タマちゃん、球の重力に囚われる!:1
春3月……私、小川球輝は、運命の瞬間に立ち会おうとしていました。
平成30年度、私立郁鷲館女子高等学校、合格発表の日……。
「3143番……3143番……」
私の眼は掲示板の数字を目玉だけ動かして走査します……そして、見つけました!
「あ……あったー!!!!」
ありました……ありました……3143……私の番号!
「やったな、球輝!」
「合格おめでとう!」
一緒に発表を見に来てくれた親友の智ちゃんと由紀ちゃんが抱きついてお祝いしてくれます。
「ありがとう! でもこれで、4月から離れ離れだね……」
二人は一足先に都立高校に進学を決めました。
小学生から続いた仲良し3人組は4月からは離れ離れになってしまいます。
夢にまで見た女子高に進学するのは私だけ……寂しいけど、期待もあります。
「気にすんなって、永の別れじゃあるまいし……週末は一緒に遊ぼうぜ?」
「そうだよタマちゃん……夢が叶ったんだし、女子高ライフを満喫しないと!」
「そうだね、本当にそうだね……智ちゃん、由紀ちゃん、ありがとう……!」
私は泣き出してしまいました。
感極まると涙が出るって、本当なんですね……。
「じゃあ、全員進学を決めた事だし……」
「パーッと遊びに繰り出しましょう!」
二人が私の背中を押します。
「うん! この日の為に、お小遣い全部持ってきた……豪遊だ!」
私は満面の笑顔で頷きました。
私立郁鷲館女子高のある豊島区要町から一番近い繁華街は、池袋の北口です。
飲み屋やパチンコ屋が軒を連ねる、お世辞にも健全とは言えない街。
その一角に、池袋ロサ会館はあります。
地上8階、地下3階。
地下には映画館、地上にはゲームセンターや漫画喫茶、ボーリング場やダーツ場、インドア・テニスなどの設備がある、総合アミューズメント施設です。
「今日はここ、池袋ロサ会館で遊びます!」
ビルの象徴である薔薇のマークを指さしながら、智ちゃんがニカッと笑います。
「はい! 智ちゃん大佐、我々は何をして遊ぶでありますか!」
由紀ちゃんが手を上げて、ノリノリで質問します。
「いい質問だ、ユキ軍曹……」
智ちゃんが鼻を鳴らします。
「まずはボーリング! 鬱積した受験のストレスをボーリング・ピンと共に破壊する!」
「おー……」
私は期待の溜息を洩らしました。
「そしてダーツ! 高校生活で理想の男子のハートを射抜く訓練をする!」
「お、おお……」
由紀ちゃんの頬がほのかに紅潮し、眼に真剣な炎が宿ります。
「そして最後はカラオケで歌いまくる……完全デトックス・コースだ!」
「ブラボーです大佐、全くブラボーです!」
私と由紀ちゃんは、指揮を執る智ちゃんに、心からの拍手喝采を送りました。
「では二人とも……行くぞ!」
「おー!」
智ちゃんの号令一下、私たちはロサ会館のエレベーターに乗り込みました。
……その時は分かっていなかったのです。
これから先、私の青春を根本から変える、あんな事件が起こるとは……。