10 彼女と相談
「映画どうしよう」
「どうしようって?」
「どういうふうに座るかが問題でしょ。テーブルと違って横並びだから,神田君と離れて座る可能性もあるわけだし」
「ああ,そっか。まあ,そこは何とかなるんちゃう」
「そうかなあ」
「まず,佐々木さんと園田が並んで座るやろ? それで僕が……佐々木さんの隣に座ったらあかんから園田の隣に……ちょっと待って。もう1回やり直し。まず僕と神田が並んで座るやろ,そして,佐々木さんがすかさず神田の隣に座るやろ,そしたら僕の隣に……いや,あかんちょっと待って。1回紙に書いてみるし」
「そんなに美月の隣が嫌なの? 別に何にもしないでしょ?」
「映画に集中できんし」
「えー,美月が気になるってことー?」
「そ。多分,佐々木さんが思ってるのとは別の意味で気になるし。また蹴られたらかなんし」
「えー,美月が蹴ったりしないでしょ」
「蹴られたで」
「え! いつ?」
「こないだ,フードコートで座ってた時。テーブルの下で蹴りよった」
「えー,ほんとにー?」
「まあ,佐々木さんは美月の友達やから? 美月の方を信じたいやろし? 信じてやったらいいと思うよ? けど,真実はいつも一つやし」
「はははは,もう,冗談ばっかり」
「冗談の中にも真実はあったんやけどな」
「それで,映画の時どうやって座ったらいいかな」
「うーんと,指定席を横並びで4つとるやろ。それで,男女が交互に座るとすると……神田と佐々木さんが並んで座るとして……僕と園田が隣合わんようにしようとすると……」
「うーん,美月,神田君,私,タカナリ君の順番ならいけるね」
「うん,まず端から僕と佐々木さんが座ってしもて,あと園田に一つ空席を置いてその向こうに座るように頼んどかんなんな。そしたら,神田がその空いたとこに座ることになるし」
「でも,それだとなんだか不自然じゃない? 神田君に変に思われないかな」
「うーん,確かに意図が見え見えかもしれんな。でも,それはしゃあないんちゃう?」
「うーん,そうなんだけどー。あんまりあからさまだと嫌がられそうで怖いっていうかー」
「じゃあ,どうする?」
「んー,タカナリ君は,やっぱり,私の隣がいい?」
「えっ!」
なにそれ,僕の気持ちに気が付いてるの?
「どうしても美月の隣はダメ? それだと私の隣になるけど」
なんやそういう意味か。ほっとした。
「まあ,絶対に嫌ってわっけやないけど。一緒に並んで映画見るくらいは平気やし。別に口きかんでも映画みとったらええんやから」
「なんでそんなに嫌がるの?」
「いや,僕が嫌がってるというか,園田の方が僕のことを嫌がってると思うで」
「そうかなあ,別にタカナリ君のことを嫌ってるような様子はなかったけど」
「嫌ってる様子がなくても,馬鹿にしてる様子とか,蔑んでる様子とか,虫けらを見るような目で見てる様子とかならあったやろ?」
「えー,そんなことないよー。私と話するときは,タカナリ君のこと普通に話してるよ?」
「そうか,眼中にないんやな」
「もう,被害妄想なんじゃない?」
「まあ,園田のことはええわ。それはこっちへ置いといて。今度は端から園田,佐々木さんの順に座って,僕がトイレとかゆうてちょっと遅れていくから,そしたら神田が先に行って佐々木さんの隣にすわるやろ。ほんで,僕が最後に神田の隣に座ると。これで僕と佐々木さんで神田をサンドイッチやな」
「なるほど,じゃあそれでお願いね」




