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朋有りご近所より来たる

 家に帰り着いたときには、既に午後3時を回っていた。


「おっじゃまっしまーす! おお、この家、なんか綺麗になってない?」


 島村さんが元気な声で挨拶している。家が近所らしいので、ついでにウチの車に同乗してきたのだ。元々5人乗りの車の後部座席に、龍樹(inチャイルドシート)と真琴ちゃん、島村さんに聡子さんの4人は流石に狭そうだったが、当人達は終始楽しそうだった。

 皆が荷物を下ろして談笑しているのを尻目に、台所へ向かう。腹は減っているが、昼飯を食うには遅すぎる。とりあえずはお茶と菓子で誤魔化すしかあるまい。心配なのは真琴ちゃんの空腹度だが、島村さんに会って以来メンタルは安定しているように見えるので、いきなり暴れ出すことはないと思いたい。


「島村さん、紅茶とコーヒーどっちが好み?」

「あ、お構いなく」

「空気ならいくら吸ってもタダだよ」

「あ、やっぱり構って下さい。紅茶で」


 と言うわけで、紅茶の葉を用意して湯を沸かしつつ、戸棚の上に置いたクッキーの缶を下ろす。缶の蓋は、何故か開いていた。湿気るのが嫌なので、毎回蓋は閉じるようにしている筈なのだが……

 中を開けて見てみるが、いちいち枚数を記録しているわけでもないので、減っているのかどうかよく分からない。まあ、ガワこそ高級クッキーの缶でも、中身は自家製だ。補給の手間さえ除けば、無くなった所で大した損害はない。

 一枚口に放り込んで湿気てないのが確認できたので、客に出しても問題無かろうと結論付け、そのまま皿に並べる。丁度湯が沸いたのでティーポットに注ぎ、カップを用意して皿と共にリビングに持っていった。


「へい、おまっとさん」

「あら、おいしそー。……って、お兄さんがお茶淹れてるの?」

「あー、まあ。いつの間にか、俺の役目になってるね」


 島村さんが少し驚いた顔をする。リビングでは俺以外の全員がくつろいでいるわけで、他の誰がお茶を用意すると思ったのか。岡家の面々にとっては最早常識であり、新参の真琴ちゃんですら俺が給仕をしているのに疑問を差し挟まない。慣れとは恐ろしいモノだ。

 全員分のカップに紅茶を注ぐと綺麗にティーポットが空になったので、自分の分のカップとポットを持って台所に戻る。実のところ、晩飯のことを考えれば悠長にお茶している場合でもない。

 正直、もう少し早く帰ってこれるつもりで居たので、晩飯の買い物について何も考えていなかった。ショッピングモールで買う手も無いではなかったが、あそこの食料品は微妙にお高いのであまり手を出したくない。その分、品揃えは豊富なのだが。

 今から買い物に行くのも面倒くさいし、ある物だけでどうにか出来ないか、ストッカーを漁りながら算段を立てる。とりあえず家にあるざっと食料品を確認してみたが、どう考えても米が足りない。真琴ちゃんの食う量を考えると、明日の朝飯と弁当を用意してギリギリである。よし、今夜はスパゲティだな。挽肉が古くなってるし。

 一応は家族の了解を得ておこうと、リビングに一声かける。


「なぁ、米足りないから、晩飯はミートソースで良い?」

「あ、ミートソース好きなんで問題無いです。てか、夕ご飯もお兄さんが作るんですか?」

「え? ああ、うん。聡子さんも忙しいし、手伝える所は手伝わないとね」

「ほっほーう。聞いたかね、オカマコト。あれがヤマトナデシコの心意気というものだよ」

「うっさい」


 岡家の面々に確認を取ったつもりだったのが、何故か島村さんが答える。ナチュラルに余所の家の晩飯に混ざるのは、大和撫子としてはどうなんだろう。と言うか、いちいち言葉のボディブローで真琴ちゃんの脇腹をえぐり抜くのはやめて欲しい。彼女が受けた心の傷は、何故か俺に対する殺人光線となってこちらに向くので。

