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S.A.K.U.R.A.~蒼の魂~  作者: 猫人間
【番外編】三代目は愉快だな
42/70

俺らの名は。(後編)

※注、二人は入れ替わっています。


俺:鞍馬武臣(見た目は龍二)

衣笠龍二(見た目は臣)


よって、一部キャラ崩壊しています。

苦手な方はUターンを、覚悟を決めた方はそのままお楽しみ下さいw

 俺が帰路に就いたのは、既に日が暮れた頃だった。


 疲れた。

 今日の感想を述べるとしたら、その一言に尽きる。


 帰ったら、少し早めではあるが、寝るとするか。

 色々と忘れたい記憶も、一つや二つ……


 そんな思いを巡らせていると、ふと遠目に見覚えのある人物が見えた。


(あっ! 鷹寛さん!)


 間違いない。

 あの街灯の下に照らされた茶髪と、内から溢れ出る軽薄さは、あの男以外に居ない。


 そうだ今こそ。

 今こそ、あの今朝の出来事の誤解を解かなければ。


「鷹寛さん!」


 俺は鷹寛さんの元へ駆け出して行く。


「お! 衣笠くんか!」


 俺に気付いた鷹寛さんが足を止めた。


「あの今朝のことなんですが――」

「いや、いい。何も言わなくて」


 俺の言葉を遮るように、鷹寛さんが右手で制止した。


「今朝はつい、あんな態度を取ってすまかなった。俺は今、非常に自分を恥じているところだよ」


 そう言って鷹寛さんが、俺の両肩に手を置いた。


「大丈夫。あのことは誰にも話していないよ。だから安心して」


 そうか。良かった。

 口の軽い鷹寛さんのことだから、てっきり誰かに話しているかとばかり。

 少し鷹寛さんのことを見直した。


「大丈夫。君は君の選んだ道を、進んで行けばいいんだよ」


 ん? 何を言っているんだ、こいつは。


「男とか女とか、愛の定義にそんなものは関係ない。君は君だ。君の生きたいように生きればいい」


 前言撤回。

 やはりこいつは、非常に不味い誤解している。

 生かしてはおけぬ。


「じゃ!」


 そう言って奴は、爽やかな笑顔で颯爽と去っていく――


 ――じゃ! じゃねーよ!


(おい! ちょっと待てぃ!! 鷹寛ぉぉぉぉ!!)


 慌ててその後を追うも、またも奴は煙の如く姿を消したのだった。


 また逃げられた――


 ***


「――龍二! 龍二!」


 突然、頭の中で響く声と共に、身体を揺さぶられている感覚。


「んっっ……ん……?」


 寝ぼけ眼で、薄らと目を開けると――暗がりの中に、ぼんやりと映し出された、綾人さん?


 何故、綾人さんが此処に?

 まだ夢を見ているのだろうか。


「龍二! やっと起きたか! すまないな。就寝中に……」


(あ、そうか。俺、龍二だった)


 そういえば、あの後、自分の家(正しくは龍二の家)に帰ってくるなり、着替えもせず電池が切れたように布団に倒れ込んだのだった。


 それにしても、一度寝ても戻らないとはな。


 軽い絶望を味わいながらも、そういえば、何故か綾人さんが居ることを思い出し、俺は上体を起こした。


「――実は緊急の要請があってな……よし、どうやらお酒は呑んでないみたいだな。良かった。先を急ぐんで説明は現場に向かいながらだ!」


 そう言う綾人さんは、切羽詰まった様子で、説明もままならない状態で、俺は外に駆り出されたのだった。


 月明かりの下、俺は綾人さんに連れられるがままに、夜の街中を走っていた――


「――実は"新珠(あらたま)"が護送中だった凶悪犯が脱走してな。新珠(あいつら)は新人だからな。舐められたんだろう」


「新珠」は、俺達三代目侍の後輩に当たる。

 同じく七人構成で年齢も若く、まだまだ新人の侍達だ。


 なるほど。話は分かった。

 しかし、後輩の新珠は凶悪犯の護送ときてるのに、俺達三代目は農業って……


 益々、三代目侍の意義が分からなくなってきたんだが。

 三代目とは何ぞや……?


