その弍拾―二つの龍―
衣笠龍二対龍之介
遂に二つの"龍"が動き出す――!!
「大丈夫か? だって、兄さんは――」
「黙りなさい匡孝。ここから先、もしも無粋な真似をしたら、例え貴方でも斬りますよ?」
兄を案じての匡孝の言葉だったが、しかしそれに対し、龍之介は心無く吐き捨てる。その容赦ない言葉に、匡孝はそれ以上なにも言えず、引き下がるしかなかった。
「いけるか?」
「ああ……」
臣もまた龍二に問うが、龍二も同じく無用だと頷く。
短い門答。だが、この二人にはそれで十分だった。
下がる臣。彼はすれ違いざま、龍二に耳打ちする。
「お前の相手、あいつから漂う気配はただ事じゃない。心してかかれよ」
龍二は、分かっていると言わんばかりに深く頷いた。
先程の臣と匡孝の場所と入れ替わるようして龍二と龍之介が立つ。
「ふふっ、世界最強の剣士にお相手して頂けるとは……実に光栄です――っと、失礼」
そう言って、ふいに左肩に手をやる龍之介。
龍二はなにを思ってか、それをただ静かに見ていた。
「ふぅ、お待たせいたしました……では、同じ"龍"の名を持つ者同士、正々堂々と勝負致しましょうか」
龍之介が誘うように言うと、龍二も寄ってきて、ゆるやかな間を取った。
互いの目を見据えながら、二人はゆっくりと刀を構えた。
その時、龍之介の印象が一変した。
刺すような眼光。柔和な細い目は、今はいっそう細くなっていたが、その目の奥に宿しているのは、凄まじい殺気だ。
向かい合う相手のどんな微かな動き、どんな表情の変化も見逃すまいとして、龍之介の目は冷ややかに龍二を凝視していた。
――こいつは、強い。
龍二は思った。
長い睨み合いが続き、その間に、二人はにじり寄るように、わずかずつ間合いをつめていた。
そして、ある間隔まで来たとき、二人はまた動かなくなった。
龍之介の小柄な身体は地に吸いつくように、柔軟にしかも微動もせず立っていた。
隙はまったくなかった。
龍二は少しずつ左に回った。同時に、龍之介も左に回った。そして、二人は再び動きを止める。
風が吹き荒れ、二人の長い髪が揺れる。
武士櫻の花びらが舞い上がり、二人の間を隔てるように、ひらひらと舞い散っていく。
その最後の一枚が地面につくか否か――
龍之介が音もなく踏み込んだ瞬間――その姿が消えた。
(――!?)
――と、次にその姿を目にしたのは、龍二の首筋に刃を当てている姿だった。
龍二もすんでのところでその刃を愛刀、御室有明で防いではいたが、一瞬の反応が遅れていれば現在この世には居られなかっただろう。
一瞬、ひやりとしたが、安堵と共に、この少年を心底恐ろしく感じた。
やはりこの"男"。只者ではない――
「お見事です……流石に一筋縄ではいきませんか……」
龍之介は冷ややかな眼差しで、口端を上げると、ゆっくりと刃を離し、再び構えを戻した。
再度、機を窺うと、またも疾風のように打ち込んできた。
そして、凄まじい打ち合いが始まった――
それはあまりにも速く、もはや目で追うことすら叶わなかった。
辺りには甲高い金属音だけが絶え間なく響いている――
攻撃する方も化け物だが、それと互角に渡り合っている方も化け物である。
それはまさしく、龍同士の闘いであった――
「速いっ……!!」
綾人達と匡孝はその様子に圧倒されながらも、息を飲んで見守っている。
「しかし、あれでは体力が……」
そう言った直樹の言葉通り、永遠に続くかと思われたその動きにも、少しばかり緩慢に変わって来たように感じた。
すると突然、二人は磁極の如く飛び離れた。
二人はお互いの顔を目に焼き付けたまま、荒い息を吐いている。
龍二は顔面の傷が痛むのか、時折苦悶の表情を浮かべている。
一方の龍之介も、苦しげに胸を押さえ、ヒューヒューと呼吸を荒らげていた。
「不味い……!! 兄さん!」
思わず匡孝が身を乗り出す。
恐れていた事態が起こった――そんな表情を浮かべていた。
(――この呼吸……)
己の痛みに耐えつつ龍之介の様子を伺っている龍二も何かを察したようだ。
この勝負。決着がつくのはそう長くないだろう――しかし同時に、お互い共倒れするのは時間の問題だ。
二人は肩で息をしながらも、刀を再び構え直した。
もう後には引けない――
「――龍二!! 無理すんな!!」
「――兄さん! もう止めて!!」
臣と匡孝が一緒に叫んだのと、龍二と龍之介が走り出したのは、同時だった――




