タマちゃん、球の重力に囚われる!:5
「ビリヤード……入門……初心者っと」
その日の夜から、私はインターネットの虫になりました。
何せ未知の領域です、上手くなると決めても、何をどうすれば良いか分かりません。
ネット上には実に様々な情報が載っており……混乱しそうになりながら、私は基本的な用語から学んでいく事にしました。
「なるほど……白い球が手球、色の付いた球が的球で、球は打つんじゃなくって、撞くって言うんだ……」
「レスト? キューを支える左手か……これも二種類あるのね……どっちが良いのかな?」
「構え方は……ふむふむ……」
最近は便利になりました…お父さんのパソコンで、基本的な情報が全部手に入ります。
「明日、またロサに行ってみよう……」
布団を被った私の口元は、綻んでいました。
私にとって、それほど楽しかったのです、ビリヤード初体験は!
「また来ちゃった……」
「いらっしゃいませ、お一人様ですか?」
「は、はい! お一人様……です!」
緊張する私に、店員さんは優しく台を勧めてくれます。
キューを借り、台に向かった私は……。
「まずは、センター・ショットだ……」
台の中心に的球を置き、手球をフットライン、コーナーのド正面に配置します。
そして、的球の真正面に向けて構え……撞く!
「あ、あれ!?」
まっすぐに球を置き、まっすぐに構えて、真っ直ぐ撞いたはずなのに……的球は台の短クッションの真ん 中に向けて飛んで行きました……ドそっぽです。
「おかしいなー……もう一回!」
的球の真ん中に目掛け、もう一度撞きます。
でも結果は同じドそっぽ……。
「もー、なんで!? 何で入らないの!」
一時間以上、ネットの情報通りにしている筈なのに、何度も何度も同じ真っ直ぐを外す……一球もポケットに入らない!
私の苛立ちが頂点に達した時……。
パチパチパチ……。
柔らかい拍手の音が、私の背中に降り注ぎました。
ハッとなり振り返ると、そこには温和な微笑みを浮かべた、綺麗なお姉さんがいました。
「真っ直ぐが入らないでしょー?」
彼女の問いかけに、私はアホの様に無言で頷きます。
「一生懸命練習しているのは分かるけど、キミには見えてないんだよ……真っ直ぐが♡」
そう言って微笑むお姉さん。
私はその瞳のカリスマ性の虜になります。
「あの……お姉さんは?」
「私? 私は渡会明日香……JPBAの女子プロです」
「え……プロのビリヤード・プレーヤー?」
「そう……貴方の真っすぐ、私が一緒に探してあげようか?」
運命の出会いと云うのは、立て続けに起こるものです。
渡会明日香プロ……後に私のカリスマとなる彼女との出会いは、私の青春を大きく揺さぶる事になるのでした。
「で、君はビリヤードが上手くなりたいのかな?」
「はい! 誰にも負けないくらい、ビリヤードが上手くなりたいです!」
私の叫びに、渡会プロはにっこりと微笑みました。