遅れて来た少女! 漆黒の女王見参!! 1
紆余曲折を経て、遂に復活したビリヤード部。
これから全国大会に向け、葉山先生の指導の下、特訓に次ぐ特訓が繰り広げられるのでした。
順風満帆に思えましたが、大会に出るにあたって、避けて通れない大きな問題が一つ……。
「4人か……」
「4人ね……」
「4人なんだよなー……」
優雅ちゃん、花音ちゃん、麻耶ちゃんが揃って溜息をつきます。
私は事態が呑み込めておらず、キョトンとしています。
「4人だと、何なんですか?」
「全国大会の団体戦は1チーム5人編成で行われるの、このままじゃ面子不足で出場すらできないって事ね」
葉山先生もうかない顔で溜息をつきます。
「じゃあ、このままじゃ全国大会に出られないんですか?」
「そういうこと、団体戦は諦めて、代表個人戦に賭けるしかないか……」
優雅ちゃんが言います。
「私、出来れば団体戦に出たいです」
「それなら、なんとしても5人目を見つけないとね……」
「でもいるのか? この学校にガチでビリヤード撞ける人が」
「探すしかないわね……何としてでも」
麻耶ちゃんと花音ちゃんの会話から、私はあるひらめきを得ます。
「勧誘しましょう! 部室を開放して、ビリヤードを知って貰って、本気で撞いてくれる人を探しましょう!」
「そうだね、まずはチラシを作って校内中にばら撒くか!」
麻耶ちゃんが私の提案に乗ってくれました。
「それしかないか……美術部に知り合いがいるから、チラシのデザインを手伝ってくれるよう頼んでみるよ」
優雅ちゃんが言います。
「私はクラスメイトに興味がある人がいないか聞いてみるわ」
「私も!」
「よーし、乗ってきた! 何としてでも見つけましょう、五人目の戦士を! 戦隊ヒーローのように、プリキュアのように!」
「タマ……おまえ、そう言うキャラだったのか?」
麻耶ちゃんのツッコミに、思わず顔面を手で覆い隠します。
ともかく、私たちの仲間探しが始まったのです。
そして……
「タマ、いいチラシが出来たぞ! さっそく配りに行こう!」
優雅ちゃんが持ってきたチラシは、何ともお洒落で可愛らしい、インパクトのあるデザインでした。美術部の皆さんに感謝です!
放課後、私たちは校門前でチラシ配りを始めました。
「ビリヤード部です! 体験会やってます! いかがですか!」
「ビリヤード部、ビリヤード部です! 一度球を撞いてみませんか? 体験会やってます、是非!」
チラシを受け取ってくれる人は滅多にいません、それでも私たちは連日校門に立ち、勧誘を続けるのでした。
そして、それぞれのクラス全員に声をかけ、ビリヤード部に誘ってみました。
結果は惨敗……一週間が過ぎても体験会参加者は疎らで、少し球を撞くと諦めて帰ってしまう人ばかり……やはり「こちら側」に来る人はもういないのでしょうか?
そして、チラシ配りを始めて2週間が経った頃、ある小さな変化が起きました。
「そのチラシ、良く見せて下さる?」
そう言ってチラシを求めた一人の少女、亜麻色のセミロングのくせ髪に揉み上げを縦ロールで纏めたお嬢様然とした彼女。
「ビリヤードに興味がありますか? 体験会やってますんで、ぜひ試してみてください!」
私の声を聞いてか聞かずか、彼女はチラシを一瞥すると、フンと鼻で笑いました。
「あの……ビリヤード、どうですか? 楽しいですよ? 試すだけでも……」
私は彼女に気圧されながら、それでも勧誘トークを続けます。
すると彼女は、信じられない言葉を口にしました。
「試すまでもないわ、私、ビリヤードをやっているもの、本気でね」
え? マジ? こんな子がまだこの学校にいたなんて! 逸材だ!
私は彼女の言葉に歓喜します。
「じゃあ、アナタもビリヤード部に……」
「それはないわ、お断りよ」
ええ!? 何故に?
「あなた達、団体戦を目指しているんでしょう? くだらないわ。ビリヤードはあくまで個人競技……個々の力と力のぶつかり合いがすべて……負けた傷を舐め合う仲良しごっこなんて、まっぴらごめんだわ」
……ぐさ!
彼女の言葉が深く刺さります、言葉の棘がぐさりと刺さり、言葉を失ってしまう……
「あなた達の様な甘ちゃんは、全国大会なんか目指さずに、狭い部室で仲良しごっこしていた方がお似合いじゃなくて?」
「おいアンタ、さっきから聞いてりゃ、なんだよその態度!」
見かねた優雅ちゃんが彼女に食って掛かります。
「あら、誰かと思ったら史上最強のB級、対馬優雅さんじゃないの……こんな素人とつるむようじゃ、アナタも頭打ちかしらね? AやSAは諦めてしまったの?」
「諦めてない、むしろ獲る気満々だよ……それも含めての全国大会団体戦優勝さ。アンタ、随分と腕に自信があるようだが、個人の力にだけこだわって、他を見ようとしないアンタの方こそ、頭打ちが近いんじゃないのか?」
優雅ちゃんが真剣な眼差しで彼女の眼を真直ぐ見据えます。
その言葉の剣に刺され、彼女の表情から余裕が消え、真剣な怒りが浮かびます。
「フ……そこまで言うなら、体験会とやらに参加してあげても良いわ……ただし、体験内容は私の方で決めさせてもらう……宜しくて?」
「ああ、いいぜ……何でも付き合ってやるよ」
優雅ちゃんと彼女の視線がぶつかり、バチバチと火花を散らします。
私はその光景を間近にして、オロオロするばかり……。
同好の志を求めて校門に立っていただけなのに、ビリヤードというのは、どうしてこう次から次へとトラブルを呼び起こすのでしょうか?
「改めて自己紹介する、私は対馬優雅SB級だ、アンタは?」
「私? 私は伊庭紗絵美、人は私を漆黒の女王:コグノセンティの伊庭紗絵美と呼ぶわ」
「OK、伊庭っち、部室にはいつ来る?」
「本日はキューの持ち合わせがないので……明日、改めて」
「分かった、待ってるよ」
先輩事件からさほど経たないうちに、部室はまたしても、きな臭くなるのでした。
本当に、呪われているんじゃあないかとすら思えます。
はてさて、どうなる事やら……まったく先の見えない展開に戦々恐々とする私なのでした。




