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だから翔太は全員に復讐することにした

作者: 仲間 梓

 だから翔太は全員に復讐することにした。


 クラスメイト達の困惑と悲鳴の声が教室中を埋め尽くしている。

 その混乱の中心に翔太は立っていた。

 先ほど被った液体の冷たさがじわじわと肉を侵食していき、翔太の体の動きを制限していく。


 まだだ、まだ止まるわけにはいかない。


 右手に持っているホースを強く握りしめた。途端に冷水の勢いが増し、真冬の朝、寒い体を丸めながら登校してきたクラスメイトたちを、次々と濡らしていく。

 お前らがもっと気を付けていれば、望はあんなことにならずに済んだのに!

 奥歯を噛みしめ、眉間に大きな皺を作る。


 自分の怒りを冷水に変えてぶちまける。花壇への水撒きぐらいはしたことがあったけれども、まさか教室に、しかもクラスメイトへ向けて水撒きをすることになろうとは思ってもなかった。

「おらああああああああああ!」

 誰も逃がさない。誰一人として逃がさない。


 このクラスメイト達が、奴らが、いや自分も含めて腹ただしい。たとえ、望の望みでなかったとしても、報復してやらなくては気が済まない。

 これは極めて利己的な報復戦争だ。


*


「私って対人恐怖症の軽い奴、なんだ」

 とは後に望が語ってくれたことである。

 自分の行動によって相手がどういう反応を示すかが怖いらしいのだ。怒ったときの人間は、人とは思えないほど獰猛で、得体のしれないモンスターのように見えるのだと望は後に語っていた。


 中学入学当初、クラスメイトは「人とは違うものを持つ」望に興味津々で、毎日人を変えてお昼に誘っていた。しかし、望は来訪の度にただひたすらに焦っていた。

 どんな風に返すのが正解なんだろうかああでも早く返事返さないと変な子だって思われちゃうんじゃいやでも人間関係出来上がっているところに私が入っていったら気まずくなるんじゃないだろうかでもここまで来てもらって断るのも悪いしいやでももし断るならどんな風に返せば相手に失礼じゃないだろうかでもこういう時は断らない方がいいのかなでも数少ない中学の昼食を……ああいやでもしかし……


 と頬杖をついて窓の外を見ながらピクリとも動かず考え込んでいるものだから、声をかけたクラスメイトも居心地が悪くなり。

「……あ、じ……じゃあ向こうで食べてるから」

 と言い残してすごすご立ち去ってしまう。


 そういうのが続くと本人に悪気はなくても印象は悪くなり、だからといって望のようなヒト反応恐怖症がその噂を否定できるわけでもなかった。そうこうしている内に見てくれはいいから男性に注目されて、その様子にスクールカーストの上位にいる女子はフラストレーションを貯め続けていた。


 またタイミングの悪いことにスクールカースト上位の女子に人気の高い男子から告白をされてしまった。この告白をこっぴどく(ように見えるが実際はおどおどしている内に相手が自爆した)断り、完全に目をつけられてしまう。


 行きつく先はいじめだった。


 中一の冬、望にちょっかいを出している女子がいるとクラスの中で話題になっていた。クラスメイトの中にはやはり望をよく思ってない人もいるらしく、そういう話題は狭い教室内ですぐに知れ渡る。翔太自身は関係ないと思って知らないふりを決め込むつもりだった。


 しかし見てしまった。日直の仕事を終えた放課後、階段近くの女子トイレ。けたたましい笑い声と共に飛び出てきたのはクラスの中でも強い発言権を持つ垢ぬけた女子たちだ。三人組み。真ん中の一人は見たことがあった。確か佐藤といったはず。翔太のことなど無視して「あの顔見た? マジウケる」など話しながら駆け足で階段を下っていく、やがて女子たちの笑い声も届かなくなった。


 静寂。微かに響く水音。

 暗い女子トイレ。先ほどの女子たちの会話。


 全てがつながった瞬間、背中に悪寒が駆け抜けた。

 女子トイレに飛び込んだ。普段なら女子トイレなど絶対に立ち入らないが、その時は不安に駆られていて思考は完全にマヒしている。

 女子トイレの中央に望は倒れていた。全身ずぶ濡れだった。長かったはずの後ろ髪は切られ、トイレ内に散乱していた。前髪は顔を覆うほど垂れ下がり、先端から水滴がしたたり落ちている。その髪の間から覗く蒼色の瞳は濁り、何の感情も浮かんでいなかった。ホースから水が飛び出し、あたりを濡らしている。その水は、窓から入り込んだ夕日によって紅く染め上げられ、血のようだ。