 誰からも文句が出ないので、とりあえずメニューと島村さんの参加は了承されたものとして、準備に取りかかることにした。



 ミートソースは最初の一手間さえ乗り越えれば、失敗知らずの簡単なメニューだ。適当な野菜をひたすらみじん切りにして、ニンニク油で挽肉と一緒に炒めた後、あとは各種調味料とトマト缶に月桂樹の葉を加えて煮込むだけだ。作る量が増えても、野菜のみじん切り以外は特に手間が増えないというのも素晴らしい。

 手間の掛かる部分は30分足らずで終え、煮込みの番をしながら冷めた紅茶を飲んでいると、台所に龍樹がやって来た。


「にいちゃーん。いっしょに、おちゃしませんかって、おかあさんが」

「んー、わかった。ちょっと準備しちゃうから、待っててな」


 晩飯を作りつつ、家族との団欒もせねばならない。岡家の長男に課された使命は過酷である。あまり台所の外に鍋を持ち出したくはないのだが、この際仕方が無いと諦めて、リビングに引っ張り出した石油ストーブの上で煮込みをすることにした。

 上に鍋を置いて蓋を開けてやれば、リビングに満ちる美味しそうな匂いにたっくん大喜び。つまみ食いの危険は3倍増しである。誰かしら見張っているはずなので、彼の試みが成功することはないだろうが。

 紅茶のおかわりと共にリビングに出向くと、全員がストーブの上の鍋をガン見していた。キミたち、そんなに腹が減っているのかね。

 ストーブに点火し、鍋が焦げ付かないようにかき混ぜていると、新生岡家の常識には疎い島村さんが質問を投げかけてくる。


「お兄さん、ソレは流石に用意しすぎじゃない?」

「煮込み料理は、量を作った方が失敗しないよ。それに、余分に作って冷凍しとけば、後で使えるし」


 どうせ真琴ちゃんが食うし、という言葉は何とか飲み込む。別に隠すことでもないのかも知れないが、大食漢というのが女子の間でどの様な評価になるのか今一つ不明なので、あまり喧伝しない方が良いだろう。俺も無駄に危ない橋を渡りたくはない。

 小分けにして冷凍保存しておけば、後で解凍してオムレツやらドリアやらに使うことが出来るので、もし余っても困ることはないしな。

 時々味見をしながら、調味料を足してやる。煮詰めるにつれて味が濃くなるので、最初から濃い味で作ってしまうと、最終的には濃くなりすぎるのだ。味見をする度に龍樹がガン見してくるので、何度目かでとうとう圧力に屈して、小皿に分けたスープを啜らせてやった。


「どう、美味しい?」

「うん、おいしい」

「そりゃ良かった」


 まだ煮込みが足りないので、そんなに美味くはない筈なのだが。空腹は最高の調味料と言うことだろう。

 龍樹の頭をなでていると、横からの冷たい視線に気付く。振り向いてみると、真琴ちゃんと目が合った。何というか、控えめに言って飢えた野獣の目をしている。そういえば、今朝は軽め(当人基準)に焼きおにぎりとおかずを食べただけだし、昼飯抜きでおやつはクッキーくらいしか出していないから、腹が減っているのだろう。


「あー、真琴ちゃんも味見してみる?」

「いや、いい」


 何というか、面倒くさい娘さんである。そんなに腹ぺこキャラは嫌か。鍋から目を離せていない時点で、手遅れだと思うのだが。

 まさか食料を求めて襲いかかって来るような事はないだろうが、あまり食い物をチラつかせるのも良くないかも知れない。粗方水分が飛んだ所で蓋をして、後は台所に持っていって清潔なバスタオルと毛布でくるんでおいた。水分さえ飛ばしてしまえば、保温調理で全く問題無い。

