したる。嫌がっても許さん。
映画が終わった後は,またフードコートでだべった。
もちろん,映画について,あそこがよかったとか,ここがよくわからなかったとか。
最初は,いつもどおり遠慮して会話にあまり加わらなかったんだけど,映画の解釈について神田が勘違いとしか思えないようなことを言ったもんだから,思わず口をはさんでしまった。
それから,オタク特有の早口で,その場面の意味とか,あとに出てくる伏線回収とか,この映画の監督の前作ラストと本作ラストの関係性とかについて熱を入れて語ってしまった。
気が付いたら,3人ともあっけにとられた顔で僕を見ている。イヤッ!見ないで!
佐々木さんは,終始,神田の近くにいたが,あまりしつこくならない程度に話しかけているようだった。
神田にばかり話しかけるのではなく,ある程度園田にも話を振って,みんな話すようにしていた。
え? 僕が抜けてるって? 僕には主に神田が普通に話しかけてくれたし,時々園田が辛らつに話しかけてくれていたから,僕だって一応話には混じってたYO!
まあ,僕から佐々木さんにも直接話しかけることはほとんどない。
佐々木さんと神田がうまく行くようにという作戦行動なのだから,僕と佐々木さんとの間で会話をする必要はない。
少し寂しくはあったが,みんなには内緒で佐々木さんと電話でやり取りしてるので,みんなの前では親しげに話すことができない。
まあ,秘密の関係だと思うと,それはそれでこそばゆい様なうれしさもあった。
二人だけの秘密という感じがいい。
本当はそんなに大層なことではなくて,ただ,僕と佐々木さんが裏で作戦を練っていることは神田には秘密だから,ばれないように気を付けてるだけなんだけど。
なぜか佐々木さんは園田にも内緒にしているようなので,園田にもばれないようにしなければならない。
でも,園田はそういう隠し事みたいなことには鼻が利きそうだから気を付けないと。
まあ,園田にばれても大して問題ないはずだが,僕をいびるために冷やかすようなことを言ってくるかもしれないし。
園田がみんなに内緒で僕だけにこっそり冷やかしを入れるだけなら我慢すればいいが,佐々木さんの前でそんなことを言われたら,気まずくなるじゃん。
せっかく,仲良く話ができるようになったのに。
神田は,全員と均等に話をしており,イケメンらしい対人スキルを発揮していた。
もちろん,神田が僕や佐々木さんに話を振るのはカモフラージュで,本当は園田と仲良くしたいがために頑張っているのだというのは分ってる。
そのつもりで聞けば,神田の質問は園田さんの趣味や人間関係,生活全般について聞きだすための質問だとわかる。
それを誤魔化すため,みんなにも同じ質問を聞いて話を膨らませ,園田に気付かせないように振舞っている。さすがだなあ。
一方の園田は,神田のそんな気持ちに気付いているのかいないのか,いつもと変わらぬマイペースの態度を崩さない。
園田が辛らつなのは僕に対してだけで,佐々木さんはもちろん,神田に対しても普通に接している。
佐々木さんと神田との会話には割って入らないようにしているが,園田自身は,好きなように話しており,合間合間に僕をdisるのも忘れない。
まあ,さすがにみんなの前だから冗談だと誤魔化せる範囲ではあるが。
佐々木さんと神田はそれを微笑んで見ているが,もう少し僕をかばったり,応援してくれてもいいんだよ? 僕の心が折れないうちに。
そんなこんなで,会話も弾んでお互いが少しだけ親しくなれたような気がする。
恋愛的な意味での進展は,佐々木さんと神田との間にも,神田と園田との間にも,目に見えた進展はしてないが,グループ交際だからこんなもんだろ。
こういうことの経験がない僕が言うのもなんだけど。
佐々木さんもそれなりに神田と話せたし,神田もそれなりに佐々木さんに話しかけていたから,まずは順調と言っていいやないかな。