 ***


 綾人さんに連れられて着いた現場には、既に何人か到着しているようだった。


 今回しくじったとされる新珠七人に、直樹さん、そして俺と同じく叩き起されたらしく、まだ眠そうに目を擦っている龍二(外見は俺)の姿。


 あれ? 何か足りないんだが。

 そうだ。あの三馬鹿トリオは何処へ。


「おい、あの三人組は、まだ来てないのか?」


 俺は隣の綾人さんに聞いてみた。


「ああ、あの三人はな。健二郎ん家に呼びに行ったんだが……行った頃には三人纏めて、すっかり"できあがっちまってて"な。そのまま置いてきた」

「ああ……」


 そういえば、確か帰り道で、田舎から貰ってきた手土産で一杯やる、とか言う話を小耳に挟んだな。

 まあ農作業の後で、しかも突然の要請だったし、無理もないが。

 それにしたって……


(使えねーな……)


 そんなんだから、三代目は農業しか回ってこないんじゃないのか。


「すいません……俺達の責任で、先輩である皆さんにまで、ご迷惑を……」


 その時、新珠の隊長である、白玉亜蘭(しらたまあらん)が今にも泣きそうな顔で、これ以上ないというくらい頭を下げた。

 それに続いて、他の仲間達も頭を下げる。


「おいおい。男が簡単に頭を下げるんじゃねぇ! 大丈夫だ! 弟分の責任は、兄貴分である俺達の責任でもあるからな!」


 そう言って綾人さんが、右手の親指をぐっと立てる。


 流石、直人さん。

 男らしくて、かっこいいぜ。が、

 俺ら色々と背負い過ぎじゃねぇ?


(なんで、新珠の不始末まで俺達が背負わなきゃ……)


 あまり気乗りしないでいると、新珠が俺の目の前にやって来た。


「よろしくお願いします! 兄貴!」


 そう言って、きらきら輝く瞳で見つめてきた。


(兄貴……そうか。うむ。悪くない。悪くないぞ、その響き。よし!)


「おう! 任せとけ!」


 俺もすっかり気を良くしたのだった。


「それに今回は、特別報酬が出るようだぞ」

「報酬!?」


 綾人さんの報告に、即座に龍二が、その瞳を輝かせ反応する。

 

 おい。あからさまに"報酬"って言葉に反応するな。

 しかも俺の顔で。


「今回脱走したのは、無差別人斬りの凶悪犯だ。この街に被害が及ぶ前に、早急に確保してくれ。但しあくまでも確保だ。くれぐれも殺さないようにな! では解散――」


 綾人さんによる説明が終わり、皆、凶悪犯を探しに、各方面に散らばって行った――


 月はいつの間にか、その姿を厚い雲の中に隠していた。

 俺はその真っ暗な街中を駆け回り詮索する――


 いくらまだ遠くへ行っていないとしても、この広い市原虎の尾から一人の人物を見つけ出すのは至難の業だ。


 これは、そう簡単には見つけ出――


 路地裏を曲がった途端、俺はその足を止めた。

 街灯のない真っ暗な闇の中、ジャラジャラと不気味な音をさせる、そいつと俺は目が合った――


(早速、なんか居たぁぁーー!!)


 ***


 間違いない。

 こいつが、その凶悪犯だろう。


 その細い目付きは邪悪な光を宿し、体格は三代目一背の高い直樹さんよりも一回りも大きな男だ。

 そして先程からジャラジャラと言わせている音の正体は、両手に付いた鎖のようだ。

 どうやら、この鎖を引きちぎって脱走したと思われる。


 ――こいつ、見るからに只者ではない。


 出来れば面倒な事は避けたい所ではあるが――


 男はゆっくりと腰のものを抜き、構えた。


 ――ま、そうもいかないわな。


 俺も相手の様子を伺いながら、左腰の刀を引き抜いた。


 龍二の愛刀――確か御室有明(おむろありあけ)と言ったか。

 他人の刀を扱うのは、初めてだが。今は致し方ない。


 ここは成る可く時間をかけず――


(――さっさと片付けっちまおう!)


