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空白の居場所  作者: Blank
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手を骨折してしまって遅れました…


「薬物投与と褐色液体で完全武装!いる、この覚醒剤?」

「ミンティアにコーヒーだろ…。しかも覚醒剤って…。まあいるけどさ。」

「あ、俺も。いい?」


 迫りくる睡魔との戦いに備えるという名目で、コーヒーを回し飲み。伊織は毎日の授業を起きて過ごすために、ブラックコーヒーを水筒に入れて持ってきている。こういうささやかな気遣いこそが、人間関係の肝の一つだと伊織は思っている。


 眠気対策を終えたところで、入学式の開始。ミッションは眠らないこと、だ。






「お前寝てたろ途中から。てか早すぎだろ」


爆笑しながら英樹が声をかけてくる。覚醒剤服用後、校長のありがたいお話が始まって30秒で寝落ちはおかしいことらしい。


「そんな早い?

「僕は悪くない。社会が悪いんだ」

「出たよニート発言。おかしいだろその言葉。」


 そこまでおかしいことだろうか。

 人の話している最中に寝るというのは、僕は幼いころしなかった。授業中に寝るようになったのは中学生になってからだ。

 そこから、環境の変化による“新たな概念の学習”により、僕は“授業中に寝る”というコマンドを手に入れたと導ける。つまり、授業中に僕が寝るのは、僕の責任ではなく、そのコマンド(概念)を教えた周囲、ひいては社会の責任と言える。

 その証拠に、たとえば“肩こり”という概念を知らない欧米人は、肩こりに悩む人が全くいないという。



…Q.E,D。証明終了。

自らの正当性が確認できた。やはり社会が悪い。


「うん、考えてみたけど間違ってない。」

「なるほどおかしいのはお前の頭か。」

「ご明察ぅ」


  リズミカルに、冗談のように笑う。


「で?次何?帰っていいの?」

「クラス発表見てからならいいんじゃね?」


 入学式の行われていた体育館を出ると、新鮮に思える風が頬を撫でた。女子のにおいで息の詰まるような部屋からの解放。それだけで、だいぶ苦しみがなくなった気がする。

 もっとも、これは比較の問題であり、伊織のこれまでと比べればはるかに女子率が高いことはわかっているのだが。これ以上考えると悲しくなる予感がする。


「クラス発表どこ?いつもどーりピロティ―?」

「じゃねーの?脚立置いてあるし。」


空錠高校では、毎年ピロティ―に模造紙を張ってクラス分けを発表する。

一クラス40人、学年8クラス。


「とりま知り合いがいればいいかなー」

「あーボッチだからなー」


 伊織のキャラクター。それはファッションぼっちということである。実際には伊織の交友関係は広く、メアド帳には学年の4割のメアドが記録されている。だが、「ボッチ」を自ら名乗り、自虐ネタを使う。


「ボッチなめんな。誇り高き一匹狼ですぞ?」

「群れから追い出されただけだろ。早く前行こうぜ」


 模造紙の前には、それを見ようとする人混み。


「人混み…やだ…コミュ障にあれはダメ…」


 人混みが嫌いで、朝の山手線に乗れない人間、涼川伊織。

学生の群れになど、入れるわけがない。


「ほら行くぞ。」

「突撃!隣の晩ごはーん!」


戦場へ赴くため、(英樹)を装備。盾を構え、突進する。


「やめろお前が盾だっ」

「はわわわわ人、人、人~」


 味方の裏切りに遭い、戦略的撤退。代替案を考え、提示する。


「近寄らなくても、高くから見ればいいんじゃないかなー」

「突撃を提案したのは誰だ。」


嘆息する伊織に、冷たい目が向けられる。


「犯人は、お前だっ。真実はいつも一つ!」

「いやお前だバカやろ。」

「いだだっすいませんごめんなさい許してっ」


二人で、遠目に自分の名前を探す。


「あっ」


 英樹が声を漏らした。伊織のはまだ見つかっていないが、後回しだ。クラスメイトを見て、「あ、あのキチガイと一緒じゃん」と嗤おう。


「メガネ忘れた…見えねぇ…」


 人をからかって遊ぶのは良くないよね!


「よっしゃ2組。」

「俺は?」

「…見っけ。5組。いやー僕って優しいなー土下座して拝んでもいいんじゃない?」

「誰が拝むか」

「素直じゃないなー。ごめん調子乗ってた悪かっただから腕が取れる取れるっ」


 暴力、よくない。


「じゃ、帰ろ。人混みいやー」

「じゃ。」


校門で別れ、帰路につく。伊織は空錠生の95%が使う山手線を使わない。だから、帰路は必ず1人なのだ。


「人は嫌いだからねぇ。」


誰もいない通りで、吐息のように、呟いた。







夜。英樹から珍しくメールが届いた。

『な、聞いた?ラインで話題なんだけど、なんか超美人が、2人いるらしいぞ。片方はめっちゃ好みなんだけど、うちのクラスらしいから貰っていくな。』


相手のことを慮って返信。


『会話できるの?コミュ障なのに?』


数分後にレス。


『コミュ障は治る。そう信じてる』



コミュニケーション障害は、治るものなのだろうか。

男子校では、中二病と並ぶ不治の病として知られている病気である。


英樹を応援する気にもなれず、ベッドに寝転がる。

天井の蛍光灯のまぶしさに、腕で顔を覆って呟く。


「コミュ障を治す、ねぇ…」



骨折した状態で友人に会うと、必ず「中二病?」と聞かれました。

右手に包帯を巻いているのが悪かったようです。


皆様もくれぐれも怪我にはご注意ください。

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