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振り、厚み、スロウ……ボーラード大特訓!:7

「さっきは危なかった……」


第一フレームのブレイクを思い返し、私は背筋の凍る思いをしました。


『いい? これだけは約束して……ボーラードでは絶対にスクラッチしない!』


ボーラードで手球をスクラッチすると、手球がヘッドライン以内の範囲にしか置けません。

その上、フットラインを越えた球しか狙えなくなるため、難易度が格段に上がります。


第一フレーム目では緊張のあまり、ブレイクの的球100%が出来ませんでした。

私は深く深呼吸すると、眼力の最大限を使って第二フレームのラック最前線100%を睨みつけます。


「角度良し、撞点良し、力加減良し、後は……集中!」


私が放った球は10個の玉を割り裂き、手球は一瞬前進してすぐに停止……所謂「押し止め」の状態で止まりました。


「ふしゅー……」


自然とため息がもれます。


対馬さんたちの期待、そして厳しい視線を送る葉山先生に気圧されながら、私は第二フレームを順調にこなし、6個の球をポケットしました。


そして……ペースを崩したり、持ち直したり、感覚が狂ったり、正気に戻ったりしながら、何とかアベレージ4点を維持し……38点で最後のフレームを迎えました。


「球輝……あと2点だ、頑張れ!」

「球輝さん、お願い!」

「行け―! 球輝!」


級友たちの励ましに支えられ、私のメンタルは最大級の集中力を発揮します。


そして、ブレイク……その瞬間!


カターン!


部室の床から、意図しない音が響いたのです。


「し、しま……!」


気付いた時にはもう遅い……ショットの手元が狂い、厚みと撞点を間違えた手球が、サイドポケットに沈んでしまった……。


音の発生源は、葉山先生……部室にあるキューを倒し、わざと音を立てたのでした。


「先生、何で……」

「この程度の事で集中を切らす選手は要りません……」


先生は目を伏せたまま、淡々と語ります。


「先生、ずるいよ!」

「悪質です!」

「そんなに私たちにビリヤードをさせたくないんですか!」


「ええ、そうよ……アナタたちは良い子だから……ビリヤードに汚染させたくないないの、たとえどんな手を使ってもね……」


私の努力を否定する葉山先生……でも、そうするだけの理由が彼女にはあると、私は理解しました。


「先生……私、この2点を取りますから、約束は……守って下さい」

「それは勿論、そのつもりよ……でもこの配置、アナタに出来るかしら?」


ブレイク後の配置を改めて見直すと、何と言う事でしょう……10個もの球が散らばっているのに、スクラッチによって強制的にヘッドライン以内に移された手球が素直に入れられる球は、一個もありませんでした。


「もう、手はないのかな……憧れのお姉様まで、あと一歩の所まで迫ったのに……始まらずして、終わっちゃうのかな……」



私が全てを諦めた時、プロの言葉が甦ります。


『どうしても入れられない配置になっときは、イチかバチか……この感覚を覚えておきな?』


それは縦バンク、コーナーへのバンクショット……私は入れる目的のコーナーの真逆に角度を測ると、構えます。


「これでダメなら……いいや、ネクストは考えない……私の球、行ってこい!」


的球はバンクすると、右手前のポケットに吸い込まれていきました。


「これで39点……後は!」


最後の一球……私は頭脳と経験とアドバイス、今まで得たモノを総動員して、未来を拓く道を探します。


そして、最後の一球……。


「ふ……負けたわ、アナタには……」


葉山先生が瞳を閉じました。


最後の一球、40点目はヘッド寄りの右コーナーに沈みました。


私は…私は勝ったのです!


「じゃあ、じゃあ!」

「全員、入部届を提出しなさい、アナタたちの未来は、私が拓いてあげる」

「葉山先生……ありがとうございます!」


試験に合格し、私は心の底から葉山先生に頭を下げました。


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