部室争奪戦、初めてのハンデ戦! 5
「ゴメン、タマちゃん……負けちまった」
「大丈夫ですよ、麻耶ちゃん……私には渡会プロから教わった必殺戦術がありますから」
心底申し訳なさそうに頭を下げる麻耶ちゃんの瞳の端から、涙がこぼれます。
大丈夫、私が仇を取るから……私のキューを握る手に力が籠りました。
「所で、引き分けの時のあなた方の主張を聞いていなかったわね? アナタたちはどうしたいの?」
葉山先生が問います。
「そりゃあもちろん、部の再開ですよ。舎弟になった後輩相手に5-9三昧、小遣い稼ぎに明け暮れさせていただきまーす!」
「あ、対馬と森田は生意気だから退部ってことで」
そう言って、ニヤニヤ笑う先輩たち。
「分かりました、でもそう簡単に行くかしら……」
葉山先生の瞳がギラリと輝きます。
ひょっとして、先生は私を信じてくれているのでしょうか?
そう思うと、私のやる気に俄然、火が灯ります。
「あの、葉山先生……」
「大丈夫、明日香に習った事を忠実に再現しなさい、アナタなら出来るわ……」
「分かりました!」
葉山先生の励ましを背に、私は試合に臨みました。
「キミ、始めて1ヶ月なんだってねー」
「そんな素人が大将なんて、生意気過ぎない?」
「大人しく負けちゃって、アタシらの舎弟になれよー」
「貢いでくれたら、上達のコツを教えてあげるよー?」
口々に囁きながら嘘吹く先輩たち、私にプレッシャーを掛けようとします。
でも私には、そんな戯言は全く耳に入らず、頭の中を占めていたのは、渡会プロから授かった勝利の方程式しかありませんでした。
「私は……絶対に負けません! みんなが教えてくれたんです、ビリヤードはスポーツだって、憧れの先生だっているんです、彼女のようになりたいって……だから私はビリヤード部を立ち上げ直す……絶対に勝つんです!」
私がいきり立って叫ぶと、先輩たちを掻き分ける様に前に出る一人の少女がありました。
「洗脳された信者が勇ましい事で……キミには現実を教えてあげるよ……で、ハンデは?」
「いりません」
「あ、ナニ言ってんだよ? 私にハンデいくつくれるかって聞いてんだよ」
「は……始めて一ヶ月の私に、ハンデを寄こせって言うんですか!」
「こっちも死活問題なんでね……よろしく頼むわ」
「こいつら……いい加減に!」
「ダメよ、優雅……だめ!」
掴みかかる優雅ちゃんを花音ちゃんが必死に止めます。
私は、私の口をついて出た言葉は……。
「分かりました、5-3で……ただし、ブレイク権は私が貰います」
「ま、妥当な線だね……」
先輩の口元に不敵な笑みが浮かびます。
もはや勝ったも同然という自信……私の努力を否定する薄ら笑い。
こんな相手に、負けるわけにはいきません!
「それでは行きます……第一投……三井・三井・三井・三井・住友・VISAカード!」
渾身を込めて放ったブレイクショットがラックを割り裂き、ウィングの1球をコーナーに沈めました。
「球成り、球成り……」
呪文のように繰り返す私……
えげつないと言われ、友達を無くすと言われた私の戦術が、無法の先輩に向けて、その牙を剥く瞬間がまさに今、来たのです。




