2018年11月3日土曜日 文化祭1日目(3)
広乃達はようやく「3年E組の貴族の館」と書かれた看板をくぐって教室に入った。まず受付があってそこには男装女子の執事ルックの人がいた。長い髪をまとめてお団子結びにした上で細長い伊達眼鏡をしていたきれいなお姉さんって感じ。
「ミアキ様。お帰りなさいませ。……連れのお二人はお友達かな?」
秋ちゃんはこのきれいなお姉さんと友達らしい。意外なところで意外なつながり。秋ちゃんが私たちを紹介してくれた。
「こんにちは、陽子さん。私の親友の二人です。広乃ちゃんとユウスケくん。こちらは三重陽子さん。お姉ちゃんのお友達の人」
「ようこそ、いらっしゃいませ。広乃様、ユウスケ様」
そういうと陽子さんはニッコリと左目をウィンクしてくれた。早速席へと案内してくれる陽子さん。ユウスケがうっとりしている。男の子はこれだから!思わず広乃はユウスケの足を踏んづけた。
「イテッ。何するの、広乃ちゃん!」
「あら、ごめんあそばせ。ついつい陽子さん見とれてたから。あんたと同じよ!」
案内されたのは机が二つ向かい合わせで置かれた四人席だった。ユウスケが机の中央、足を入れられない側に座るとその左右にミアキと広乃が座った。
そんな三人を微笑ましく見ていた陽子はユウスケにメニューを渡した。三人で見られるように机の上に置くと広乃、ミアキと三人でメニューをのぞき込んだ。
「紅茶セットなんかおすすめ。小学生にはもれなくお菓子もつけてるから」
「あ、それにしようかな」
広乃がそういうとミアキも頷いた。そうなるとユウスケとしては二人に任せておこうと平和主義の選択をした。つまり、頷いた。こういう多数派にはなびくに限るというのは親友二人を相手にしていてのユウスケの実感だった。
という事でミアキが代表して注文した。
「じゃあ、紅茶3つでお願いします」
「はい。お嬢様。三人ともホットでいいかな?」
「で、いいです」
「かしこまりました。お嬢様。少し待っててね。あ、ミアキちゃん。アンケート今年もやってるから清き一票よろしく」
「はーい。二人には説明しておきますから」
「ありがとう。ミアキちゃん」
そう言って男装麗人執事はキッチンにしている一角へ歩み去った。
広乃が周りを見回すと女子生徒の男装執事やメイド、そして男子生徒による女装メイドや執事が接客対応していた。それを見てミアキが広乃とユウスケに説明した。
「英国貴族のお家という設定でクラスの人が執事やメイドとして接客してくれる喫茶室なんだって」
広乃は身を乗り出すとミアキとユウスケに顔を近づけるように合図した。ユウスケは怪訝そう。
「何?広乃ちゃん」
「メイドっていうより冥土じゃない、これ?」
「あー。それは初めて見た時に思った」
あっさり同意するミアキ。ユウスケは?が乱舞していた。
「冥土って?」
『あの世。メイドと似てるでしょうが』
ミアキと広乃がステレオ・サラウンドでユウスケに突っ込んだ。
女装メイドナンバーワンだという野田さんが紅茶とクッキーとチョコレートをお皿に盛ったものも一緒に持って来てくれた。陽子さんと一、二を争う女装メイドさん。とっても背の高い大きな人で陽子さんと真逆な感じなんだけど所作は折り目正しく丁寧でなんか悪くないのだ。実際2年連続で陽子さんを破って1位になっているとか姉からミアキは聞いていた。
「お嬢様がた、ご注文は以上でよろしいでしょうか」
「はい、ありがとうございます」
「では、ごゆっくりおくつろぎください」
ティーカップが高いものじゃなさそうだけど陶器を使っているところは流石は英国貴族の館を名乗るだけはあった。
紅茶とお菓子を楽しみながら広乃とユウスケはミフユさんの反応を考えていた。担任の先生をミフユさんは知っている。そして何かあったとしか思えない反応をしていた。何を私たちに後ろめたく思っているのか。
そんな二人の沈黙を見たミアキ。
「どうかした?」
二人は考えを遮ると咄嗟に思いついた事を口にした。
「陽子さんってかっこいいねえ」
「ほんとミフユさんと二人ともすごくキレイ」
ミアキは幸い気づかなかったようだった。
「お姉ちゃんはそうでもないんと思うんだけど、陽子さんって憧れるよね」
そう言うとミアキは紅茶をすすって「アチッ」と言った。