部室争奪戦、初めてのハンデ戦! 6
ブレイク後、飛び散った球の配置は上々。
慎重に取り組めばマスワリも夢じゃない配置。
手球はほぼ台中心に止まり、1番もヘッド側右コーナーに見えています。
まずは1番から取り継げば、ラックを制する事も可能。
ですが、私が構えた先は……。
「ちょ……球輝、何処狙ってんだよ!」
優雅ちゃんが叫ぶのも無理ありません、私が1番を狙った先は、コーナーでなく、ヘッド側短クッションのほぼ中央部でした。
「早速、来たか……」
「なるほど、面白い趣向ね……」
渡会プロから伝授された私の戦術を知る麻耶ちゃんと、勘の良い花音ちゃんが、私のやろうとしている事をいち早く理解します。
知らぬは対戦相手の先輩と、優雅ちゃんだけ。
ですが優雅ちゃんも、私の意図にすぐに気付くでしょう。
私は1番に向かって、フルパワーでショットしました。
「かー、ドそっぽ! ドそっぽじゃん! これだから素人は! もう才能ないよ、ビリヤードなんて今すぐ止めちゃいな!」
私のドそっぽショットに歓喜する先輩は、ワキワキと素振りを繰り返しながら、テーブルに向かいます。
「さー、こんな素人軽く捻って、楽しい賭け球ライフを満喫しますか……て、アレ?」
私はニヤリと笑います。
私が短クッションに外した一番は4番と8番の間に微妙に隠れ、ストレートに当てられない配置になっていました。
先輩は空クッションから1番に当てる事を試みるも失敗。
シュート権が私に移ります。
「ファールです!」
私は釘を刺すように先輩に宣告します。
フリー・ショットを得た私は、1番を入れる事はせず、薄目ギリギリに当てて手球を走らせ、4番の影に手球を置きに行きました。
1クッションした1番は、またしても当てられない配置になります。
「く、こいつ……」
「すみません、先輩……私素人だから、球を思うように入れられなくて……」
頭を下げて謝る私。
勿論、それはわざとやっている事です。
先輩のショットは、またしてもファール。
「先輩、2ファールです」
私が宣告すると、先輩の顔は怒りで真っ赤になりました。
彼女はようやく、私の目論見に気付いたのです。
ですが、気付いた時には全ての終わり。
最終ショット、私の撞いた手球は、またしても的球へのショットラインを妨げる配置に止まります。
そして、先輩のショットは……。
「3ファール、私の勝ち……ですよね?」
ニヤリと笑う私、渡会プロが私に伝授した必勝法とは、徹底的な3ファール狙いの、セーフティ・ショットだったのです。
「てめぇ、ふざけんなよ! ここまでセーフティ組める初心者がいるかよ!」
「だから、ハンデ5をあげたじゃないですか……先輩B級ですよね? B級がビギナー相手にハンデ2貰ってスコ負けしたら、世間は何て言う事か……」
これも渡会プロから教わった戦術でした。
口三味線……わざと相手を怒らせる発言をして、相手の集中力を散らしていく、台の外で繰り広げられる心理戦。
今の所、これは上手く行っているようで、先輩の怒りは頂点に達しているように思われました。
さて、第2ゲームです。
ブレイク権を引き継いだ私のブレイクは絶好調で、ウィングの球を確実にコーナーに沈めていきます。
私は球が素直に狙える時だけ確実にシュートして、その他の場合はいかにトラブルを作るか? どうすれば相手のミスを誘えるかに専念し、球を撞いていきました。
そして試合は進み、スコアは4-2。
最終マッチのブレイク権は、先輩が手にしていました。
先輩もここで負けたら面子が丸潰れ、相手も必死です。
そのブレイクは……。
「チッ!」
ラックは派手に割れましたが、1球もポケットせず……ショット権が私に移譲されます。
ラック・トラップ、ダイヤモンドを微妙に傾ける事で、ウィングの球の入賞率を低くする戦術です。
此処で私は、欲を出してしまいました。
「この配置なら、ひょっとして裏マス取れる?」
「いやいやいや!」
貪欲な感情を押し殺すため、私は必死に首を振ります。
「最後だからこそ、戦略通りに……」
私は落とせる的球をわざと外し、セーフティに持って行きます。
「えげつない野郎だぜ……」
「何とでも……2ファールです!」
フリー・ボールを得た私は、手球と的球を動かし、確実に手球を隠せるよう、細心の注意を払った球運びを実行しました。
最終ショット、苦し紛れのショットをした先輩の球はギリギリで的球に触らず……3ファール・アウトが決定しました。
「ち、えげつない手を使いやがって……」
「勝ちは勝ちです、約束……守って頂けますよね?」
「分かったよ……今後お前たちのやる事には口を出さない」
「ただし、ビリヤードは続けさせてもらう、アンタたちに迷惑はかけないつもりだ……それならいいだろ? なあ、顧問の先生よぉ!」
「分かりました、あなた達からビリヤードを奪う事はしません、あなた方はあなた方で、目指す方向に向かうのが良いでしょう、ただ、こちらの行動に干渉するのは辞めてもらいます」
「分かった……」
葉山先生の寛大な処置で話はまとまりました。
私は、私たちは……勝ったのです!