 間も空けることなく俺は男に突進して行き、刀を振りかぶった。

 が、それは空を斬る虚しい音と共に空振りで終わった。


(――なにっ!?)


 再度、刀を振りかぶる。

 しかし、それも空振りに終わった。


 男はその体格に反して、俊敏な動きだった。

 だが、それ以上に男よりも龍二の方が俊敏性では勝る筈だ。

 が、それは刀が当たらなければ、意味を成さない。


 初めこそ警戒していた男も、相手が大した輩でないと踏んだのだろう。

 男は身を翻すと、刀を振りかぶってきた。


 ――ガキーーン!!


 相まみえた二人の刀が震え鳴く。


「くそっ……」


 龍二の細身の体は徐々に押され始めていく――


 いつもならこんな敵、造作もないのだが。

 慣れない刀と慣れない体で、その力を充分に発揮することが出来ないのだった。


 俺は男と交えた刃を弾くと、狙いを定めようと構え直すが、中々、軸が定まらない。


「畜生!!」


 もはや我武者羅に刀を振り回すが、それは尽く空を斬る音で終わる。

 焦る俺を嘲笑うかのように、刀はかすりもしなかった。まるで主人が違うことを知っているかの如く、刀は逆らい続ける。


 その時、いい加減俺の"お遊び"にも飽き飽きしたのか、男が右手に垂れ下がる鎖をその手に引き寄せると、投げ縄を投げるように放り投げてきた。

 それは俺の刀に、蛇の如く絡みつき、動きが取れなくなった。


(寧ろ、使いこなしてるし!)


