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部室争奪戦、初めてのハンデ戦! 4

3日はあっという間に過ぎました。

先生は勿論、渡会プロ。それにサポートとして大西麻耶ちゃんが付いてくれました。


「これは……」

「うん、何と言うか……」

「下手すりゃ麻耶より上?」

「これが初めて一ヶ月の初心者の入れ!? 信じられない、プライドが揺らぐ!」


二人が頭を抱えて悩む中、私はキューを抱えてキョトンと立ち尽くします。


「あの、タマちゃんさぁ……どこまで見えてるの?」

「はい、的球とポケットを結んだ直線と、その後ろのイメージボール? 程度ですけど……」

「見えてる厚みに迷いなく叩き込む度胸がすごいよ……」

「そんな、私はただ、渡会プロに言われた通り、入る外れるは関係なしに、見えた厚みに手球を当てろ、を実践しただけで……」

「筋が良い上に素直と来たかー! 私なんか、見えた厚みの疑いを晴らすのに半年も掛かったのに……」

「でもまぁ、この調子ならアレを教えてもよさそうだね」

「アレって……アレですか?」

「初心者がB級を負かすんだよ? アレ意外に何があるっての?」

「あの、お二人とも……アレってなんなんですか?」


会話に付いて行けない私は、お二人が何を言っているのか、さっぱり分からずにキョロキョロするだけ。


「でもアレはえげつないですよ……友達無くしますよ?」

麻耶ちゃんが言います。

「確かに、でも今回の場合は友達相手じゃないんだよね? なら良いんじゃない?」

「なるほど、それは一理あります!」

「あの、お二人とも何を……」


私が問いかけると、お二人は悪魔のように凶悪な目をして、私に笑いかけました。


「念のため聞くけど、今回の試合相手は、嫌な奴なんだよね?」

「はい」

「仲良くなんかしたくないんだよね?」

「はい」

「できれば負かして凹ませてやりたいんだよね?」

「はい!」


渡会プロの矢継ぎ早の質問に、私は決意したように「はい」で応えます。


「なら決まり、残りの3日、タマちゃんにはストロークの力加減を徹底的に覚えてもらいます」

「それだけ? それだけで格上相手に勝てるんですか?」

「9ボールにはね、9番を落とさなくても勝てる戦術があるのよ」


渡会プロと麻耶ちゃんがニヤリと笑います。

その笑顔に隠された凶悪性を、私は程なくして理解することになったのでした。


そして迎えた、月曜の放課後。

校庭の片隅に建つプレハブ小屋に、私達4人と不良先輩4人が集まります。

そして、葉山先生も……。

試合順番は、4人で話し合って決めました。

第一試合は対馬優雅ちゃん、第二試合は森田花音ちゃん、第三試合は大西麻耶ちゃん、そして最終試合は私、小川球輝が相手を努めます。

とにかく先手を取って、相手のメンタルにプレッシャーを掛ける作戦……果たして上手くいくのでしょうか?


「さあ、まずは私が相手だ……さっさとバンキングしようじゃないか」

「ちょっと待って……まずはハンデを決めようよ」

「ハンデ?」

「そう、ハンデ。史上最強B級戦のタイトル・ホルダー相手にハンデなしなんて、C級の私には辛すぎるっしょ!」

「お前がC級?」

「そう、私たち全員、賭け球が好きなC級プレーヤーだよーん」

「お前ら……」

「やだ、対馬ちゃん怖―い! もっと優しくしてー!」

「……」


このやり取りを唯一冷静に見つめていたのは花音ちゃんでした。


「優雅、相手の挑発に乗っちゃダメだよ……」

「ああ、すまない……話は分かった、どれくらいハンデが欲しいんだ?」

「もちろん、3-5でお願いしまーす」

「私はB級だぞ? 4先で良いだろう?」

「やだ優雅ちゃん、せこーい! 実質A級なのに、Bのハンデ欲しがるなんて―」

「こいつ……!」

「優雅!」


殴り掛かりそうになる優雅ちゃんを制止する花音ちゃん。

二人はこうして、今までも助け合って成長していたんだ……。


「分かったよ、5-3で良い、さっさとバンキングしようか」

「ブレイク権も、貰えないかなー?」

「おま……いい加減に!」

法外なハンデを吹っ掛けた挙句、ブレイク権までねだる図々しさ。

相手の目的は分かっています。絶対的強者である優雅ちゃんのメンタルを揺さぶり、冷静さを欠いた優雅ちゃんの隙を突いて勝ちをもぎ取ろうとする、卑劣なまでの心理戦。

逆に言うと、彼女が勝ちを収めるには、その心理戦に勝利するしかないのです。


「いいぜ……お前の条件、全部飲んでやる、さっさと始めな」


優雅ちゃんの表情から甘さが消え、勝負師の顔になっていきます。

そして、相手のブレイクが終わると誰よりも厳しい眼光を放つ瞳で台の状況を瞬時に切り分け、勝利の方程式を組み立てました。

何故ならあそこまで愚策を弄して獲得したブレイクショットで、相手は一個の球もポケットすることが出来なかったのですから。

球を撞く権利を引き継いだ後は優雅ちゃんの電車道、一気に9ボールまで辿り着き、これをコーナーに沈めます。

そして手球をヘッドスポットのライン以内に持ってくる……賭け球ルールの2出しまでおまけで実現して見せました。



その後、先輩Aは一度として球に触ることなく……5-0で試合を終えました。


「お前の負けだ……失せろ」

「く!」


優雅ちゃんの睨みに気圧された先輩Aが心底悔し気に引き下がります。


第2試合は、花音ちゃんの出番です。


「私はB級だから、4先で良いわ。あなたはC級、3先&先制ブレイク希望なのでしょう? 受けてあげる」

「余裕ぶっこきやがって……見てろ、吠え面かかせてやる!」


またしてもブレイク権を奪われた我がチームは、相手のペースに呑まれた……と思いきや。


「どうしたの、アナタの番よ? はやくしなさいな」


相手の球運びは完全に詰み……何をどうやってもネキストに繋げない窮地に陥っていました。

結局、相手の一打はファール。

それをフリーボールで引き継いだ花音ちゃんが的球を順調に取り次ぎ、勝利を収めました。

試合内容は攻防一体を実現する花音ちゃんが相手を翻弄し、最終的には9番を沈め、4-0で勝ちを決めました。


渡会プロの予測通り、序盤の2試合は私たちが取りました。

そして、3戦目、大西麻耶ちゃんと先輩Cの試合……バンキングを相手に取られました。

麻耶ちゃんは慎重にラックを組みましたが……此処で大きな不幸に見舞われます。


「ブレイク・エース……だと!?」


何と言う事でしょう、麻耶ちゃんのラックを割り裂いた先輩のボールは、9番を右コーナー・ポケットに沈めました。


「ラッキー!」

「畜生……こんなことってあるかよ! 私も活躍したかった!!」



ブレイクエースで出鼻をくじかれた麻耶ちゃんは、調子を崩されたまま3-2まで追い詰められます。

そして最終ブレイク……穴前に残った9番を相手に取られてしまいました。

すべてが後の祭り、麻耶ちゃんが沈んだ事で勝敗は2対1。

必然的に、この勝負の行方は、私にかかってきたのでした。


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