C級ビギナー戦、そびえ立つチートチャイナ! 3
始まりました、池袋ビリヤードロサ・C級ビギナートーナメント第一回戦。
私の相手は中国人の戦さん。まずはバンキングです。
ふっふっふ、こんなこともあろうかと、バンキングだけは部室で徹底的に練習してきたのですよ、負ける気がしません、バンキングだけは。
「行くぞー、えい!」
私がついた球は、絶妙の力加減で走り、短クッションからまっすぐに折り返し、手元へ戻ってきます、勝った・・・・・・ブレイク権いただきだ!
「……て、あれ?」
玉の転がりに勢いがありません。
「こんな、こんな筈じゃ!」
ふいに、葉山先生の言葉が蘇ります。
『同じ台でばかりバンキングの練習をしても無駄よ? 台によってラシャのコンディションが違うから、球の走りは千差万別、同じ力加減で撞いても結果は変わってしまう……』
そうか、これがそういう事か……。
おそらく、このバンキングは私の負け、ブレイク権は奪われてしまう。
でも、葉山先生はこうも言っていました。
『でもね、同じ力加減で撞くのにもメリットがあります。球の走り方で、ある程度ラシャの目が見えるようになります、部室の台を基準にして、普段より球が走るのか、詰まるのか、それを読んでプレーでの力加減を微調整することができるわ。最初のうちは、ブレイク権をとることよりラシャの癖を見抜くほうに重点を置きなさい』
部室の台より球が走らない、ラシャが重いんだ。
ブレイク権を戦さんに奪われ、ラックを組みに行きながら、普段より気持ち強めで撞くことを決めた私でした。
ただ、気になるのが相手の戦さん。
フォームの安定性や真撞きの精度、何よりバンキングでの力加減が絶妙で、とてもビギナーには見えません。
そんなことを考えながら、ラックシート上に球を並べ、ブレイクを待とうとすると、戦さんの怒号が私の耳をつんざきました。
中国語なのでよく分かりませんが、私の組んだラックに文句があるようで、組みなおせと言っているのでした。
木製ラックではなく、ラックシートを使っているので、隙間はないはずですが、まあここは穏便に、言われたとおりにラックを組みなおします。
「これでいいですか?」
と問うと、今度はラックの隅々を見渡して、首を横に振ります。
ええ!? またダメ?
ラックを組みなおす私、首を横に振る戦さん。
このやり取りが、なんと10回も続きました。
「もう、いい加減にしてくださいよ!」
私はすっかり参ってしまい、結局戦さん自身にラックを組むようにお願いしました。
戦さんはニヤリと意地悪な笑みを浮かべ、シートではなく、木のラックを使ってボールを組みます。
そしておもむろに構え、キューを振ると、フルブレイクしました。
とてもビギナーとは思えないほど重厚な響きを出して撞かれた球はラックを割り裂き……とんでもない結果を出すのでした。
「9番をポケット!?」
そうです、ブレイクされた球は台を縦横に走り回るだけでなく、勝負球の9番を奥のコーナーに叩き込んだのです。
「こんな、こんなのって……」
戦さん、いや、戦がしてやったりという表情で私を見下ろします。
ここまで来て、私は相手の戦略を理解しました。
戦はこれを狙って、ラックシートを嫌い、木の枠でラックを組むように仕掛け、何度も私にダメ出しして、自分に都合よくエースが取れるよう仕向けたのでした。
私はその罠に、まんまと嵌められたのです。
ビギナーの私たちは2先です。
先に2本勝ったほうが次に駒を進めることができ、負けたほうは敗者ゾーンに回ります。その大事な一戦を、姑息で執拗な手段で取られた。私は怒りと悔しさで、目頭が熱くなりました。
と同時に思います、こんな奴には絶対に負けない! と……気持ちだけは。
二戦目はさすがにラックシートで組んだラックに納得する戦。
ようやく普通にプレーできる……そう思ったのもつかの間、今度も戦が仕掛けてきます。
戦がブレーク用に取ったキュー、あろうことか、それは私のプロトムサシだったのです!
「ちょ、ちょちょちょ、ちょっと待って!」
ブレイクしようとする戦の前に必死に立ちふさがる私。
「そのキュー、私のですから! 勝手に、それもブレイクに使わないでください!!!」
キューを取り戻すためにがっちり掴む私を、戦は乱暴に突き飛ばします。
私は床に尻餅をついてしまいました。
戦はそんな私を無視して、ブレイクしようとします。
もう駄目だ・・・・・・我慢の限界だ!
失格になってもいいから暴れてやろうと起き上がる背後から……
「ちょっとアンタ、いい加減にしなよ!」
凜とした怒号が、戦に向けられました。
振り返る私、そこにいたのは……!




