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C級ビギナー戦、そびえ立つチートチャイナ! 4

「ちょっとアンタ、いい加減にしなよ!」


立ち上がって相手の手玉をガツッと掴む私の背後から、凜とした怒号が戦に向けて放たれました。


驚いて振り返ると、そこには右手に漆黒のキューを携えた、ゴスロリファッションの女性が、敵意丸出しの険しい表情で戦をにらみつけていました。


「姑息な手を使って、ビギナー相手に勝ちを急ぐなんて、恥ずかしくないの?」


その女性は、戦に敵意むき出しの言葉を浴びせます。

中国語で何か言い訳をする戦。

彼女は、凜として言い放ちます。


「ここは日本です、日本語を話しなさい! そしてそれはこの子のキューです、今すぐ返してあげなさい!」


彼女の気迫に臆したのか、戦はブレイクフォームを解き、何か中国語で言い訳しています。


「言い訳はいい! キューを返しなさい!」


彼女の一括に、キューを握る手を離し、後ずさります。

私のプロトムサシは、無事に戻ってきました。


「はぁ、良かった~、私のキュー、私のムサシ……」


私はその場にへたり込んで、キューに頬ずりします。


「……もう大丈夫かな? 私は私の試合に戻るけど」


女の人は、そう言って微笑みました。


「ありがとうございます……その、助けていただいて」


「いいのよ、貴方の面倒を見るよう、紗絵ちゃんに言われてるから」


そう言って微笑む女性。


もう少し話していたいけど、キューを持ち替えた戦が私を急かします。


「じゃあね、ガンバ!」


そう言って、自分のテーブルに戻っていく女の人。

負けない、負けられない、こんな卑怯者に負けるもんか、勝てなくても、最後まで食らい付いて、とことん嫌な試合にしてやる!


一回戦第二ゲーム、ブレイクは戦……。


ドゴォォォォ!


鋭い轟音とともに砕けた球は、縦横に走り回り、なんと3個の球をポケットインして止まりました。

手球は台中央付近、どこからでも狙える配置です。


ビリヤードの残酷さは、オフェンスとディフェンスの差にあります。


オフェンスは、自身がミスしない限り永久に球を撞くことができる。ディフェンスは、相手のミスを祈る以外、為すべき事がなく、座っているだけ……。


それは上手くても下手でも、プロでもアマチュアでも、等しく課せられたルールです。


戦が球を入れていく中、私はただ精神集中して、目の前の1球をポケットに沈めるべく、テーブルを凝視していました。


やがて、チャンスが訪れます。戦が7番を飛ばしたのです。


ようやく私の出番が来ました、キューを握り、すっくと立つと、台上の球の配置を確認します。


台上の球は3つ、手球と、7番と9番。

そして手球は……十分に7番を狙えます。

入れる球はすべて入れる……渡会プロの言葉が蘇ります。

私は、全神経を7番を入れることに集中すると、構えます。

ストロークを整え、狙った厚みに……撞く!


手球は的球に当たり、的球7番は奥のコーナーに叩き込まれます。

手球が泳ぎ、反射しながらネキストに繋げます。


そして私は、9番を右コーナーに沈めました・・・・・・一勝です!


私が9番をポケットしたことで、試合は振り出しに戻りました。

1対1で迎えた最終ゲーム。これを取った者が、二回戦に進めるのです。


勝負を決める最終戦のブレイク権を得た私。

今まで戦にされた意地悪の、すべてを仕返ししてやろうとも思いました。

ラックを徹底的に拒絶し、10回でも20回でも組み直させる・・・・・・でもまあ、それはさすがに大人げないと思い、正攻法で行こうじゃないですか……! と、ブレイクを構えます。


バゴォォォォン!!!


私のブレイクショットはラックを割り裂き、ウィングの二番と奥の7番をポケットに沈めました。

我ながら上出来なブレイクショットでしたが、後がいまいち。

一番をポケット出来る厚みがありません。

私は1番を薄めに当てて、セーフティに持って行きました。


私の付け焼き刃のセーフティは中途半端で、1番を完全に隠すことが出来ず、薄めに当てにかかった戦の球が、1番をさらに隠しに行きます。


この状況把握能力……戦は絶対にビギナーではありません。

ビギナーではないんですが、それを今、運営に訴えても、良い結果は得られないでしょう。

彼が何の目的でクラス詐称をしているのか分かりませんが、試合で負かす以外に、彼を否定するすべはないと、ここにいる全員が思っている事でしょう。


そして、その先鋒が私なんだ!


試合はセーフティ合戦の様相を呈し、膠着状態に入りました。

手球も的球も転がるものの、なかなかポケットするに至らず、時間だけが過ぎていきます。

しかしここで、動きがありました。セーフティに行った戦が、サイドにスクラッチしたのです!


よほど悔しかったのか、キューを床に叩きつける戦。

こんなやつに、私の大切なキューが使われようとしたのか……我ながらぞっとします。


フリーボールを得た私は、ただ一言だけを頭で反芻して、球の置き場を探ります。


「ここだ……球なり」


手球を順押しで運べるように置くと、1番をポケットします。

その後の球を順とストップで組み立てていき、残るは9番のみ。


勝った・・・・・・私は確信します。

苛立つ戦を尻目に、おもむろに構えると、最後の球に向かってキューを振ります。

手球は9番を捉え、9番はポケットに向けて走りました。


「よし!」


私がガッツポーズをとろうとした瞬間、信じられないことが起こりました。


カタカタ!


カタカタ……カタカタ……カタカタ!?


そうです、9番はコーナーの角に嫌われ、カタカタと穴前で揺れ、止まったのです。

戦がにやりと笑って、キューを構えます。

そして難なく穴前の9番をポケットに入れると、ふん! と鼻を鳴らすのでした。


私は……負けたのです。


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