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 ババ抜きでジョーカーを引いた気分だ。それも、自身のうっかりで引いたような。

 二か月に提出したシフト表で、十日の夜に空けた空欄が恨めしい。

 もうすぐ十時。そしたらいつも通り、あの死体が病院に運ばれてくるのだろう。

 始まりは確か二年以上前だったと思う。十日の夜十時に、トラックによる交通事故の緊急搬送が行われた。

 ――救急隊員が到着した時には、既に被害者は死んでいたらしい。

 衝撃による全身打撲と骨折。折れた骨がぐちゃぐちゃに被害者の内臓を突き刺していた。相当な衝撃たったと推測される。

 奇妙だったのは、被害者の表情だ。

 想像を絶する苦痛を受け死んだはずの若い青年。なのに、彼の顔には安らかな笑みが浮かんでいるのだ。

 のちに判明した年齢は、二十代前半。

 これからやりたいことも、出来ることも……いくらでもあったはずの年頃だ。マスコミも飛びついて、その日限りだがニュースにもなった。ただ死に顔だけは報道されないまま。

 けれども、医療関係者は止まれない。病人もけが人も、毎日問題を抱えた人間が代わる代わるやってくるのが病院だ。記憶に残る妙な事故だが、次がなければ忘れていけるはずだった。

 ――約一か月後、また十日の夜十時過ぎに交通事故が起こった。

 別のトラックによる交通事故に、若い男の凄惨な事故状況。なのに笑みを浮かべて――今度は嘲りを含んでいるようにも見えたらしい――死体が運ばれてきた。

 その日は休みで居合わせなかったが、あまりの符合にスタッフ一同、ゾッとしたと聞いている。実は事件ではないかとも噂されたが、残念なことに事件性は皆無だった。トラック運転手は別の人間で車種も異なる。道路側の細工が疑われたが、調査では異常はなかった。

 事故現場は以前の近場だった。警察としては、事件より事故が起きやすい道路と認識したらしく、対策することを約束してくれた。

 けれども、全く意味がない。まるで強い約束事で決められているかのように、十日の夜十時、トラック事故が発生し、若者が嗤う轢死体となってやってくる。原因も理由も不明なソレは、働く彼らには気味が悪い。しかも決まって、この病院に運ばれてくるのだ。

 なので、この医院の十日の夜勤には、多くの人間がシフトを入れることを避ける傾向が出来ていた。凡ミスでシフトを入れてしまった彼は、今日この日だけ起きないことを胸の内で願っていたが――十時半を回ったところで、無情にも電話が鳴り響いた。渋々受話器を取ったスタッフは、全て聞き終えると大きな嘆息を漏らした。


「……また、です。トラックの交通事故。被害者は若者。既に死亡とのこと。十分後に到着します」


 ああ、もう勘弁してくれ! 神がいるのなら毒つきたい。スタッフ一同心から願う事だ。ただの偶然と呼ぶには、犠牲者が出過ぎている。惨たらしい死体を見るだけでも心がすり減るのに、どうしてこんな不気味な現象まで付随するのか。


「マジで誰かお祓いの人呼んで来いよ……」

「三か月前僕が依頼しましたよ……その人曰く、霊の仕業じゃないそうですが」

「ふざけんな! こんな偶然あってたまるかっ!」

「もういや! 私転属願い出してきます!! 一か月以内にやめる!!」


 別段、自分たちに害がある事ではない。

 死体が嗤っていようが、自分が笑われていることにはならない。被害者の中にスタッフの顔見知りも一人もいない。

 けれども、長く続く不気味な事故は、スタッフの心に重くのしかかっていた。

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