ゲーム開始前夜
強い光を当てられて目が覚めた。
瞬間、後頭部に鋭い痛みが走る。
あまりの痛みに頭を抑えたいのだが、何故か腕が動かない。
身体を椅子に括り付けられており、腕も後ろに固定されているからだ。
なんだ…どうなってるんだ!?
叫び声をあげようとしたが、それすらも出来ない……口をガムテープで塞がれているからだ。
状況が理解出来ていない俺はパニック状態に陥った。
身体を無意味にゆすり、拘束が解けないか試す…
くっそ、なんなんだ、この状況は!!…
半狂乱になっていた俺の近くに、一人の男がよって来た。
薄気味悪い…まるで、こどものラクガキのような面を着けたスーツの男である。
その男は無言で俺の鳩尾に鋭い蹴りを放った。
激痛が身体突き抜ける…やばい、俺、死ぬかも…男はその後も容赦なく俺に蹴りを入れ続けた。
徐々に意識が遠のいていったが、水がかけられ頬を2、3発殴られ、男の暴力は終わった。最後に髪を引張り上げ俺の耳もとで男は呟く。
『目ぇ、醒めましたかぁ?』
すこし戯けたような、人を小馬鹿にしたような声だった。
巫山戯ているのだろうか?
うん、巫山戯ているのだろう。
この男はきっと、巫山戯ている。
男を睨むと、男は気味の悪い引き笑いを発しながら光の向こうへと歩いて行った。
そう、まだ光は浴びせられている。かなり、強い光源だ。
その光の向こうから年老いた男の声が響く。
「…君は、高梁諒くんで、間違いないね?
まぁ、間違っていたとしても進めるがね」
聞こえて来たのは紛れも無い俺の名前であった。
そのまま、年老いた男は続ける。
「君には、あるゲームに参加してもらいたいと考えている。
なぁ…高梁くんは、《勝てば願いごとが叶う殺人ゲーム》の噂を知ってるかな?」
それは最近、ネット上で噂になっているゲームのことだろうか?
某有名掲示板のオカルト板で語られる内容のことだろう。最近、テレビで紹介されたりもして、漫画やゲームに影響された若者の質の悪い悪戯と言われていた。
俺がアクションを起こさなかったからか、先程の仮面男が歩いて来て、また俺の顔面を殴った。
鼻血で呼吸困難になりそうだ…
それに気付いた男は乱暴にガムテープを剥がした。
咳き込みながら俺は肯定の意志を伝える。
光の向こうの男は満足そうな声を発した。
「そうか、そうか、なら話しが速いね。
なに、簡単なことだよ、高梁くんにはそのゲームに出場し、ある願いを叶えてもらいたいんだ。
君はゲームに勝って…そうだな、《このゲームを無かったことにしたい》と願えば良い」
はぁ?……このオッサン頭湧いてんじゃねぇーの?
あんなの只の噂だろ?
「君が参加するゲームは《魔弾の射手ゲーム》。
勿論、成功報酬は支払わせてもらおう。
ゲーム内で死んだら……まぁ、お悔やみはしてあげよう。
ああ、君に拒否権は無いからね?
拒否したら君の家族がどうなるか…解るね?
じゃぁ、そういうことだから…適当な所に捨てておけ」
仮面の男は頷くと、今度は本気で俺の後頭部を殴りやがった…
薄れ行く意識の中、仮面の男がその面を外した…
男の目は…悲しそうだった。