 リビングに戻り、団欒を再開する。空腹の真琴ちゃんとは、なるべく目を合わせないようにしよう。ぶっちゃけ怖いし。


「結婚当初は、私も頑張ろうとしたんだけどねぇ。祐介さんには全然敵わなかったわ」

「その辺は、慣れだと思いますよ。俺だって、最初は下手くそでしたし」


 溜息をつく聡子さんに、もう何度目か分からない慰めの言葉をかける。今は昔の話だが、聡子さんは再婚を機に家事全般に注力しようと考えていたようで、その一環としてこの家にある家電は新しくて高機能なものが多い。ただ、道具さえあれば上手くやれるほど家事というのは甘い物ではなく、結果として俺が無血開城を迫る羽目になったのだが。

 現実問題として、聡子さんは今でも仕事が忙しく帰りが遅いことも多いので、家事と仕事の両立はどこかで破綻していただろうというのもある。まあ、譲り受けた高機能家電の数々は俺がありがたく使わせて貰っており、なかなか楽が出来ているので、良しとして欲しい。

 島村さんが、興味津々といった体で質問を重ねてくる。


「お兄さんって、そんなに長く家事やってるの?」

「ん、ああ。つっても、まだ5年ちょいだけど」

「へー。始めた切っ掛けは?」

「切っ掛けっつってもなぁ…… 母親が死んで、他にやる奴が居なかったからとしか」

「えっ、あっ…… その、ゴメンナサイ」


 マズいことを聞いたと思っているらしく、目に見えてテンションが下がっている。こういうのはどうにも苦手だ。俺自身、母親の死を十全受け入れてるとは言い難いが、だからといって他人に気を遣って貰ってどうなる問題でもない。そもそも母親の死に言及しなければ良いのかもしれないが、言い訳を考えるのも面倒だ。

 こういう時に「気にするな!」とか言えれば格好良いのかもしれないが、そういうのは俺のキャラでもないし、本当に気にされなかったらそれはそれで鬱陶しい。


「ま、今は聡子さん達も居るし。昔ほどナイーブになる事でもないよ」

「あ、はい……」


 一応はフォローしてみたのだが、あまり効果はないようだ。そもそも、俺にそんなスキルがある筈もない。

 場の空気が重くなってきたので、「飯の準備してくる」とだけ言って、台所へ逃げ出した。



 そもそも深刻な物ではなかったのか、はたまた俺が居ない間に誰かがフォローしたのかは知らないが、晩飯時には島村さんのテンションも元に戻っていた。葬式のような飯にならずに済んで、一安心である。


「うわ、こりゃ美味い。この家、いっつもこんな良い物食べてんの?」

「にーちゃんのごはん、おいしー」

「よし、私この家の子になるわ。オカマコト、結婚しよう!」

「ふぃっははふお」


 ……それにしてもテンション高いな。いやまあ、低いよりは全然マシなんだが。

 幸いにしてミートソースも付け合わせのサラダも好評で、順調に消費されていってる。主に真琴ちゃんによって。やはり腹が減っていたのだろう、それぞれの大鉢に分けて盛ったスパゲティとミートソースとサラダが、モリモリ減っていく。なんかもう、見ていて逆に清々しくなってくる食いっぷりだ。

 腹が減っているならその旨を口に出して言って欲しいと思うのだが、よくよく考えてみれば出会って3日目の異性に対して「腹減ったからジャンジャン飯持って来い」と言うのは、男の俺でもキツイものがある。龍樹だって出会った当初は殆ど口を利いてくれなかったし、あまり多くを相手に求めても良くないかと思い直した。結局の所、相手の信用を得る所から始めないとならんのだろう。

 そう言えば、信用ついでに真琴ちゃんに聞いておかねばならん事があったのを思い出す。


「そういや真琴ちゃんって、嫌いな食べ物とかあるの?」

「…………ふぁんへ?」


 台所を預かる身としては当然の質問をしたつもりなのだが、帰ってきたのは不審に満ちた視線であった。相変わらず眼光鋭いが、リスの如く頬袋を一杯にした状態では威圧感も半減している。


「ええと、とりあえず口の中に物入れたまま喋るのは止めよう。んで、質問の意図としては、食べる人の嫌いな物はなるべく出さないようにしたいなぁ、と。まあ、他の人の好物とかち合ったりすると、全く出さないって訳にもいかないけど」

