その漆―涙と月夜―
その晩――健二郎と恭徳は寝息をたてていた。
「うーん……龍二……さん……」
「ちゃ……う……俺……龍二……ちゃうで……」
いつの間にか恭徳は子犬のような
あどけない寝顔で健二郎にぴったりと寄り添っていた。
その隣では安らかな表情で眠る二人を、英莉衣が可笑しそうに眺めていた。
「こいつら……兄弟みたいだな……ホント寝てる時は仲良いのにな……」
そこから少し離れた場所では、綾人が龍二達のいる山を見上げながら座り込んでいた。
「どうした? 眠れねぇのか?」
そこに直樹もやってきて、綾人の隣にしゃがみ込んだ。
「ああ、まあな……」
綾人が片手を額に当て、前髪をわしゃわしゃと掻きながら呟いた。
「はぁ……俺は駄目だな……仲間に手を上げるなんて、隊長失格だな……やっぱり丈さんのようにはなれねぇや……所詮、俺なんて隊長の器じゃねぇのかな……なんか俺……もう……自信ねぇよ…………」
力無く言う綾人に、珍しく直樹が声を荒らげた。
「なわけねぇだろ!! 綾人!! お前がそんなんでどうする!! 大丈夫。お前の真意は恭徳も分かっている。健二郎も英莉衣も龍二も!! 鞍馬だって……分かってくれるはずだ!!」
そして今度は優しく綾人を抱き寄せる。
「一人で全部抱え込むなよ……俺だって同じ隊長なんだからさ……もっと俺や皆を頼れよ……つらいとき支え合うのが仲間だろ……お前は……一人じゃないんだから……」
「直樹……」
「ほら……今だけだぞ……大丈夫だ……他の奴らには言わねぇから」
「うん……」
綾人は直樹の胸元に顔を埋める。
綾人の目から涙がこぼれ呼吸が嗚咽へと変わっていく――
ずっと抑えていた感情が溢れだし、綾人は声を上げて泣いた。
そんな二人の様子を、優しく見守るように、月だけが見ていた。
それはまるで、黒猫の黄色い瞳のように――
***
それから何日も戦いは続いた――
綾人達は毎日、二人のいる山を見上げながら二人を待ち続けた。
――戦いが始まってから十日目。
「なぁ……龍二が入ってきた時のこと覚えてるか?」
突然の綾人の問いに、一瞬驚きながらも直樹が答える。
「ああ、勿論。そういやぁ、あの時も大変だったな〜、鞍馬ほどじゃねぇが、あいつも一匹狼で人に従うような男じゃないから、ホント苦労したな……」
直樹は懐かしいな。というように頷きながら苦笑する。
「仲間になったんはええけど、最初の頃んあいつは、全然俺らの言うこと聞かんで、一人で勝手にどっか行っちゃうわ、けっこう手を焼いたわ〜」
「そうだったな……」
健二郎と英莉衣も入ってきて同調した。
「えっ? どういうことですか?」
ただ一人恭徳だけが、理解出来ずにいる様子だ。
「そうか、お前は確か一番後に入ってきたし、知らないんだな」
「実は龍二も、当初は鞍馬と同じだったんだ――」