 そう思ったのもつかの間、俺の身体がぐっと引き寄せられると、右頬に男の拳がめり込んだ。


「ぐはっ……!!」


 強烈な一撃を食らい、意識が吹っ飛びそうになる。


 それでも男は攻撃の手を緩めることなく、間を入れず今度は俺の腹を目掛けて猛拳を振るってきた。


「ぐっ……」


 衝撃で俺は壁に突き飛ばされる。


 もはや、意識も朦朧としてきた。

 こんな奴相手に、手も足も出ないなんて。

 我ながら情けない――


 絶体絶命。

 そんな言葉が頭をよぎった。


「――おい。仮にも俺の姿で、みっともねぇ面晒してんじゃねぇよ」


 厚い雲に覆われた月が、再びその姿を現した時――その人物を照らすそれは、まるで後光がさして見えたのだった。


「り、龍二……」


 そこに現れたのは、俺の姿をした龍二だった。


 だが、俺の表情の上からでも分かる。

 こういう時の隆二は――本気だ。

 そして、何よりも強い。


「――鼓舞羅(こぶら)!!」


 龍二が挨拶がわりに刀を振るう。

 そこから放たれた、大蛇(おろち)の如くうねる斬波を受けた男が後ろに吹き飛ばされた。


「待たせたな。相棒」


 ***


 俺の二代目となる愛刀、(とら)()を扱う様は、まさに鼓舞しているかの如く華麗であった。

 寧ろ俺よりも使いこなしているのでは。と思う程の見事な剣さばき。

 俺の身体であるにも関わらず、機敏な動きを見せる。


「お前、俺の身体で、よくそこまで動けるな」


 俺は思わず感嘆してしまった。

 そんな俺に龍二が言った。


「お前も相棒の身体のことくらい、"隅から隅まで"知っておくもんだ」


 うん。そう言うと語弊があるが。


 だが、この時ばかりは龍二を頼もしく思えたのだった。


 元々、龍二は身体能力は高い方だ。

 だが、それにしたって、俺の身体は元の龍二と比べると、動きは劣る筈だ。それなのに、ここまでの動きとは。

 柄にもないがここは素直に賞賛せざるえなかった。


 と、龍二に気を取られている間、物音がしてそちらの方を向くと、男が攻撃を食らったのにも関わらず、ふらつきながらも再び立ち上がったのだった。


 あれを受けて尚、立ち上がるとは。

 驚く俺とは裏腹に、再び刀を構え直す龍二。

 こうなることは既に想定済みのようだった。


 龍二は相手から目を離さずに、横にいる俺に語りかけてきた。


「いいか、臣。正直、今の俺らは、普段の半分以下の力も出し切れていない。しかし、二人ならば合わせて一人分の力となる――」


 そして一瞬、俺の顔を見ると、力強く言った。


「それも俺とお前。本気の力をな」


 龍二は再び目線を戻すと、言葉を続ける。


「今朝、お前が言ってただろ。お前は俺だ。お前の中の俺を感じろ」


 龍二の言葉に、俺は電流を浴びたような衝撃が走った。


 そうか。そういうことか。

 今まで俺は、龍二の身体を自分の身体に合わそうとしていた。

 だから上手くいかなかったのだ。


 心は俺だが、身体は龍二なのだ。

 今度は龍二の身体に合わせてみよう。

 俺の中の龍二を感じるのだ――


 俺は胸にそっと手を当ててみる。

 確かに感じる。俺とは別の、もう一人の鼓動。


 俺は今、龍二と"ひとつ"になっている――


(この勝負、いけるぞ――)


 俺は隣の相棒を見ると頷いた。

 相棒(りゅうじ)もまた頷き返した。


 さて、本当の勝負はここからだ。


 ***


 俺達を前に、男は獣のような唸り声をあげると、刀を振りかぶり突進してきた――


 俺と龍二はさっと身を翻し、その猛刀を素早く避ける。

 瞬時に男の隙を見て、俺は刀を振りかぶった――


「――飛炉翔(ひろと)!!」


 威力は小さいが、確かに繰り出された斬波は、男に命中した。

 ようやく、俺の中の龍二と息を合わせることができたようだ。が、


「おい! ちゃんと周りも見ろ!」


 突如、俺を見て怒鳴る龍二。

 その龍二の右頬(つまり俺の右頬)には、一寸程の切り傷があった。


(あ…………)


 やっちまった。ごめん。

 どうやら、まだちゃんとした制御は出来ていなかったみたいだ。


 俺はすぐさま龍二を見ると、両手を合わせ謝る仕草をした。


「ったく、許す!!」


 許すんかい。

 意外と早かったな。

 まあでも、今はそんなことを言っている場合ではない。


 再び体制を立て直した男が、再び突進してくる――

 まるで、闘牛のようだ。


 ちまちまと攻撃を続けていては、キリがないと踏んだ俺達は、互いに見つめ合う。

 言葉は交わさずとも俺達には、これで十分だ。


 俺達はゆっくりと刀を構え直すと、眼の前の男を見据える。

 男が刀を振り下ろした――


龍牙(りゅうが)――!!』


 俺と龍二の最強奥義が炸裂した。

 攻撃を受けて派手に吹き飛んでいった男は、そのまま動かなくなった。


「おい。分かってると思うが……」

「勿論、"峰打ち"だ」


 と、その時、ドタドタと足音が聞こえてきて、綾人さんが駆けつけてきた。


「おお、お前達……どうやら事は片付いたみてぇだな。とりあえず、良かった良かった」


 隊長はいつも遅れてやってくる。定番だ。


 綾人さんは倒れている男の元へ近付き確認すると、その手に再び手錠をかけた。


「それにしても、こいつは運が無かったな。よりにもよって最強の二人相手じゃな」


 綾人さんが苦笑しながら言った。


「いや、こいつは運が良い。何せ本気の俺達を相手に、"一人分"だけで済んだんだからな……」

「…………?」


 俺の言葉に怪訝な顔をする綾人さんを後に、俺達はその場を立ち去ったのだった――


 その後、男を収監場に引渡し、任務は無事に完了した。


 本当に長い一日だった。


 俺は一気に全身から力が抜け落ちるのを感じた。


(流石に疲れた。帰るか……)


 そう思い、足を踏み出そうとした時、目の前に龍二の姿が見えた。


 俺達は互いに歩み寄って行き、無言で互いの手をしっかりと握り締めると、その腕を引き寄せ抱擁した。


 俺の身体の上からでも分かる。

 龍二をはっきりと感じる。

 俺達はそうやって、お互いを確かめ合った。


 龍二とは色々あった。散々困らされもした。

 だけどいざという時には、誰よりも頼りになる。

 俺は龍二が、この男が。

 仲間としても相棒としても――


 大好きだ。


 ***


 その違和感を感じたのは目覚めた時からだ。


 まず何故に一糸纏わぬ姿なのだ?


