Bonum diem
体が揺すられる。
「ねえ、起きて」
声が聞こえる。眠い。寝たい。
目を開けずにいるとまた揺すられる。
「起きて?早く起きないと……鼻の下にカラシを塗るわよ?」
とても危険な声が聞こえる。やばい。起きなければ。ツーンとする。痛い。
時すでに遅し…。
涙目になりながら目を開けると。
そこにはしてやったりと笑みを浮かべた僕の彼女がいた。
ジトっとした目で彼女を見つめると
「いつまでも起きない蓮がいけないんでしょ?Bonum diem. (ボヌム ディエム) 」
という彼女。
「それはそうかもしれないけど、ここまでやる必要はなかったんじゃない?おはよ、はるさん。んで、今
日のそのおはようは何語?ボ…なんちゃらって聞こえたからフランス語?」
やれやれ、と首を降るのは僕の彼女の佐藤遥香さん。
茶髪のミディアムボブでくせっ毛だからなのか寝癖なのか……
髪が全体的にふわふわしている。
歳は僕の一つ上だから21歳。
大学生で文系女子。
身長は僕より15cmくらい低いはずだから……
多分160cm前後。
ルックスは彼氏目線だから信用がないかもしれないけど、結構かわいいと思う。
やっぱり綺麗っていうよりはかわいい系かな。
まあ、彼女の説明はさておき。
「Bonum diem. (ボヌム ディエム) って言ったのよ?」
残念なものを見る目で言ってくる。
「いや、そのぼぬむ?なんとかって初めて聞いたし。んで、結局何語なの?」
「ラテン語よ。」
「なるほど。まあ、知るわけないんだけどね。」
はるさんはまたもや残念そうなものを見る目で僕を見て。
「あいさつは大事よ?」
と、人生においてとても大切なことを教えてくれる。
「僕もそう思うよ。でもね、はるさん。ラテン語であいさつをする時ってないと思うんだ……」
「そんなのわからないじゃない。将来、海外旅行に行く時に使うかもしれないわよ?」
「え、ラテン語って今でも使われてるの?」
首をかしげる。
正直、使われているという話を僕は聞いたことがない。
「バチカン市国では公用語として使われているわね。でも、バチカン市国の人も普段はイタリア語を使って生活していたはずよ」
「それって海外旅行をする時にも使わないんじゃ…… っ、痛い痛い」
「生意気なことを言うのはこの口?」
と、はるさんは僕の頬をつねってくる。
幸福だ。間違えた。降伏だ。
「すいませんでした」
「分かればいいのよ。じゃあ、朝ごはん作ってあるから早く食べましょう」
この時の僕は予想していなかった。
まさか、このラテン語のあいさつを使うことになるとは。