第22話 回想 高校一年の夏 妹の中学校にて
昼休みのことだった。
高校生の雄斗は珍しく、すぐ隣にある中学校の校舎に足を運んでいた。
(ドジったな……早く届けてやらねえと……)
いつも自分と妹の分の弁当をつくっていた雄斗。
だが今日はご飯とおかずを別々の容器に入れる際、間違えて自分の方に白飯二人分の容器を入れてしまったことに、ついさきほど気がついたのだった。
妹の弁当の包みには、おかず二人分が入っているに違いなかった。
右手に白飯の入った弁当箱を持ち、雄斗は二年生の校舎に着くと、ツグミがいるはずの教室に向かった。
たしかツグミの教室は、2-Cだったはずだ。この廊下を曲がれば――。
そのとき、手前にあった女子トイレから、急に一人の女の子が出てきた。
「おわっ」
思わずぶつかりそうになる。
雄斗は何とかそれをよけると、相手の女子も遅れて顔を上げた。
「あれっ、ツグミ?」
「あっ――お兄ちゃん」
黒く短い髪の小柄な少女が、驚いた様子で雄斗の方を見上げた。
その黒い目の周りは、なぜか赤くはれあがっている。
「どうしたんだよ、それ。目が赤くなってるぞ」
「う、ううん。さっき砂ぼこりが目に入っちゃって、水で洗ってたの……」
「……そうか。ならいいけど」
少し疑問に思いながらも、雄斗は右手にあった弁当箱を差し出した。
「えっ、なに?」
「俺、飯とおかずを間違えて入れててさ。たぶんツグミの弁当はどっちもおかずになってると思う。だから届けにきたんだ」
「そ、そうなん、だ……。ありがとう。じゃあ、弁当とってくるね」
「ああ。あ、そういえば、この間の話」
「この間の?」
「ツグミ、趣味をみつけたいって言ってただろ。帰宅部で、いつも家でやることがないからって」
「うん。ミンテンドーDSならやってるけど、もっと打ち込めるものがあったらなって」
「MMOって知ってるか? パソコンでやる、他のプレイヤーと協力しながらやるRPGゲーム」
「あ、知ってる。ちょっと興味ある」
「そっか。新しく出た『クライシスソード・オンライン』っていうゲームが結構人気らしくて、面白そうだからやってみたらって小詩が――俺の友だちが言ってたんだけど」
「クライシスソード……うん、わかった。やってみようかな。ありがとう、お兄ちゃん」
そう口にして笑顔を見せるツグミ。
弁当箱を教室に取りに行くその後姿を見ながら、雄斗は思った。
いま、ツグミの目がはれていたのは、やっぱり――。
だがそれを本人に確かめることは、今日に至るまでできていない。