 確かに昨日は寝巻きを羽織って床についたはず。


 ん? ということは――


 俺はすぐさま上体を起こすと、自分の身体を確かめた。


 この骨太の体格に、広い肩幅。

 今度は左腕でこぶを作ってみせて、右手でぱちぱちと叩いてみる。

 はち切れんばかりに盛り上がる上腕の筋肉。

 厚みのある胸板。

 板のように固い腹筋。そして――


 いや、これ以上は止めておこう。


 だが、間違いない。

 俺だ。これは紛れもなく俺の身体だ。


(戻ったぁぁ!!)


 俺は歓喜のあまり立ち上がると、腹の底から叫んだ。


「うおおおぉぉぉ――!!」


 俺の雄叫びが、朝の閑静な街中に響き渡った――


(あ、着なきゃ……)


 ***


「だから知らないって!」

「知らない訳あるかよ! なら、その痣はどう説明するんだ?」

「だからこれは多分、転んだか何かしたんだって。覚えてないけど……」


 朝の修行場に着くなり、俺は龍二を問い詰めたが、龍二は頑としてしらばっくれるのだった。

 俺達が言い争いを繰り広げていると、そこへ直樹さんがやって来た。


「どうしたお前達。珍しく遅刻してないと思えば、喧嘩なんて」

「だって、さっきから臣が変な事ばかり言ってくるんだもん」


(こいつ、本気で言っているのか?)


 惚けているのか、ただ単純に忘れっぽいだけか。

 それとも、やはりあれは俺の夢だったのか?


 だが、もう一度確認の為、龍二に問いてみた。


「他に何か変わったことはなかったか?」

「うーん、そうだな。強いて言えば……今朝は珍しく寝巻きを羽織っていたんだよな」


(――?)


「ほら、俺って寝る時くらいは、開放感を味わっていたい性分じゃん?」


(いや、知らねぇし。聞いてねぇし)


 というか、何を基準にしているんだよ。


 まあ何も覚えていないってんなら、それはそれで好都合だが。

 何せ色々あったからな。色んな意味で――

 いや。やっぱ忘れよう。


「臣、大丈夫か?」


 心配そうに直樹さんが、俺の肩に手を置いてきた。


「はい。ちょっと夢見が悪かっただけですから」

「そうか」


 俺はぐしゃぐしゃと頭を掻きながら、直樹さんに言った。


「所詮は、俺の頭の中で起こったこと……なんですよね?」


 何故こんなことを聞いたのだろう。

 自分でも、よく分からなかった。


「ああ、そうだろうな」


 直樹さんは微笑むと頷く。

 が、突然ふいに真面目な顔になるとこう言った。


「だが、果たしてそれが現実でないとも言いきれるだろうか」

「えっ?」

「よし、行くか!」


 意味深な発言を残して、直樹さんは去っていく。


 何だったんだ。今のは。


 俺はふと右頬に触れてみた。


(――痛っ!?)


 それは確か昨晩、俺が付けた傷――


(ということは、やはり――?)


「こら! 臣! 何ぼさっとしてんだ! とっとと修行開始するぞ!」


 綾人さんの雷で、俺は釈然としない気持ちを振り払い慌てて皆の元へ駆け出して行った。

 そして俺は、珍しく龍二の肩に手を回し、満面の笑みを浮かべて言ったのだった。


「とりあえず、何発か殴らせて貰ってもいいか?」

「は? 何でだよ」


(完)

突如、起こる奇妙な出来事。

次に起こるのは、あなた自身かも知れません――

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