―――女子トイレが鮮血に染まっている。


「一体どうしたんだよ」

 近寄ることもできない。

「ごめんなさい」

 なにに謝るのか。

「なにが?」

 聞き返すので手一杯だ。

「ごめん……なさい……」

 嗚咽交じりの謝罪。呟く望の謝罪は翔太の心を抉る。

 翔太が初めて目にした「いじめ」の光景は、人間のえげつなさ、意地の悪さを、翔太の胸に強く刻み込んだ。


 歩く力もない望を、背負って保健室まで運ぶことにする。制服が濡れることなんて気にしていられない。

一階にある保健室に向かって階段を降りる。一歩ずつ落とさないようにゆっくりと。接している背中や両腕が冷たくて、翔太の心にまで冷気が食い込んできた。背中からは嗚咽交じりの謝罪が繰り返されている。


「弱くてごめんなさい」

「上手く話せなくてごめんなさい」

「告白、断っちゃってごめんなさい」


「眼が人と違くてごめんなさい」


 「人とは違うものを持つ」望。それはオッドアイだ。右目が茶色、左目が透き通る蒼色。入学時の自己紹介で、クオーターであることを明かし、特に目がお気に入りなのだと語っていたのを思い出した。翔太は奥歯を噛みしめる。先ほど笑いながら降りて行った女子を憎らしく思った。それでも、それ以上に翔太は自分自身が憎らしい。他人の傷を見て見ぬ振りをしていて、それでいいと思っていた自分に、非常に腹が立っている。


 保健室に着くと養護教諭は何も聞くことなくストーブをつけ、タオルを差し出した。これが初めてじゃないと翔太は直感する。三〇代を過ぎたぐらいの女性教諭は少しため息をつき、語り始める。

 水をかけられたり、カッターの刃を向けられたり、万引きを強制されたり。そのたびに保健室へ来て相談を聞いていたという。


「女の子のいじめって、他の人の目のつかないところでやるから発見が遅れるの。今回の望ちゃんの件にしても担任には報告しているんだけど、なんでかな、学校側が認めたくないみたい」

 ニュースで見たことがある。いじめがあると大人に色々なデメリットが発生するからそれをひた隠しにする。なかったことにされる、と。


 なかったこと? ふざけるな! こんなに苦しんでいる人が近くにいるのに、人よりも経営が大事なんて間違っている。

 望は濡れた制服からジャージに着替え終わっていた。しゃがみながら両の掌を出し、ストーブに当たっている。いくらか体に体温が戻ってきたらしい、頬が若干赤みを帯びてきている。

 

 翔太は手の平を自分の頭に強く押し付けた。今回の一件、悪いのは一体誰だ? 学校? 先生? 望をいじめていた奴? 望自身? クラスメイト? それとも自分自身? 

そのすべてが正解だ。脳内裁判判決。全員、有罪。

だから翔太は全員に復讐することにした。

 

 次の日。空は曇天、気温は上がらず一〇度以下。朝のホームルームが始まる直前に翔太は動き出した。

 「ダリー」「もう帰りたい」「部活が」などの声が響く中、翔太は堂々と教壇に立つ。同時に担任の先生が教室に入ってきた。皆困惑の目で翔太を見つめる。その目の中にこの間笑いながら階段を駆け下りて行った奴らも見つけた。にやりと笑って見せる。


 まず翔太は水の入ったバケツを思いっきり被った。すさまじい音を立てて一気に水が頭から足元へと流れていく。クラスメイトから悲鳴が上がる。

 冷たい、こんなに冷たいんだ水って。制服に水が張り付き、どんどん体温が奪われていく。ごめん望、気づいてあげられなくてごめん。

 今年赴任してきたばかりの男性の担任教師は突然の事態に動揺し、言葉を失っているようだ。

体が寒さで震える。だけど……。


「共犯者だ、このクラスの奴ら全員共犯なんだよ。なので、俺が代表して全員に罰を与えます」

「何を……」

 クラス全員がぽかんとしている中、翔太は廊下に出て用意しておいたホースを持った。そして再度教室に入りなおす。ホースの用途はさまざまであるがそのほとんどが水を撒くためのものだ。もちろん今回も使用用途に変更はない。