「……特には、無い」

「そう? そりゃ助かる」


 答えるまでに間が開いたのが気にならないではないが、深く突っ込んで機嫌を損ねても困る。一応、普段はもう少し品目を多くするようにはしているから、嫌いな物が出たからと言って即食える物が無くなる事態にはならないだろう。

 そう言えば、龍樹にも食事では散々振り回された覚えがある。出会った頃の龍樹は食わず嫌いが多く、その為彼の分だけ別メニューを出したりしたのだが、いざ食事の段になってみると嫌いなはずの物をバクバク食っていることが良くあった。梅干しを始めとする酸っぱい物全般も、その中の一つである。


「龍樹が初めてウチに来たときは大変だったよなぁ。嫌いな物は無いとか言ってたのに、出されてから酢の物が嫌いとか言い出してさー」

「すのものは、たべれる」

「あん時はお前、食わず嫌いだったじゃんかよー」

「たーべーれーるー!」

「ゴメンゴメン。今は食えるようになったもんな。偉いぞ」

「ふへへー」


 一瞬ヘソを曲げかけた龍樹だが、頭をなでながら褒めてやれば直ぐに機嫌を直してくれた。確かに、今は苦手を克服しているのだから、過去のことに拘った俺が悪い。お詫びの印に口の周りのミートソースを拭ってやると、目を細めてされるがままになっていた。

 横からの殺人光線には、気付かない振りをする。



「いやー、食べた食べた。ごちそうさまでした!」

「はい、お粗末様」


 夕食はつつがなく終わった。島村さんも満足してくれたようで、料理をした人間として胸をなで下ろす。わずかに余ったミートソースはタッパに入れておき、あら熱を取った後に冷凍庫に放り込むことにしよう。

 食後のコーヒーを淹れてリビングに出しておき、俺は洗い物を済ませるために台所へ引っ込んだ。食器も少ないので、洗い物もそう手間では無い。ついでに明日の分の米を洗い、水を切っておく。最近冷え込んできたので、朝に米を洗うのは少々辛いのだ。

 家の食料品が大分減ってきたので、補充する物をメモしてマグネットで留めておく。やるべき事は粗方住ませたことを確認し、リビングに行って団欒に加わった。


「おい、祐介。ミチカちゃんそろそろ帰るそうだから、送ってってやれ」

「んなの、てめ…… いや、分かった。準備してくるから、ちょっと待ってて」


 親父の言葉にいつもどおり「てめーでやれ!」と言いそうになったが、晩酌のビール一杯で真っ赤になった中年男性が女子中学生と歩いていたら通報されかねないと思い、止めた。俺としても、身内が交番にしょっ引かれるような事態は避けたい。

 どうでもいいことだが、島村さんの名前がミチカというのを、この時初めて知った。


「あ、別に大丈夫ですよ。ウチってここから5分くらいだから、そんなわざわざ送ってくれなくても」

「5分くらいなら、行って帰ってもそんなに時間は掛からないし、気にしないで」


 島村さんは遠慮するが、流石に女子中学生をこの時間に一人で帰すという選択肢はない。親父が素面なら車も使えただろうが、まあ歩いて5分なら徒歩でも問題無かろう。飲み終わったカップを洗い桶に漬けておき、ハンガーに掛けてあったダッフルコートを羽織って外に出た。息こそ白くない物の、気温は大分低い。

 島村さんの荷物を俺が持ち、先導する彼女について行く形で歩き始める。こっちに越してきてもう2ヶ月ちょいになるが、未だに地理に明るいとは言い難く、彼女の家の住所を言われてもピンと来ない。

 黙って歩くのも気まずいので、とりあえず思ったことをそのまま島村さんに告げた。


「今日はありがとうね。色々助かったよ」

「え? 私何かしましたっけ?」

「真琴ちゃんのこと。何だかんだで、結構楽しそうだったから」

「ああ、そっちか」


 そっち以外のどっちがあるのか知らないが、助かったのは事実である。彼女と出会ってから、真琴ちゃんの雰囲気は目に見えて和らいでいる。外に居るときも、昨日買い物に出掛けたような世紀末的緊張感は緩和されていたし、家の中でも俺に向けられる殺人光線は若干鈍くなっていた様に思う。真琴ちゃんの精神状況もさることながら、俺の精神衛生にとって多大な貢献と言って差し支えない。

