遅れて来た少女! 漆黒の女王見参!! 4
競技は進み、5フレームを終えた時点で各自の得点は……麻耶ちゃん-17点、花音ちゃん-12点、伊庭さん+33点、優雅ちゃん+33点、私は……-37点!
完全に優雅ちゃんと伊庭さんの一騎打ち状態、私たち3人はモブと化しています。
他の点球の支払いが莫大なので、1点2点落としただけではプラスに転じません。
もはや私たちに勝機は無いのでしょうが、最後まであきらめずにキューを振うのがビリヤード。
これまで完全に互角の戦いをしていた二人の球筋に、明らかな変化が生じました。
的球を沈めるのは勿論、その先の手球をコントロールして点球に当て、台の中央付近に球を寄せていき、サイドへのコンビネーションを誘発しようとする、「蹴り上げ」を使い始めたのです。
「さすが史上最強、やりますわね」
「ふ、そっちもな」
二人がお互いの健闘を称えて笑い合います。
その光景を、葉山先生が温かく見守ります。
そうです、こう言うの! こういうのがやりたかったんですよ! 私が全く絡んでいないというのが気になりますが。
そして迎えた最終フレーム、遂に奇跡が起こりました、優雅ちゃんが飛ばした手球が、点球3番をサイドにど真っ直ぐで止まり、私の番になったのです。
「よ、良し……これなら……」
私の心臓の鼓動が激しくなります、視線はクラクラと目が回り、身体中が震えてきます。
「小川さん、落ち着いて、普段通りに撞きなさい」
葉山先生のアドバイスが入ります。
私は大きく深呼吸すると、改めて的球を睨め付け、構えに入ります。
「落ち着いて、普段通りに……」
的球を睨んだまま、何度も素振りを繰り返し、呼吸を合わせます。
そして……ショット!
手玉と的球がぶつかる音がし、弾かれた3番はサイドに向かって一直線に進み、ポケットに沈みました。
「やった……二点! 二点ですよ!」
「タマ、ようやくゼロ更新から脱出したか……良かったな」
「はい! 優雅ちゃん、ありがとうございます!」
「敬語はよせって言っただろう?」
「あ、そうか……ありがとう、優雅ちゃん!」
「一球入れたぐらいで騒がないで下さいます? さっさとプレーを続行してくださいませんこと?」
「あ、はい、すみません!」
伊庭さんに急かされて、私はあわててプレー再開します。
結果は……4番を飛ばしてあっけなく終了。
私の魅せ場? はあっという間に終わりました。
第10フレームは麻耶ちゃん、花音ちゃんがそれぞれ5番・7番をコーナーに沈め、撞き順は伊庭さんに移ります。
ここまで伊庭さんは僅差で優雅ちゃんを下しており、そのまま逃げ切りたい所。
台の上には8番と9番のみ、この9番を沈めた方が勝ちとなります。
伊庭さんは慎重に構え、8番を沈めると、9番をコーナーに取りに行きます。
勝利は目前……そして伊庭さんのショット!
弾かれた9番は真っ直ぐコナーに向かって走り……勝利を確信した伊庭さんの口元が綻びます。
しかし、しかしです、ここで信じられないことが起きました。
9番がコーナーの角に喰われ、穴前でカタったのです。
9番はポケットすることなく、穴前に残ってしまいました。
「伊庭さん、勝ちを焦ったわね……」
葉山先生が呟きます。
「そんな、私が9番をしくじるなんて……」
伊庭さんが震えながら唇を噛み締めます。
それを尻目に、優雅ちゃんが構え、9番をコーナーに沈め、全プレーが終了しました。
10フレームを通しての結果は、麻耶ちゃん:-21点、花音ちゃん:-11点、私:-66点、そして優雅ちゃんと伊庭さんは……何と49点の同点でした。
「まいったわね、まさに絵にかいたような結果だわ……」
「でもまぁ、楽しめた方かな?」
「そうね……なかなか有意義な時間を過ごさせていただきました」
「あの、伊庭さん……良かったら、良かったらなんですけど……入部しなくてもいいから、これからもここで一緒に球を撞いてくれませんか?」
「残念だけど、それは出来ないわ。私にも分別とういうものがあります」
「そうですか……」
伊庭さんは私に背を向けると、部室を出ていくかと思いきや、意外な行動に出ました。
「葉山先生、今更ですが、私もビリヤード部に参加させてもらえませんか?」
「アナタはそれで良いの?」
「はい、引き分けとういう結果は私にはありません。これからも対馬さんに挑戦するのに、部外者では気が引けますので」
「そう……」
「ついでに本気で全国を目指すなら、その他大勢の皆さんにももっと上達して頂かないといけませんから……私も指導の一角を担わせていただきます」
「ふふふ、頼もしい限りね」
「そういう訳で、新しくビリヤード部に入ることになりました、伊庭紗絵美です、皆さんよろしくお願いいたしますわね?」
伊庭さんとは、プレーを通して分かり合うものが生まれたのでしょうか?
とにかく彼女を入れて、部員が5人になりました、これで全国を目指せます。
その前に、まともに9ボールを戦うことが出来るほど上達しなければならないのですが……。




