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2018年11月4日日曜日 文化祭2日目(13)

 不幸のマユは壇上に上がるところでこけそうになった。すかさず黒羽が手を差し出してマユが転倒するのを救った。

「ありがとう。黒羽」

「はい。マイク」

 そういってマユは黒羽からマイクを受け取った。

「井上マユです。私は味わいデュオチームを推薦します」

 流石は軽音部のヴォーカル。声は透き通り教室の隅々まで響いた。マイクなんていらないんじゃいか?なんて事を亘理悠太は思った。

「マユちゃんありがと!」という平愛美の声が聞こえた。川上未来も喜んでいるのが見える。

「だってあの川上先輩がロシア好きを封印して平先輩と組んだんですよ。そしてでてきたのは欧州推しのベネディグドポーチドエッグ。とってもオシャレだし美味しかったし。流石は川上先輩が折れて平先輩の料理をメインディッシュに据えるだけはあるなって思いました。デザートの梨と柿のコンポート風、トマトサラダもおしゃれで良かったです」

なんか褒めてくれてるようには聞こえないじゃないと思った未来だった。


 審査員のトリを務めたのは文化祭実行委員長閣下こと高山リンだった。か細い線のような体格、忙しかったようで顔色は悪いみたいだけど、精神的には極めて高揚しているらしく言ってる事は調子が良かった。

「高山リンです。ボクはピーチチームのスープカレーを推薦します。食材だけ言えば平凡なものを選んでますが、」

 ここで月山桃がまたも怒りそうになったが、華山明子が止めた。

「ちゃんと最後まで聞きなよ推薦してくれてるんだからさ」

「高山くん、こんな入り方しなくたって」

そんな風なコントがピーチチーム方面で見られた中で高山リンは話を続けた。

「できたスープカレーは王道の味わい。なんたって料理の腕を必要としない。レシピ通り作るもよし工夫できる人は食材、調味料を臨機応変で変えてしまえばいい。そういう柔軟性がピーチチームのスープカレーにはあります。朝食って名シェフが作って初めて美味しいものじゃだめだと思うんです。ピーチチームのスープカレーは平凡な食材と調味料をスターにする力がありました。これをボクが推薦しなかったら誰がするんだ?と思ってましたが、峯岸さんもピーチチーム推薦なんですよね」

 峯岸瑞希がうなずいた。

「ボクと合わせて如何にすごいと思っているか伝わったと思います」


 亘理悠太委員長の手にマイクが戻った。彼は教室内を見渡した。

「それでは観客の皆さん。審査員のアピール内容に対して挙手にて投票をお願いします。重複投票ありです。審判団が数えますのでいいというまでは挙げていて下さいね」


 ホワイトボードに審査員の名前と推薦チーム、そして挙手で投票された票数が書き出された。


峯岸瑞希 ピーチチーム 12

佐藤陽菜 小学生はシェフ!チーム 10

松本黒羽 古城ミフユチーム 10

井上マユ 味わいデュオチーム 11

高山リン ピーチチーム 11

観客投票者数 32


 安平響子のおかっぱ頭が壇上に上がると亘理悠太委員長の隣に立った。

「まず審査員の優勝者。最多の12票を獲得した峯岸瑞希が優勝となります。瑞希、壇上に来て」

拍手の中、小柄な茶髪の女子が壇上に上がった。

「次に料理の優勝者ですが瑞希の12票、さらに高山くんの11票の合計23票でぶっちぎりになったピーチチームとなりました。皆さん、盛大な拍手をお願いします」

月山桃と華山明子は大喜びで壇上へ駆け上がった。激戦だった事はよくわかっている。たまたま審査員二人の支持が得られたことが大きいんだから。

「やったよ明子!」「やったね桃ちゃん!」

ハグして喜びを表す二人の女子に惜しみない拍手が注がれた。


 広乃は優勝は度外視していたから仕方ないやと思った。あくまでミフユさんに勝つことが目的だから凝った料理で勝負に出た。問題はまだどちらの料理に支持者が多いかわかってない点だ。

 ミフユは誰でも作れる朝食という勝負に対して技巧に走ったのだから当然の結果だし、ピーチチームのスープカレーは実際いいアイデアなので家でも作ってみようと思っていた。優勝は目的じゃないからそれはいい。ミアキの力量はまあ分かるにしても広乃ちゃんは想像よりもはるかに進んでいた。

 問題はあの子達の料理とミフユの料理、どちらを審査員が評価してるのか。どうすれば勝負に決着がつくかな?

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