その肆―退却―
誰もが息を呑んだとき――
――キーン!!
金属音と共に鞍馬の刀が止まる。
(…………!?)
「なに動けねぇ奴狙ってんだよ……てめぇ――」
「龍二!!」
恭徳に覆いかぶさるように龍二が瞬時に己の刀で、鞍馬の刀を受け庇ったのだ。
「お前は――?」
「俺は衣笠龍二」
「衣笠――知ってるぞ。その名」
鞍馬が振り下ろしていた刀を離すと、龍二を見据えたまま、ゆっくり右横へと足を滑らすように移動する。
「お前の噂はよく耳にする。かなり腕の立つようだな」
そう言いながら龍二は、鞍馬を見据え同じく右横に移動する。
「お前も、風の噂でな。お前もかなりの腕だと聞くぞ」
そう答える鞍馬のその瞳は、好奇心の光が宿っていた――
「いい機会だ。ここは俺とお前の一騎討ちで勝負したい。だから他の奴らには手ぇ出すな」
龍二の言葉に鞍馬は一瞬、眉を釣り上げたが、すぐにまた戻し、頷いた。
「ああ、分かった。俺とお前どちらが上か――」
「はっきりさせようじゃないか――」
二人の間で火花が散る――そうみえた。
そして龍二は綾人の方を見て言った。
「隊長!! この場は俺に任せてくれませんか?」
「龍二――!?」
(いくら龍二でも、この場で一人にさせる訳には……)
戸惑う綾人に、龍二が真っ直ぐに真剣な瞳を向けて言った。
「大丈夫です……!! 必ずこいつを説得させて連れていきますから。俺を信じて下さい……!!」
(これは、相当な覚悟だ――俺達が居たらかえって邪魔になるな……)
「龍二……っ……分かった! だが、無理はするなよ! おい!! お前ら!! ひとまず退却だ!!」
綾人が残りの五人に向かって叫んだ。
直樹が動けない恭徳の元へ駆け寄る。
「恭徳!! 大丈夫か!?」
直樹が恭徳を背負って立ち上がった。
「はい……でもまだ龍二さんが……!?」
「ここは龍二に任せろ!!」
「そんな――! 嫌だ!! 龍二さん!!」
抵抗する恭徳に構わず、直樹は走り出す。
「おっ、おい! 本当にええのか?」
「仕方ないです……この場はひとまず任せるしか――」
英莉衣と健二郎もその後に続く。
「待って!! 龍二さんが!! 龍二さーん!!!!」
直樹に背負われ、それでも龍二の名を叫び続ける恭徳に綾人が叱責する。
「恭徳!! 龍二を信じろ!!」
そう言う綾人の目も少し涙目になっていた。
本当は綾人だって龍二が心配で堪らない。
しかし、隊長である自分がしっかりしなければならないのだ。
恭徳に言った言葉は、自分自身に対して放った言葉でもあった――
綾人は何度も振り返りそうになるのをグッとこらえて走った。
(必ず無事でいてくれよ!! 龍二――!!)
綾人達は後ろ髪を引かれる思いでその場を後にした――。
話によって文の長さが不規則ではございますが、何卒ご了承くださいm(_ _)m
なるべく揃えるように頑張ります!