 当たり前だが、知らぬうちに出来た義兄と昔の友達では、精神的な距離感に天と地の差があるのだろう。


「でもお兄さん、タツキ君とはあんなに仲良いんだから、ラブともすぐに仲良くなるんじゃないですか?」

「つーても、龍樹とは5ヶ月かけてようやくだからなぁ」

「……おばさんが再婚したの、2ヶ月前って聞きましたけど?」

「えーと、なんつーか、再婚前のお試し期間みたいな感じで、6月頃からちょくちょく会っては居たんだよ。聡子さんは仕事が忙しいから、龍樹の面倒を見る人間も必要だったし」


 そもそも、旧愛川家は真琴ちゃんは行方不明中で龍樹はまだ幼かったので、再婚の際にはそれなりの障害は予想されていた。特に、龍樹は姉の失踪により微妙に塞ぎがちで、新しい家族と暮らすというのは多大なストレスになることが予想されたので、その為の慣らし期間を設けることになっていたのだ。

 当初は半年から1年の間で様子を見て、もし龍樹が俺に懐かないようであれば俺が高校卒業するまでは再婚を延ばそうという話も出ていた。それが3ヶ月に短縮されたと聞いたときには、我が親父ながらがっつき過ぎだろうと呆れたものだ。その頃には龍樹も大分懐いてくれていたので、そちらの心配は無かったのが大きかったのだろう。結果として、真琴ちゃんにとってはバッドタイミングだった訳だが。


「それに、龍樹の場合は寂しさもあっただろうし」

「寂しさ?」

「考えてもみれば、聡子さんは忙しくて遅くなりがちだったし、その間はあの広い家に龍樹一人で留守番してたわけだ。7歳でそれじゃ、そりゃ寂しいだろうさ。そんな時に、まあ年は少し離れてるとは言え、一緒に飯食ったり話し相手になってくれる人間が居れば、そりゃ嬉しかったんじゃないかなぁ」

「ほっほーう。色々考えてるんですね」

「まあ、今から考えてみれば、だけどね」


 出会った当時は俺も子供の扱いなんぞ全く分からなかったわけで、かなりアップアップな状態だったのは確かだ。一応、小さい子供の気を引くべく菓子作りなど覚えたりしてみたが、それだけで懐柔されるほど単純でもあるまい。それでも龍樹が懐いてくれたのは、俺よりは龍樹側にその要因があったと考えるのが自然だろう、とそれだけの話である。

 龍樹の寂しさに付け込んだ卑怯な手口と言われればその通りで、真琴ちゃんが俺を敵対視するのも無理からぬ事なのかも知れない。それでも、あの殺人光線はやりすぎでないかと思うのだが。


「まっ、大丈夫ですよ。ラブ、お兄さんの作ったご飯を5人前くらいモシャモシャ食ってたし」

「そうだと良いけどね」


 どうやら、真琴ちゃんの食事量は友人にはバレてしまったらしい。まあ、あんだけ食ってりゃ当然か。

 島村さんの示す友好度の基準が、義兄妹というよりは飼育員と捕獲動物のそれに近いのが気にならないでもないが、それも今更と言えば今更だ。俺の生存権を確保しなければならないという点で、そう遠くないとも言える。

 しばらく四方山話をしながら歩いていると、程なくして島村さんの家に着いた。本当に、ウチから5分程度しか離れていない。


「あ、私んちソコなんで」

「ああ、うん。まあ、良ければまた来てよ。真琴ちゃん、新しい生活に慣れてなくて窮屈そうだし」

「あっはっは。それじゃ遠慮無く」

「じゃあ、また」

「はーい。また明日」


 別れの挨拶をして、家に入っていく島村さんを見送る。ドアが閉まるのを見届け、踵を返して3歩歩いた所で違和感の正体に気付いた。

 明日も来る気か。

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