表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
S.A.K.U.R.A.~蒼の魂~  作者: 猫人間
【第壱章】七人の侍
7/70

その陸―使命―

 ――反乱から幾日も経ったある日。


 生きる気力すら失っていた鞍馬に、一筋の救いの光が差し込んでくる。


 一人の男が、鞍馬の元を訪ねてきたのだ――


「あんた誰だ……?」


 鞍馬は突然の訪問者に警戒の眼差しを向けた。


「俺は此処から東に七〇里(※二八〇キロメートル)ほど先にある"市原虎の尾"の総長、鴛鴦だ」


 その男は――朱雀の総指揮官、鴛鴦だった。

 鞍馬は警戒の色を緩めず、鴛鴦を睨み続ける。


「"虎の尾"の総長が俺に何の用だ……俺は誰とだって戦うぞ!」

「そんな身体でか? 無理だ。今のお前じゃ誰にも勝てない」

「黙れ!! お前にっ……何がっ……分かる!!」


 鞍馬はよろけながらも腰の鞘から刀を引き抜いて、鴛鴦に斬りかかった――

 が、鴛鴦はさっと身をかわし素手で鞍馬の腕を捻り、刀を払い落とした。


「うっ!?」

「ただ闇雲に刀を振るな! それでは誰も守れない! もっと自分を大事にしろ!! 生きろ! 鞍馬!!」


(………………!?)


 鴛鴦の言葉に、鞍馬は言葉を失った――


「俺はお前を救いに来たのだ……」


 ***


 その後、鴛鴦は鞍馬と共に過ごし、傷ついた鞍馬に手を差し伸べて根気強く心の傷を癒していった。


 その甲斐あって、鞍馬は次第に鴛鴦に心を開くようになった。


 鴛鴦は何度か鞍馬に市原虎の尾へ来るよう提案したが、鞍馬が首を縦に降ることはなかった――


 鞍馬が鴛鴦と過ごし始めて幾日も経ったある日。二人の元に、再びある訪問者が訪れる。


「丈さーん!」


 遠くの方から両手を大きく振って、やってくる一人の男――


「おぉ、鷹寛か……」


 その男は朱雀の一人、滝野(たきの)鷹寛(たかひろ)であった。

 滝野は鴛鴦の隣にいた鞍馬に気付くと、好奇の目を向け駆け寄ると、満面の笑みを浮かべて友好的に話し始めた。


「やあ! 君が鞍馬君かぁ~、話は聞いてるよー! 俺、鷹寛! よろしく!」

「ふんっ……!」


 滝野が手を差しのべるも、鞍馬は顔を背け、その場を離れる。

 他の人には相変わらず固く心を閉ざしたままだった。


「ちぇっ……つれないなぁ~」

「まあまあ、心の傷というのは、そう簡単に癒えるものではないのだろう」


 河豚(ふぐ)のように頬を膨らませ不貞腐れる滝野を、鴛鴦が困ったように微笑みながら宥める。


「そういえば、丈さん。例の"武士櫻"の件、非常にまずい事態になってきました……もはや我々の力だけでは手に負えないかと……」


 滝野が先程とは、打って変わったように、真剣な面持ちで鴛鴦に報告した。


「分かった。すぐに戻ろう。鞍馬……すまないが俺は市原虎の尾へ戻ることになった。なぁ、鞍馬。俺達と共に来る気は無いか? 此処ことなら、お前が離れても我々が守るぞ」


 鴛鴦の問いに鞍馬は、真っ直ぐな目で鴛鴦を見据えると首を横に振る。


「鞍馬……本当にいいのか?」

「お気持ちはありがたいですが、俺は此処を離れることは出来ません。"この場所を守り続ける"こと。それが俺の使命なんです。例え命を落としたとしても」


 鞍馬の意志はどんな岩よりも硬いようだった。


「分かった。お前がそこまで言うなら仕方がないな。だが、決して無理はするなよ! なにかあったら俺たちを頼って来てくれ」

「お気持ちだけ、頂きます」


 鞍馬はそう言い残すと、鴛鴦に一礼し、そのまま森の奥へと姿を消した――


 ***


 綾人から聞かされた、衝撃の事実に皆、言葉を失っていた。


「現在、皮肉にも人の居なくなったこの地は残酷なほど美しい。人の手がないとこんなにも美しいのか――あいつがどんな心境で毎日この桜を見ていたのか、それはあいつにしか分からないが。きっと此処はあいつにとって唯一残された形見なのだろう。だからあいつは今日まで命をかけて故郷を守り続けてきたんだ」


 綾人が一度そこで言葉を止め、瞳を閉じると、その右手の拳を強く握り締めた。


「だが再びこの世が悪に染められようとしている。此処も確実に狙われるだろう……あいつはきっと死ぬまで一人で戦い続けるつもりだ――」


 そしてカッと目を見開くと、仲間達の方を見て、心の底から溢れ出る感情に任せて叫んだ。


「仲間が苦境に立たされようとしてる時、助け合うのが仲間だろ!! 俺達は誰一人欠けちゃ駄目なんだ俺達七人は仲間なんだ!! 仲間の心ひとつ救えないで、何が世界を守るだ!!」


 綾人の迫力に皆、返す言葉を失い

 重い沈黙が流れた――

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