部室争奪戦、初めてのハンデ戦! 3
「まずはUS9ボールのルールから解説しよっか」
「ラックはダイヤモンド型……1番を先頭に、中央に9番、後の配置は自由だからね?」
「狙う球は一番若い番号の球、球を外すまでオフェンスが続く……途中でも9番を落とせればその時点で勝ちが決まるから」
「分かりました……」
9ボールなら、以前やった事があります。
初心者にはとても難しく、何時間もかかる競技……。
「じゃあ、ブレイクして見て?」
渡会プロに言われ、私はおずおずと手球をヘッドスポットに置きます。
「はい、ダメ―!」
「え、でも……ブレイクって、ヘッドスポットからするんじゃないんですか?」
「ボーラードはね……でも9ボールはレール・ブレイクが基本なの、麻耶? やって見せてあげて」
渡会プロはそう言って、麻耶ちゃんにブレイクするよう促します。
「了解! いい? タマちゃん、9ボールのブレイクは……こうよ!」
「はわわー、ダイヤモンド後半の2個がコーナーに入った!」
麻耶ちゃんの力強いブレイクによって、9個の球が台上を縦横無尽に転がり、二個の球がポケットに沈みました。
「しかも手球はフットスポットでしっかり停止、次に繋げる位置にある!」
「これがレール・ブレイク、9ボールの基本中の基本よ、やってみて」
「はい……」
渡会プロに促され、私はぎこちない仕草でレール・ブレイクに臨みます。
「ブレイク・ショットとその他のショットで決定的に違うのは目の運び方よ? 普段のショットは的球の厚みに集中するけど、ブレイク・ショットだけは手球の撞点を睨め付けるの」
「はい!」
「慣れないうちは強く撞こうとすればするほど、上体が上ずっちゃうから、狙う撞点は低めに、球一個手前を撞くような気持ちで……ラシャをえぐる様に撞いて」
「あの、素振りはどうしたらいいんでしょうか?」
「ストロークのタイミングは、三井・住友・VISAカードよ、心の中で唱えて」
「は?」
「冗談みたいだけどね……なぜかこれが一番しっくり来るのよ」
渡会プロが照れ臭そうに笑います。
「分かりました……」
私は手球を右サイド長レールギリギリに置き、レール上にブリッジを組みます。
そして、ストロークを開始しました。
「三井・三井・三井・三井……三井・住友・VSAカード!」
力を込めたストロークで手球の下を掬うように撞き出すと、重い感触がキューから腕に伝わってきます。
ドッゴォォォォォン!
私の撞いたブレイクショットは、重い轟音を伴って1番ボールに当たり、反動で少し後退した所でぴたりと止まりました。
的球は台上を走り廻り、ラックを組んだ後半の球のうち一個が、左コーナーに沈みました。
「ん、上出来!」
渡会プロが親指を立ててウィンクします。
「あ、有り難うございます……」
「まずはブレイク権を取る事、そしてブレイクで1個以上球を落とすことが勝利への第一条件だから、しっかり覚える事!」
「分かりました、でも私、ジャンケン弱くて……」
「は? ジャンケン?」
「あの……ブレイクってジャンケンで決めるんじゃないんですか?」
「おお……そこからかよ……」
渡会プロが目頭を押さえて天を仰ぎます。
仕方ないじゃないですか! 私は初心者なんだから!
「あのね、タマちゃん。ブレイク権を決めるのは、バンキングだから……」
渡会プロがキュー先で球を散らし、手球をフットスポットに置きます。
「こうしてヘッドライン上に球を置いて、奥の短クッションに向けて真っ直ぐ撞く……」
「そして帰って来た球が手前の短クッションに近い方が勝ち……ブレイク権を取れるの」
「あ、そうなんですか……」
「……やってみる?」
「はい!」
渡会プロに言われるまま、私はバンキングに臨みます。
重要なのは力加減……強過ぎず、弱過ぎず、何より真っ直ぐ、手球が返る強さを予測して撞きます。
「うん、悪くはないかな……でもこれで主導権を取れるかというと……」
「厳しいですか?」
「少し弱いね、バンキングのコツは手前短クッションに当たってナンボだから……まあ、相手にも依るけどね、賭け事しかしない相手なら、十分主導権を握れると思うよ?」
渡会プロの言葉に、少しだけ勇気づけられる私。
「でもなー、むしろバンキングに負けた時から覚える方が良いかもなー」
渡会プロはそう言って、ラックを組み直しにかかります。
9ボールは難しい競技です、初心者は負けるのが前提。
その窮地を逆転する術を、渡会プロは知っている。
教わっただけで実現できるかは分かりませんが、知ると知らぬとでは大違いに他なりません。
私のデータバンクに、次々とインプットされる情報……それらを総動員してわずかな勝ち目を手に握る……無茶かも知れませんが、今の私には、それしかないのです。