 翔太は努めてにっこりと笑った。ホースの先端を少しゆがめて、自己愛溢れるクラスメイトたちへ大噴射した。


「うおおおおおおお!」

 雄叫びを上げながらホースを使って教室内に散水するその姿は、傍から見たら狂人にしか見えないだろう。それでもかまわなかった。翔太にとって今重要なのは意地や性格の悪い人間がいるということだけだ。

もっと水よ、水よ来い。濡れろ、濡れろ。お前らのしたことの意味を解らせてやる。

 先ほど冷水をかぶり、冷たくなった制服が重く、翔太の足を止めようとしてくる。だがやめるわけにはいかない。


 ふと視界の片隅で佐藤を含め、望をいじめていた三人の女子がドアから逃げ出そうとしているのが目に入った。脳内に雷撃が迸る。

「一番肝心なのはお前らなんだよ!」

 ホースの先端を変形させ、水圧を上げる。そのまま三人に水を叩きつけた。教室から出て行こうとしていた女子たちは水の勢いに圧倒され、悲鳴を上げてドアから離れる。

なんて醜い嫉妬という感情、そして違うものを受け入れられない度量の少なさ。こいつらはこんなもんじゃ足りない。望が味わった全ての痛み、全ての哀しみ、全ての苦しみをこいつらに与えてやらないと気が済まない! 水を噴射して噴射して噴射し続けて、ついに三人を教室の端に追い詰めた。


「アンタ、何考えてんの? こんな真冬に水道水ぶっかけるなんて……」

「これがお前のやったことだよ。」

「はあ?」

 佐藤は水圧によって化粧が落ちかけていた。その様子はさながら妖怪だ。

 なかなかおもしろい、外も中もブスだな。

 腹の底が煮えくり返っているのに頭はすごく冴えている気がした、バケツで水を浴びたおかげかもしれない。


「あいつは人を責めなかったぞ。どんなにお前らから嫌なことをされても全部全部自分のせいだって、自分が弱いからだって、自分が間違っているからだって」

「だって実際そうじゃん。私は教えてあげてんのよ。社会に適応できなかったらこうなるからがんばんなってね」

 三人の女子が笑う。自身を正当化できる理由を見つければ何もかも許されると思っているのか。準備しておいたペンライトで佐藤の目を至近距離から照らした。佐藤は悲鳴を上げながら目を抑え後ずさった。残りの二人には水を至近距離から噴射する。


「人を傷つけていい理由にはなんねぇだろうが」

「もともとアイツが無視したり、ちょっとちやほやされたくらいで調子に乗ったりするから」

「お前の陳腐な嫉妬心を人に押し付けんな!」

 言葉の矢を放つ。同時に、ホースの先端から水が出なくなった。誰かが廊下にあったホースの水源である蛇口を捻ったらしい。

 まあいいや、用済みだ。

 ホースとペンライトを無造作に投げ捨てた。


 三人にはまだ闘志が消えていない。私たちは間違っていない。何かが間違っていたと分かっている。けれどもいじめてやんなきゃその場のノリにそぐわない。つまり私たちは悪くない、間違っていない。そう思い込んでいるように見えた。


「あーそうか、お前らが望にしたことってこれだけじゃなかったよな。……全部味わってもらおう」

 努めて低い声を出した。怖がらせるつもりが一〇〇%、威圧するつもりも一〇〇%、とにかく三人の女子にはビビッてもらわねばならない。ポケットの中に仕込んでいた硬い手触りのものを取り出す。教室の光を強く反射する刃を内蔵している文房具。取り出した文房具を見て教室がざわつく。


