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S.A.K.U.R.A.~蒼の魂~  作者: 猫人間
【第参章】結
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64/70

その拾弍―茶屋騒動―

第參章、第二幕!!

ドドーンと、開幕ー!!


三代目も歩けば事件に当たる!?

はたまた臣には恋の予感!?

この波乱万丈を見逃すなかれ!!

「あら、綾人さん! また来て下さったのですね!」

「そりゃもう、おりょうちゃんに会う為ならば、何処からだって来るさ〜」


 お茶とみたらし団子を運んできたおりょうに、すっかり鼻の下を伸ばしきっている綾人が答える。これが自分達の隊長なのかと思うと、まともに見ることが出来ない臣なのであった。

 そもそも、彼女とはもう二度と会わない覚悟で、後腐れなく別れたつもりでいたのだ。それを僅か十日足らずで再会するとは。

 羞恥心と気まずさが入り交じって、一刻も早くこの場から立ち去りたい衝動に駆られていた。ただ僅かにも会えた喜びもあって、自分の心境がよく分かっていないのである。

 そんな時、不意におりょうが臣の傍に寄るとそっと耳打ちした。


「またお会いできましたねっ!」


 耳にかかる吐息と甘い香りに、身体中の血が駆け巡り、心臓が太鼓の如く鳴り響いた。


「お、俺は別に、隊長に着いてきただけだっ」


(てか、近ぇし)


 動揺しているのを悟られないように、そっぽを向く臣。


「そうですか……けれど私は、お会いできて嬉しいですけどね」


 おりょうはそう言って、去り際に片目を瞬いてみせると足早に行ってしまった。


「ったく、何なんだよ……」


 彼女が去っても尚、甘い香りは残ったままだ。

 臣は無意識のうちに首の後ろを掻いた。まるで走ってきたかの如く心臓の心拍数は上がっている。

 頭の中ではずっと、彼女の言った”嬉しい”という言葉が繰り返し再生されているのだった。


「ふーん……」


 気が付けば、向かい合わせに座っていた綾人が頬杖を付きながら、意味深な顔でこちらを見ていた。


「なんすか?」

「べーつーにー、美男子はモテて得ですな〜」

「いや、そんなんじゃないですから」


(あんたが連れて来たんだろ)


 少しむっとした様子で臣は茶を手に取り啜ると、問いかけた。


「というか、この為にわざわざ遠出してきたんですか?」

「あん時きゃ、ゆっくり出来なかったしな。それに美味い物は遠出してでも、食えって言うし!」


 そう言いながら綾人は目の前のみたらし団子に手を伸ばし、口いっぱい頬張る。


「いや、あの()を見たかっただけでしょう」

「うぐっ!」


 その瞬間、団子を喉に詰まらせ咳き込む綾人。どうやら図星のようだ。


「べ、別に良いじゃねぇかよ! 俺の"奢り"だし!」


 またも"奢り"の文字を強調する綾人に、臣は苦笑を浮かべるしかなかった。馬代も出して貰っている手前、何も言い返せないのだ。

 そして綾人はお茶を流し込み一息吐くと、急に真面目な顔になった。


「まあ……それはともかく。一度、お前とちゃんと話をしたくてな」

「話……ですか?」


 綾人のいつになく真剣な表情に、自然と臣の背筋が伸びる。


「臣、お前。これからのこと、真面目にどう考えてんだ?」

「これから、って……」

「お前も分かっていると思うが、現在三代目としての任務は日に日に減ってきている。だから皆、各々で活動しているよな?」

「はい……」

「勿論、生活費の為もあるだろう。だがそれだけが理由ではないと思う。皆、自分の夢の為に、少しずつ歩み出しているんじゃないか? "あの日"語り合った"夢の話"を……」


 満月の熱帯夜、頭上に降り注ぐように輝く満天の星。記憶の中から、光景が激しい光を浴びせられたように、瞼の裏に浮かび上がった。


「そう、ですね……」


 目を伏せて歯切れの悪い口調で答える臣。


「お前の夢も、無論仲間としては応援してやりたい。だけど、その為にはどうすればいいのか。お前は真剣に考えたことはあるのか?」

「…………」

「厳しいことを言うが、願っているままじゃ、夢はいつまでも夢のままだぜ?」

「分かっています……だけど……」

「金、か……? いや、違うな……」

「…………?」

「自信。だろ? お前に最も足りないものは」


 綾人に何もかもを言い当てられ、臣は黙り込むしかなかった。


「お前の夢は、はっきり言って簡単じゃない。一人で叶えることは容易いことではないと思う……」


 夢は誰かに叶えて貰うものではない。自分一人で叶えるものなんだと。


「そうですよね……」


 ――そう思っていた。


「だからこそ。時には誰かを頼ることも必要なんじゃないのか? 仲間が困っていたら手を差し伸べるし、共に考える。当然だろ、俺達は”家族”なんだから。お前もこの二年間で、よく分かっている筈だろ。だから、もっと俺達を頼ってきて欲しいんだよ……」


 そうだった。例え泣きたいくらい疲れ果てて挫けそうな時でも、手を伸ばしてくれる仲間が居る。一人じゃない。

 一人で考えても出ない答えは、共に考え共に導き出せばいい。

 思い返せば俺のこの夢も、”あいつ”が気付かせてくれたものだったというのに――


「まあ、俺じゃ頼りないかも知れないけどな」

「はい」

「はいって、はっきり言うなっ!」


 綾人が身を乗り出し臣の頭を軽く叩いた。臣は叩かれた頭を擦りながら同時に吹き出したように笑みが零れた。


「ようやく笑ったな……」

「えっ?」

「近頃お前の笑った所なんて、見てなかったからさ。まあ色々あるだろうが、笑ってりゃ案外何とかなるもんだよ」


 何とかなるのかはさておき、確かに幾分気持ちは軽くなったような気がする。

 一人でただ抱え込んで乗り越える未来さえ、笑い飛ばしてくれる仲間が居れば大丈夫だ。

 そして何気に自分のことを気にかけてくれていた綾人に感謝したのだった。

 臣は真っ直ぐな瞳で綾人の顔を見ると口を開いた。


「綾人さん、俺――」


 ――ガシャーン!!


