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S.A.K.U.R.A.~蒼の魂~  作者: 猫人間
【第壱章】七人の侍
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その参―桜丘の魔物―

 鞍馬くらま武臣(たけおみ)は、今は誰も住まわぬ地、桜丘(さくらがおか)で一人誰とも会うことなく、ひっそりと暮らしていた。


 その剣の腕は最強の侍、衣笠龍二(きぬがさりゅうじ)と並ぶほどの腕前であった。


 しかし鞍馬は衣笠と同様、一匹狼であり、しかも全く人を信用してはいなかった。


 信じられるのは己のみ――


 噂では桜丘に近づいた者は鞍馬に消されるという。

 それゆえ、鞍馬武臣は"桜丘の魔物"と呼ばれ恐れられていた。


 衣笠が「最強の侍」ならば、鞍馬は「最恐の侍」――

 これが人々の見解であった。


 その鞍馬武臣こそが選ばれし七人目の侍であった。


「本当に大丈夫なんですかね……噂じゃ鞍馬さんに近づいた者は生きては帰れないって……」


 恭徳の言葉に綾人が答える。


「だ、大丈夫だろっ、いくらなんでも、いきなり襲っては来ねぇって! た、多分……」


「綾人……お前、びびってねぇか?」


 綾人の様子に直樹が言った。


「び、びびってねぇし!」


 強がる綾人。

 そんな会話をしながらも一行は桜丘にたどり着いた。


「よ、よしっ、行くぞっ!!」


 綾人達は恐る恐る足を踏み入れた――

 が、その瞬間、目にした光景に思わず言葉を失った。


 そこには何千、何万本もの桜の樹が美しく堂々と咲き誇っている桜の森だった。


「すげぇ……」


 綾人達は目を奪われた。


 この桜丘は特殊な気候で、一年中散ることなく桜が咲き続けているのだった。


 桜丘は噂にそぐわず美しい地であった。

 誰もがその美しさに心奪われる。


 しかし行きはよいよい。帰りは怖い――


 一同は桜の樹々に圧倒されながらも奥へ奥へと足を踏み入れた。


「誰だ?」


 獣の如く低く唸るような声。

 その一言で辺りを硬直させるほどの威圧感があった。

 パキ、パキ、と小枝を踏み鳴らしながら、並木の陰からその姿を現した。

 黄金色の髪。射るような鋭い目付き。そして衣笠にも引けを取らない美形の男だった。

 しかしその雰囲気は一切、人を寄せ付けまいとしているかのようだった。


 綾人が恐る恐る男に話しかける。


「鞍馬……? お前が鞍馬、か?」


 鞍馬武臣が目を向ける――一瞥しただけでその迫力をひしひしと感じた。


「だったらどうした。ここへは立ち入ってはならない。と知らないわけではないだろう。何しにきた? 此処を奪いに来たのか? ならば消すまでだ」


 鞍馬が柄に手を掛けゆっくりと刀を抜く。


「い、いやっ! ちょ、ちょっと待て!! 俺達は丈さんの銘を受けてここに来たんだ!! 知ってるだろ? 丈さん」


 綾人が慌てて言うと鞍馬が一瞬、緊張した表情を和らげ刀を降ろした。


「ああ、知っている。あの人には昔、色々と世話になった。感謝してもしきれない程の恩義がある」


 そういう鞍馬の顔はどこか懐かしそうな表情をしていた。


「そ、そうか!! じゃ、じゃあよ、頼みがあるんだ!! 俺達と共に戦――」


「――だが、それとこれとは別だ!! 丈さんは信用出来るが……お前達は信用出来ない!!」


 鞍馬が再び刀を構え刃先を綾人の方に向ける。

 綾人は両手を上げ、怖じけずきながらも必死に説得する。


「ま、待ってくれよ――!! 俺達はお前に力を貸して貰いたいんだ!! 今がどういう状況にあるのか、お前も分かっているだろ? だから俺達と共に戦――」


「俺に仲間など必要ない! 失せろ!!」


「待て、待てって!! このままじゃ此処も奪われるかも知れないんだぞ? お前一人じゃ限界がある――」


「黙れ!! お前達の助けなどいらぬ!! 俺一人で十分だ! 此処は死んでも渡すものか! さっさと失せろ!!」


「鞍馬、話を、聞け、って……」


 すると鞍馬がふっと目を閉じた。


「咲いて散る……桜の消え逝く宿命の如く……」


 瞬間、鞍馬はカッと目を見開くと――


 ――シュッ!


「うわぁぁぁ!!」


 突然、誰構わず斬りかかってきた――


 綾人達は慌てて逃げる。

 鞍馬が容赦なく斬りかかってくる――


「うわぁっ!! 鞍馬っ!! やめろって!!」


 綾人が必死に止めるも一切聞く耳をもたず刀を振り回す。

 目は獲物を狙う獣そのものだった。

 六人相手でも全く怯むことなく刀を振り回す鞍馬に、刀を出す隙すらもなく、綾人達は避けるのが精一杯だった。


 そのとき恭徳が足をもつらせ転倒してしまった。


 ――瞬時に鞍馬の目が恭徳を捕らえる。


 恭徳は慌てて逃げようとするが、足を挫いたのか立ち上がれない。


 鞍馬が迫ってくる――


「うわーぁぁ〜!!」


 恭徳が叫ぶ。


 ――もう駄目だっ――!!


 恭徳は観念してぎゅっと目を閉じる。

 鞍馬が刀を振りかぶる――


「恭徳ぃー!!」

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