「水かけ、目晦まし、切断、殴打、窃盗、恐喝、まだまだあるよな」

 カチリ……カチリ……。刃を出しながら、ゆっくりと近づいていく。

「眼が怯えてやがるぜ、お前らがやったことだろうが」

 カチリ……カチリ……。

「全部、全部やり返させてもらう」

 カチリ……カッ。刃を出しきり、女子たちの目の前まで来た。……準備、完了。

 佐藤は焦点が合わないながらもこちらを懸命に睨みつけていた。

 刃を逆手に持ち、大きく振り上げる。

「アンタ、落ちるわよ」

「お互い様だろ」

 刃を……振り下す。


 一瞬、脳内に昨日の望の姿がフラッシュバックした。冷えた体を温めるために、ストーブの前にしゃがむ望の姿。頭に被っているタオルから覗く、二つの色の異なる瞳が翔太を射抜く。「駄目だよ」と言ったように見えた。


 突き刺さる感触、冷たい空気、冷えた手。反対に焼けるように熱い左手。自分の荒い呼吸と鼓動の音だけが耳に響いていた。

 刃の向かった先は自分の左手の甲だ。突き刺した刃は皮膚と血管を突き破り、肉を裂き、神経を強烈に刺激する。努めて冷静に翔太は刃を抜き、血が溢れるところを三人に魅せつける。


「これがお前の見たかったものだろ? やりたかったことだろ? ほらどうだ、目の前にぶら下がってるぞ」

「違う、アタシは……そんなつもりじゃ……」

 三人は嫌々するように首を振り、さらに後退しようとする。でももう無理だ。ここは教室の端、それ以上後ろにはロッカーしかない。

 翔太はうすら笑いを浮かべながらさらに接近する。

 血が流れ出る左手の甲で三人の頬を撫でた。

 三人はしばらく何が起こったのか理解できないようだ。三人は頬についている血を拭って瞳に収め、現状を理解したらしい。取り巻きの二人は悲鳴を上げて全速力で廊下へと飛び出していき、佐藤はその場にうなだれた。翔太は立ち上がって佐藤を見下ろす。


「アタシは……アタシの生きる世界を守りたかった。それだけなのに」

「その場のノリ(まやかし)で生きるなら、死んでいた方がマシだ」

 項垂れている佐藤を見捨てるように、目を背ける。カッターナイフの刃をしまい、適当な場所に放り投げた。

 やってしまった。完全に頭に来ていた。下手したら佐藤は失明していたかもしれない。勢い余って刺してしまっていたかもしれない。やはり自分も一緒に裁かれなくてはならない。

「先生、すぐに警察を呼んでください」

 翔太は言い終わるとすぐに自分の席から包帯を取り出す。誰一人動けないだろう、そりゃそうだ、そのぐらい衝撃的なことをしたつもりだ。第三者を介入させて、学校側にいじめを認めさせる。かつ佐藤たちに消えないトラウマを植え付ける。これが一番冴えたやり方だったと思う。


 ちょうど包帯を巻き終えたタイミングで望が教室に駆け込んできた。昨日切られてしまった後ろ髪に合わせて、前髪も綺麗に整えられている。頬は上気し、呼吸も荒い。じわりと額に汗をかいている。廊下は走っちゃダメなんだぞ、と訳が分からないことを考え始めた。

目と目が合う。綺麗なオッドアイ、その瞳は呼吸が荒いからかそれともそれ以外の理由か、潤んでいた。

「やっちゃった……ごめん」

 だらしなく笑って見せる。

 望は感極まったように翔太に向かって駆け出した。翔太も受け止めるように両手を開く。

 一仕事終えた無防備な翔太の体に、望は飛び込んで、

 「……っ」

 強烈なボディブローを一発。翔太を沈黙させる。

 後に教室内水撒き事件と呼ばれることになるこの一件は、「いじめられていた女の子が、苛めっ子を撃退するために暴走した男の子を撃退する」という終幕を迎えた。


*


 翔太は夢を見た。よくありがちな夢だ。

 翔太が異世界に転生して、何故か連れ攫われる女神「エルピス」を助けに行くという夢だ。

 そこでは、翔太はギリシア神の力を使って戦う勇者であり、向かうところ敵なしのチート野郎だ。

 覚えていることは少ない。力を使う時に神々の属性に対応した色の粒子が右手に集まってくること。エルピスの目は右目が茶色、左目が透き通る蒼色のオッドアイで、自身の唇に人差し指を当てながら言う決め台詞「希望の神『エルピス』からの祝福だよ」がすごく可愛かったことだけは覚えていた。

