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一話目

よろしくお願いします。

気づくと、粗末なダガーを片手に携えて原っぱに佇んでいた。

困惑した。夏休みの後半に差し掛かり、机の隅に堆く積まれた課題から敢えて目を逸らしながらゲームをしていた、ような気がするのだ。

気のせいでもある気がする。自分は隣に佇む少女をちらと見遣った。

この帽子の名前を俺は知っている。ウィッチハットとかいうアクセサリーだ。ついでにいえばこの少女が着ている黒い服はカデリナドレスとかいう12M、つまりゲーム内通貨で12000000円もする代物である。

何故自分がこの少女の身につけている物をここまで詳しく知っているかというと、これらは全部俺が買った物だからだ。

いや、厳密に言えばこの少女を介して俺が買った物だ。

どういうことなのかというと。

この少女は俺がプレイヤーとしてゲーム内で操っていたキャラクターなのである。


少女は、不思議そうにあたりを少し見渡した後、隣に立つ俺を見て目を見開いた。

何度も何度もゲーム内のエステに通わせ、眉と目の距離鼻の高さ唇の色、その他諸々全てを完璧に俺好みに仕立て上げたキャラクター「テンコ」。

それが薄ピンクの唇をふるふると震わせ信じられないといったように呟く。


「マイ、マスター……」


マスターという認識になっているらしい。

反応からして、テンコにとって俺がここにいることは予想外であるようだ。

俺は、そこまで驚いてはいなかった。

記憶があやふやなのだ。

「えーと、俺が君を作ったんだよね?」

「 そのような認識で相違ないかと。しかし、何故でしょう。私にはきちんと父と母がことを致して生まれてきたという記憶が有るのです。しかし、貴方は間違いなく私のマスターで、創造主だということは間違いない事実である筈なのです」

「俺も君も、だいぶ記憶があやふやだな」

というか、俺の理想のキャラクターだけあって、やはり美しい。身長は147で体重は38。バストは割と慎ましやかであり、顔については言うまでもない。

正直、見るだけで勃起寸前である。

煩悩退散、である。

「そのレベルは、確かに俺が君を操って魔空の階で上げたものの筈だ」

テンコちゃんの頭上にはマジシャンLv.89の文字。間違いなく経験値効率が序盤最高のフィールドで鍛え上げたものだ。

「私にも魔空の階という地でひたすら敵を倒していた記憶が有ります」

と言って少女は15Mのエレメマスウォンドをじっと見つめた。

さっきまで、自室に籠りその地でレベル上げをしていたのだ。限界までバフを重ねがけし、あちこちの敵に一撃食らわせてヘイトを取り一箇所に集め、広範囲殲滅魔法をぶちまける作業だ。レベル100まではそこで上げようと画策していたのである。

「そういや、こんなフィールドあったっけ?」

「私の記憶にはございません。……マスター、これからどうしましょう」

「とりあえず帰還スクロールで街に戻れるか試してみようか」

俺はそう言って、傍らに発生した穴に手を突っ込む。

アイテムボックスは使えるらしい。

そして、一つの巻物を引っ張り出す。

「う……それ、いつ嗅いでも臭いですね」

「俺は……嗅ぐのは初めてだな。使い方は知っているのに、臭いすら知らんとは」

ちょっと腐卵臭のような臭いがする巻物の、紙の端を摘まんで一気に広げる。一番最後まで開けた所で、最後に寄った街へと帰還できる筈なのだが、

「何も……起こりませんね」

「なんとなく予想はしてたけどな」

転移する人間を乗せる範囲指定の魔法陣すら発動しない。

ため息を吐いて、巻物を巻き直してアイテムボックスに放り込む。

「とりあえず、街を探しませんか?」

「そう、だな……その前に、ちょっとションベン」

僅かに頬を染めるテンコにそう断って草叢に入っていく。テンコから完全に見えなくなった所で麻の粗末なズボンを降ろして、息子をぼろんと露出させた。


手早くことを済ませ、ズボンを上げて、視線を上にあげる。

そして、


ミリタントティーガー/Lv.67

「クロロロ……」

と、とても友好的とは思えない唸り声をあげる巨大虎と鉢合わせた次第である。

「ちょ、ま、テンコ!テンコ!」

腰に帯びた鞘から粗末なダガーを抜き放ち、ミリタントティーガー某の鼻先で振り回しながら、必死で鍔広帽の少女を呼ぶ。

「マスター!どう致しました!?」

「死ぬ!うわ!助けてくれ!」

でかい肉球で地面に引き倒された。耳元に血腥い吐息がはぁはぁと当てられ、さぁっと血の気が引いた。

がさがさと草を掻き分けてくる音が聞こえる。テンコが俺を助けるより、この虎が俺を食い殺す方が幾分か早そうである。

俺ももうここまでか。

そう思い、せめて少しでも痛くないようにと全身を弛緩させたところで、

戦人之嘲笑クリーガー・プロボウク

と不思議な文言が聞こえてきた。

途端にのしかかっていた大質量が消え、後方に虎が駆けて行くのを感じる。

これは……ファイターのヘイトを取るスキルか。

今現在マジシャンであるテンコが何故ファイタースキルを使えるのか謎であるが、ひとまず助かったと言うべきだろう。

適性レベル以上の武具を装備したテンコならば、あのレベル帯のエネミーに負けることはない。

事実、一度辺りに紫電が迸ると、それ以降獣の息遣いは聞こえることはなかった。

矛盾、誤字脱字、誤用等発見致しましたらさりげない罵倒とともに指摘していただければ幸いです。

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