タマちゃん、球の重力に囚われる!:2
「ダメだー……ボーリング、二時間待ちだって!」
「ダーツも一時間半待ちだってさ……」
「もー、平日の昼下がりに、どんだけの大人が遊んでいるのよー!」
「池袋って大学も一杯あるから、春休みの大学生で混んでいるのかも……」
「けしからーん! 女子高生のストレス発散が掛かってるんだ、ちょっとは自重しろよ! 門限あっという間に過ぎるだろーが!!!!」
智ちゃんの叫びが天を突きました。
由紀ちゃんはそんな彼女を宥めて、背中を摩ります。
「もう諦めて、カラオケ行くか……」
1階のロビーに戻った私たち。
智ちゃんがそう言いかけた時、私の視界に何かが写り込みました。
何か、長い……筒状の革ケースを肩に掛けた、スリムな女性……。
彼女は私たちとすれ違いでエレベータに乗り込むと、扉の内側に消えて行きました。
「ねえ、智ちゃん……5階にビリヤードってあるよ、行ってみない?」
「ええ~!? ビリヤードおぉぉ……?」
「そんなに、嫌かな? 私、やった事ないんだけど……」
智ちゃんの怪訝な表情に私は戸惑います。
智ちゃんは息を大きく吸い込むと、ものすごい勢いで捲し立て始めました。
「いい、球輝? ビリヤードって言うのは、ペテン師の遊びよ! ハスラーって言うでしょう? あれは英語で詐欺師って意味なの! ビリヤードなんかやる奴は全員不良……タバコを吸いながら、酒を飲みながら、ゲハゲハ言って球を小突き回す、最低人間がする遊びなのよ!」
「智ちゃん、ビリヤードで何か嫌な事でもあった……?」
智ちゃんの力説に、由紀ちゃんが問いかけます。
「由紀ちゃんは?」
「うーん、良く分からないけど……タバコ臭いイメージはあるかなー……」
そう言って、困ってしまう由紀ちゃん。
タバコと酒……中高生が踏み入れてはいけない禁断の領域。
このビルの5階には、それが蔓延しているのか。
でも、あの人を乗せたエレベータは、確かに5階で止まった……。
「……あ、見てこの看板、全面禁煙って書いてある!」
「ナニ!?」
私の言葉に反応し、智ちゃんの食指が動きました。
「禁煙ならいいかもねー♪」
由紀ちゃんが呼応して微笑みます。
「ねえ、智ちゃん……私、ビリヤードやってみたい……」
「しゃあねーな、待つより良いか!」
「決定―!」
私たちは意気統合して、ロサ会館のエレベータに乗ったのです。