その拾―仲間―
――それは、恭徳が仲間に加わった時のこと。
鴛鴦の銘と聞き、一度は任務を了承した恭徳だったが、なかなか自分に自信が持てずにいた。
高嶺大山からの出発の当日。
「やっぱり、僕には無理です!」
最後の最後で怖気付いた恭徳は、自分の家に閉じこもってしまったのだった――
いくら呼びかけても、出てこない恭徳に途方に暮れる綾人達――そんな中、龍二は冷たく言い放った。
「そんな奴、ほっとけ」
「龍二……!」
「そんな臆病者、待つ必要はない。この先行動を共にしても邪魔なだけだ」
「おい! そんな言い方ないやろ!」
冷淡な龍二に怒りながら、詰め寄る健二郎。
「事実を言ったまでだ。いくら待とうが時間の無駄だ。俺は行くぞ――」
健二郎を無視し先へ行こうと背中を向けた龍二に――綾人が、
「ああ、分かった。龍二。お前は先に行っててくれ」
(…………?)
綾人の言葉に、龍二は思わず綾人の方を振り返った。
「俺はここで恭徳を待つ」
「俺もや」
「俺も」
綾人に続いて、健二郎と英莉衣も同調する。
(…………!?)
「俺達は後から向かう」
直樹の言葉に、遂に龍二が反論した。
「いくら待っても、あいつは来ないかも知れないんだぞ」
「そうかも知れないな……でも俺達は何日だって待ち続ける。あいつを信じてるから」
綾人が凛とした強さで答える。
「何故、そこまで――」
「"仲間"だから」
(…………!?)
綾人の言葉に龍二は衝撃を受けた。
「仲間を置いていけるわけねぇだろ」
綾人をはじめとする四人、皆が同じ意見のようだ。
「分かった。勝手にしろ……」
綾人達を置いて、龍二は一人、先を進んで行った。
しかし頭の中は、混乱していた――
(なんなんだよ。なんでそこまでして、あいつのこと信じられるんだ? あいつらなんなんだ。"仲間"ってなんなんだ――)
嘘と裏切りの世界で生きてきた龍二にとって"仲間を信じる"なんてことは今までにないことだった――
――そして、三日が経った日。
「恭徳~!!」
ついに覚悟を決めた恭徳が皆の前に現れた。
恭徳は申し訳なさそうに、今にも泣き出しそうな顔で頭を下げる。
「ごめんなさい……僕……」
「なにしとんねん、はよ行くぞ!」
「えっ……?」
てっきり叱られると思っていた恭徳は、健二郎の言葉に戸惑った。
「さてと、恭徳も揃ったことだし、出発だ!」
綾人が恭徳の肩をぽんと叩いて言った。
「どうして……皆さん……僕のこと待っててくれたんですか……」
「当たり前やろ! 俺ら"仲間"やんけ!」
「僕……もう、皆さん愛想つかして先に行っちゃったかと……」
「なわけあるかい! 俺らどんだけ冷たい人思われてんねん……もうちょい仲間のこと信用して欲しいわ~」
「仲間……」
仲間――それは恭徳にとって、人生で初めて言われた言葉だった。
「そうだぞ。俺達は何があっても仲間のことを信じてる」
そう言う綾人の言葉に、恭徳は何かに気付いたように、辺りを見渡す。
「そういえば……龍二さんは……?」
辺りに龍二が居ないことに気付くと、恭徳が聞いた。
一瞬、綾人達の顔が曇る――
「いやぁ~、あいつはちょっと、せっかちでな……先に行く。って、ほんと困ったやつだよまったく……はははっ……」
「そうですか……」
綾人が笑って誤魔化すが、恭徳は察した。
(龍二さん。やっぱり僕に愛想尽かしたんだな……そりゃそうか……)
――気まずい沈黙が流れた時。
「誰がせっかちだよ」
「あっ……!」
「龍二!?」
そこに現れたのは――先に行った筈の龍二だった。
「なんやお前!先に行ったんやないんか?」
「別に……気が変わっただけだ。別に待ってたわけじゃない」
健二郎の問いに、顔を背けて答える龍二。
「ふーん……」
(ほんと素直じゃないな……)
綾人は気付いていたが、あえて言葉には出さなかった――
「皆さん……本当にありがとうございます! 僕……強くなります! 皆さんの足を引っ張らないように早く一人前になりますからっ!」
恭徳が皆の顔を真っ直ぐに見据えて、宣言した。
「その言葉だけで十分さ……」
直樹が恭徳の頭をわしゃわしゃと撫でて通り過ぎる。
綾人、健二郎、英莉衣が、通り過ぎざまに恭徳に微笑み、その後に続く。
恭徳もはい。と頷くとその後を追った。
一番、最後に龍二が続く――
龍二は感じていた。
今まで出会った中の人とは明らかに違うことを。
(仲間か……)
龍二の中で何かが変わり始めていた――
***
龍二は傷ついた身体を引きずるようにして鞍馬の元へ近づいて行く。
「でもな。俺はこいつらと出会って変わったんだ。こいつら馬鹿でどうしょうもねぇ連中だけど、仲間のことは何よりも大切にする。俺は人を疑うあまりに、大事なものを見失っていた。俺はこいつらと共に旅をしてきて気付かされたんだ。変わらないものもあるんだと」
龍二は鞍馬の前に跪くと、目を見据え肩にそっと手を置く。
「だから絶対にお前を裏切ったりなどしない。鞍馬!! 俺達を信じろ。俺達は――"仲間"だ!!」
それは龍二の口から初めて"仲間"という言葉が出てきた瞬間だった。
鞍馬が顔を上げる。
龍二と視線が合致する――
風が吹いて、桜の花びらが舞い上がった。
その花びらと共に、鞍馬の凍りついた心も溶かされていく――
「龍二……いい事言うじゃねぇか……」
直樹が微笑みながら言う。
「"馬鹿"は余計だけどな……」
苦笑しながらも涙ぐむ綾人。
「俺……変われるかな……やり直せるのかな…………」
「ああ。人は何度だってやり直せる。大丈夫だ。俺達がついている」
龍二が手を差しのべる。
「お前…………」
龍二の伸ばした手をがしっと掴み、鞍馬がよろめきながらも立ち上がる。
そして、龍二に支えられながら、綾人達の方を見据えて言った。
「俺のこの命……お前らに託した――!!」
ついに鞍馬が心を開いたのだった――
名場面キターーーー\( ´ω` )/(個人的にw)
次回、感動の(?)ラストスパート(^_^)v