その捌―信じる心―
――それはまだ恭徳が仲間に入る以前のこと、龍雲院にいた龍二に会った一同は、鴛鴦からの伝言を伝え、一緒に戦って欲しい事を告げた。
それを聞いた龍二は静かにこう答える。
「確かに今の世は激動の渦の中にいる。悪がのさばる世の中であっていいはずはない。そこは利害が一致している。行動を共にしてもいいだろう……」
予想外にもすんなりと受け入れた龍二に、綾人は安堵した。
「本当か! やったー! なんだ~丈さん、龍二は難関だとか言っといて全然じゃないか。じゃあよろしくな! 龍二! 今日から俺達の"仲間"だ!」
その時、龍二が眉を吊り上げると、口端を引き上げ鼻で笑った。
「"仲間"? ふん……笑わせるな。俺は手を組むだけで、仲間になどなったつもりはない。俺がこの世で一番信用していないものは、なんだと思う? "人"だ。人は所詮、自分中心にしか考えられない。どう頑張っても、誰かの為に何かをしようとしても、結局は一番自分が大切なんだ。最後には相手を平気で裏切る。人の心などそんなものだ。 人の心ほど信用出来ないものはない。だから俺には仲間などいらない……!!」
そう言って立ち去ろうとする龍二を健二郎が止める。
「おいおい! お前ぇ! ちょっと待てやー!」
振り返った龍二はひと睨みする。
その瞳の奥には何も映っていない――暗く深い闇のようなものがみえた。
「俺は誰の指図も受けない。それが気に入らなければ、この話は解消だ――」
そんな龍二に、一同は誰も何も言えなかった――
***
「そうだったんですか……あの龍二さんが……確かに冷淡な所はありますが、そんな自分本位な行動をするような人ではなかったですけど」
恭徳が信じられないというように言った。
「そうだな……でも一緒に旅をする内にあいつは変わっていった。口数は少ないが、あいつは少しずつ俺達に心を開くようになったんだ」
「あいつはこの中の誰よりも鞍馬の気持ちを理解してやれる。だからこそあいつは一人であの場に残ったんだ」
恭徳の言葉に隊長二人が言った。
「龍二ならきっと大丈夫だ!! あいつを信じよう……!!」
「せや! せや!」
「はい! 信じましょう!」
綾人の言葉に健二郎と英莉衣も同調する。
「僕も信じます……!! 龍二さんを……勿論……鞍馬さんのことも……!」
「おう!! よく言った! 偉いぞ!! 恭徳!!」
恭徳の言葉に直樹が、恭徳の頭をわしゃわしゃと撫でる。
一同が笑顔に包まれた――
その直後――
突然、地面が大きく傾いたと思った瞬間、ゴォーッという地響きと共に地面が激しく揺れ始めた――
「なんだ!? じっ、地震かっ!!」
綾人達は地面に伏せて揺れに耐える。
しばらくして揺れが落ち着き、顔を上げると、その先に見える山を見て絶句した――
山の上では烏の大群が黒く空を覆い尽くし、至る所では山崩れが起き、幾つも桜の樹がなぎ倒され、抉れた土肌が見えていた……
「おいおい……あいつら大丈夫かよ――おいっ!! 行くぞ!!」
有無を言わさず、綾人達は龍二と鞍馬の元へと急いだ――
いよいよ第壱章クライマックスに向けて
動き出す!!