 突然の耳をつんざくような騒音に思わず二人は目を向けた。


「お客様困ります!」

 

 声を上げたのはおりょうだ。机を一つ隔てた席で、見るからに柄が悪い三人の男達に絡まれている様子だった。


「おいおい、姉ちゃん! 俺達の相手出来ねぇって、どういうことだよー?」


 冬の最中だというのに肩の所まで捲りあげた袖に半猿股。更に爆発でもしたかの如く無造作に広がる黒髪の上から八巻をした奇抜な出で立ちの男だ。

 男は太腿丸出しの両足を机の上に投げ出し、今にも転がり出てきそうな眼球を剥き出して何やら喚き散らしているのだった。


「ですから、同席はお断りしております。ここはそういうお店ではありませんので」


 そんな男相手にも毅然とした態度を取り続けるおりょう。


「なんだよ! いいじゃねぇかよ! こっちは客だぞ! おい、帆立(ほたて)。この(あま)こっちに座らせろ!」


 八巻男に言われ、帆立と呼ばれた男がおりょうの腕を掴んだ。見るからに人相の悪い面に、禿げ上がった頭が輝いている。


「ほら、こっち来いよ!」

「離してください!」

「ああ? お前、俺達の顔に泥塗ろうってのか! いいか、俺達は隣街の蜂須賀(はちすか)ではその名を知らぬ者は居ないほど有名な盗賊……」


 そう帆立が言った時、八巻男がそれまで両足を乗せていた机を蹴り倒した。

 そして巨大な眼を更にひん剥いて立ち上がると、おりょうの目の前ににじり寄る。


「空前絶後のぉォォォォー超絶怒涛の盗賊! 盗賊を愛し、盗賊に愛された男ぉォォ! そう我こそは、海猫(うみねこ)一味……(みな)(かみ)!! イエエェェー!!」


 異常なくらい高揚した奇声に、皆思わず耳を塞ぎたくなるほどだった。


「あの、お客様……他のお客様のご迷惑になりますので……騒音はお控え下さい」

「んだとてめぇ! この俺の美声を騒音とは、舐めた口聞きやがって!! おい! 帆立! 大島!」

「"三島(みしま)"だよ!!」


 すぐさま、もう一人の男が叫んだ。他の二人と比べると大して特徴の無い薄っぺらい顔だった。

 この三人、中身は薄っぺらいが、声だけは異常なほどでかい。


「おら! 大人しくしやがれ! この店で暴れたっていいんだぞ!」

「ほら! こっち座れ!」

「い、痛っ! は、離して……」


 帆立と三島に両腕を強く掴まれ、おりょうは思わず顔を歪めた。


「こいつは中々、活きのいい(あま)だな! そういう女は嫌いじゃないぜ?」


 八巻男こと水上(みなかみ)は、おりょうの顎を掴み巨大な眼を必要以上に動かして舐めるように見回した。

 他の客は関わり合いになりたくないのか、見て見ぬふりをしている。


「――お、おい……臣ッ」


 そんな中、一人臣は立ち上がると、綾人が止めるよりも前に、男の傍に歩み寄って行った。


「――嫌がってんじゃん」


 臣は水上の腕を掴むと低い声で言った。


「あ? なんだてめぇ! 部外者がしゃしゃり出てんじゃねーぞ!」


 水上はおりょうから手を離すと、今度は臣の胸ぐらを掴んで引き寄せた。水上の唾が盛大にかかるも、臣は水上を睨んだまま微動だにしない。


「なんだその目はぁ!! 大体な! 客が店の(あま)をどう使おうが勝ッ――」


 ――バキッ!!


 と、最後まで言い終わらないうちに、水上の顎に臣の拳がめり込んだ。

 水上はその衝撃で吹っ飛び、深海魚のような白目を向いて仰向けに倒れた。


『水上ー!!』


 帆立と三島は同時に叫ぶと、咄嗟に掴んでいた手を離し、水上の元へ駆け寄った。両腕を開放されたおりょうも、その惨事に思わず口を覆った。

 他の客からも悲鳴が上がり、辺りは一気に騒然となった。


「うわぁ〜、やっちまった……」


 最悪の事態に綾人は分かりやすく頭を抱え込んだ。


「て、てめぇ! よくもうちの奴を、やってくれたな!! 」


 帆立が喚いたが、それを睨み付けた臣の眼は、見た者を凍り付かせる程の迫力だった。


「――ひいっ!」


 その覇気に怖気ずいた帆立は、思わず後退りすると叫んだ。


「うおおおおぉああぁ! 覚えてろよ! 行くぞ! 田島!!」

「"三島"だよ!!」

「畜生! 今日はなんて日だ!!」


 そして気絶している水上を二人で抱えると、慌てて店から飛び出して行ったのだった。

本日(投稿日)は平成最後の日!!

我々の時代が終わってしまうのか……(←平成生まれ)

少し寂しいけど、ありがとう平成(´;ω;`)ウゥゥ

そして、令和でもよろしくお願いしますm(*_ _)m

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