 現実と夢の差はこうも大きいと実感した瞬間だ。


*


「なあ、もう砂擦りつけるのはやめてくれないか。悪かったってもう逃げないから」

「……」

「あの、本当に擦り付けるの止めてもらえます?」

「嫌」

「あーもう勘弁!まじ勘弁!」

 翔太は擦り付けてくる手を振り払って逃げ出した。その逃げ出した翔太を望は全力で追いかける。春が過ぎ、強くなってきた西日差し込む屋上に、楽しそうに駆け回る二つの人影があった。


 教室内水撒き事件から早四か月。

 望をいじめていた三人の女子は転校することになった。佐藤が登校する最後の日。夕日が差し込む教室で、望に背中を向けて、「ごめん」と言って去って行った。少し背を丸めてさびしげな、悲しげな背中だった。佐藤の後ろ姿を翔太は忘れることができそうにない。


 望はクラスでまだ浮いている。しかし今回の一件で本人はどう動かなくちゃいけないのかわかったらしい。恐怖を抱えながらも積極的に話しかけている。もちろんクラスメイトからの反応は冷たいが、翔太を一撃で倒した最後の一撃を見てクラスメイトの見方は確実に変わってきている。


 翔太はこの件に関して、二週間の出席停止処分と反省文の提出を科せられることになった。今回の一件は警察へ連絡されなかったようで、県外に広まることはなかった。しかし地元民に隠し通すことはもうできそうにないようだ。人の口に戸は立てられぬ、いずれ広がっていくだろう。道筋は違うが、目的通りの方向へ事態は向かってくれている。二週間の出席停止で止まってしまった勉強は、放課後、望に教えてもらってきた。

 流石に勉強も追いついているのかと思いきや、翔太が逃げ回るせいで勉強は一向に進んでいない。今日も今日とて屋上へ逃げてきて望に掴まり、色々な意味での報復措置で屋上の汚れを擦りつけられていた。


―――そう、色々な意味での報復措置だ。

 忘れるな。強く思う。刻み付ける。望は翔太のことを許してなどいない。


 何回目かの逃避行の末、また望に掴まってしまう。駆け回りすぎて疲れ果てて、屋上のフェンスにお互いもたれかかった。

「あの夢の話だけど……」

 唐突に望が聞いてきた。翔太が話した異世界転生物語のことだろう。

「人の脳って前世の記憶が内蔵されているんだって」

 夕日が沈みかけて空が深い青から黒に染まっていくときだった。夢の話と繋がりがわからないので

「へぇー」

とだけ返す。

「もしかしたら翔太が見たのも前世の記憶だったりしてね」

 沈みかけの夕日を背景に、望は翔太へ笑いかける。


「前世の記憶ね」

 あの夢と同じように右手を前に掲げてみる。紅い粒子が集まってきたような気がして、でもそれはやっぱり夕日照らされた自分の手だった。

 少し期待外れでため息をつく。

もし、望の云う通りなら、前世でも望と一緒だったことになる。どれくらい前かわからないけれど、それでもこいつとは出会っていたんだ。

 そうだったらいいなと翔太は正直に思った。

 もしそうなら、翔太には気になることがあった。


「お前、前世では神様だったってことになるぞ」

 そう言うと望は満面の笑みを浮かべて、自身の唇に人差し指を当てる。

「希望の神『エルピス』からの祝福だよ」

だから、と続けて望は優しく翔太の肩をたたいた。

「勉強行くよ」

 今日はもう逃げられそうにない。翔太は勉強という魔王に対峙する覚悟を決めたのだった。


 ここまで読んで下さり、ありがとうございました。

 長文スマソ


 悩んでは書き直し、悩んで書き直しを続けて、なかなか書き上げることができませんでした。書いているときに犠牲となった数多のお菓子たちと犠牲となった自分の体形に懺悔しつつ、次の作品を作りたいと思います。


 もし感想や評価が頂けますと、作者が血涙を流しながら喜びます。

 見せられないのが残念です。見たくないですかそうですか。

 どうぞよろしくお願いします。


仲間 梓

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