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S.A.K.U.R.A.~蒼の魂~  作者: 猫人間
【第壱章】七人の侍
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その弍―重大な任務―

 ――時は遡ることふた月前。

 粉雪ちらつく一の月。


 此処は各国の強豪と呼ばれる侍達が集う街――「市原虎(いちはらとら)()

 此処を取り締まるのは、この街の総長であり、この国で最強とも呼ばれる侍一味「朱雀(すざく)」の総指揮官でもある鴛鴦丈芳(おしどりたけよし)であった。


 ある時、朱雀の一員である朝霧綾人と金剛直樹は鴛鴦に呼び出された。


 突然呼び出された二人は緊張した面持ちで、鴛鴦の前に片膝を立てて跪く。

 鴛鴦は艶の良い黒長髪をきちりとひとつにまとめ、程よく伸びた顎鬚。そして柔和な瞳をもつ見た目だけでもその温厚な人柄が分かる人物であった。

 それでも朱雀の総指揮官。その内なる貫禄が滲み出ていた。


(たけ)さん。綾人と直樹、只今参りました」


 鴛鴦は"丈さん"の愛称で皆から、慕われていた。


「おう、すまないな急に呼び出して。早速だが、実はお前達に重大な任務を任せたい」


 二人を優しく迎えた鴛鴦だったが、その柔和な瞳を一変させ、真剣な面持ちになる。


「重要な任務……?」


 三人の間に、更に緊張感が増した――


「この国にある"武士櫻"と呼ばれる桜の樹を知っているな?」


 二人が無言で頷く。


「実は今、この桜が邪悪な者達によって狙われている。このまま奴らの手に渡ってしまえば、世界は闇に染まってしまうだろう……」


 世界には五本の神聖なる樹があり、そのどれか一つでも失えば、その樹々達の力は失われ、たちまち世界は闇に覆われてしまうとされている。

 武士櫻はその伝説の樹の一つであった――


「この武士櫻は"真の大和魂"を持つ侍によって、代々守り続けられてきた。その初代に当たるのが、俺が率いた七人の侍、紅鶴(べにづる)滝野(たきの)達だ――お前達も知っての通り、これが後の朱雀となったのだ」


 鴛鴦が率いる朱雀はこの国で起こる数々の事件を解決して回り、悪から人々を守っていた。

 強豪達が集う朱雀の中でも、紅鶴と滝野は一、二位を争う程の腕っぷしで、鴛鴦の右腕的存在である。


「二代目は駿河(するが)が率いた五人の侍――そして今、その血を受け継ぐ"三代目"となる七人の侍。その七人の侍のうちの二人が綾人、直樹。お前達だ。お前達にはこの一味の隊長として今から述べる、残りの"五人"を仲間にし、邪悪な者達から武士櫻を守って欲しいのだ」


 想像以上の大きな銘に、二人は若干の戸惑いをみせるも、真剣な面持ちで頷いた。


「では今から残りの五人の名を述べる――

 三人目は高嶺大山(たかねおおやま)の望月恭徳。

 四人目は奥州里(おうしゅうさと)の茂庭健二郎。

 五人目は毛蝦夷(けえぞ)(やま)の熊谷英莉衣。

 そして六人目は龍雲院(りゅううんいん)の衣笠龍二――この国で"最強の侍"と呼ばれる男だ」


 そこで鴛鴦の表情に、若干の曇りの色が見えた。


「しかし、この衣笠という男は簡単に人に従うような男ではない。仲間にするのは少々手こずるかもしれない。が、そこはお前達の力で説得してくれ」


 衣笠龍二――刀を扱う者なら、その名を知らぬ者は居ない程の侍だ。

 そんな者を仲間にすることは、蟻の眉間に矢を射貫くのと同じくらい困難を極めるに違いない――


「そして七人目だがこちらも少々厄介で、恐らく一番の"難関"かも知れない……もしかするとあの衣笠よりも――」


 衣笠でも困難なのに、更にその上までいるなんて――

 二人の責任は重く伸し掛るばかりであった。


 そんな二人の様子に、鴛鴦は一度一呼吸置くと、二人の目を交互に見据えて静かに、だが力強く言った。


「しかしこれだけは覚えていて欲しい。たとえこの中の一人が拒絶したとしても絶対に見捨てたりはするな……!! すべてをかけて挑まなければ、その魂は宿ることはないのだ!! お前達、七人揃って初めて真の大和魂が発揮されるのだ。"誰一人欠けることがないように"約束してくれ! お前達二人なら必ず出来る。だからお前達に任せたのだ。俺は信じているぞ!」


 鴛鴦の言葉が二人の胸に重く深く突き刺さった。


「丈さん。分かりました……!」

「俺達に任せてください!」


 鴛鴦の言葉に背中を押された二人は、鴛鴦の目を真っ直ぐに見据え答えた。


「うむ、頼もしいぞ。では、最後の一人の名を言う。その最後の一人は――」


 ***


「おい!! 綾人!! どうしたんだ? 早く行くぞ!」


 直樹に呼ばれはっと我に帰る綾人。

 気がつけば、いざこざは終わっていたようだった。


「おっ……おう! すまんすまん! 早く先を急ぐぞ!!」


「でも……本当に"あの人"が仲間になんてなるのですか?」


 英莉衣が心配そうに言った。


「俺ちょっと怖いっすよ……あの人……」

「なんやびびってるんか?」


 不安げな恭徳に健二郎が茶化した。


「べっ別に……びびってなんか……」


 強がる恭徳。


「…………」


 龍二はそんな皆の様子を黙って見ている。


「まあまあ、お前ら心配するなって。あの丈さんが選んだんだ。きっと大丈夫だ。あいつを信じろ。それに丈さんの言葉を忘れたのか?」


 綾人は最後に鴛鴦が言った言葉を思い出しながら――


「俺達は七人揃って初めて真の大和魂が発揮される。だから誰一人、欠けてはならない。俺達七人は仲間だ!!」


 綾人の言葉に、健二郎、英莉衣、恭徳の三人が頷いた。


「よしっ!!もうすぐ着くぞ!!あともうひと踏ん張りだ!!」

「おうっ!!」


 六人は桜丘(さくらがおか)へと向かう。

 最後の一人、"鞍馬(くらま)武臣(たけおみ)"を仲間にする為に――

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