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「おかしいなあ。なんでこんなハンサムな僕を避けるんだろう」
「………」
(ハンサムって、どこが?)
「どこがって、花埜ちゃん。あなたにはわからないかなぁ?この美しさ。長くて立派な大きな鼻に、可愛らしい円らな瞳。そしてこの白い肌……完璧だよね。大くんもそう思うでしょ?」
図書室の下で再会した三人はとりあえず、腹が減っては戦ができぬと学校近くのファーストフード店で食事をとりながら話をすることになった。
学校近くということで同じ制服を着た生徒がチラホラと姿を見せる。しかし、学校一人気のない先生――白馬こと馬場と一緒にいるのがわかるとそそくさと生徒達は店を後にした。
そのことに馬貴は不平を言っており、二人は困惑しながらも、ハンバーガーにかじりついていた。
「それで、どうして馬貴さんは馬場先生の姿をしてるんですか?」
「あ、この体は本当に馬場さんの体だよ。現世で動くには体があったほうが便利だから、借りてるの。本当、学校に来て、馬場さん見て感動しちゃった。これで楽しく仕事ができそうだ」
「仕事?」
大はフライドポテトを食べていた手を止め、尋ねる。
「そう。仕事。僕はあなた達を手伝うために来たんだ」
「手伝うって……。どういみ意味ですか?簡単って言ってたじゃないですか?」
「うーん。普通だったらね。でもどうやら、逃げ出した魂に餓鬼が同化したらしいんだ」
「同化?餓鬼?」
(なんか嫌な予感がする言葉なんだけど……)
そう思ったのは花埜だけじゃないらしい。大も同様に不安そうに馬貴を見る。
「餓鬼っていうのは、地獄に落とされた者が鬼になった姿ね。普通の魂と違って特殊能力があって、通常は亡者――地獄に落とされた魂の管理を手伝ってもらってる」
「え、じゃ、なんで逃げ出したんですか?」
「逃げ出した餓鬼は欲食と神通って言って、餓鬼の中で最も賢く、現世に執着がある者達だ。だから見張りをつかせていたんだけど、逃げだされた」
(逃げたって、なんてだらしない見張りなの?)
「その通り。僕もそう思う。欲食ごときの甘い手に引っ掛かるなんて」
(甘い手ってなんだろう?)
少女の疑問に馬面の教師はにやっと、その顔を歪めて笑う。
「花埜ちゃん、それは大人の領分ね。二十歳超えたら教えてあげる」
(二十歳って、教えてもらわなくても想像くらいはできるけど)
情報があふれているご時世、うとい花埜にも、馬貴の様子からそれくらいのことは想像できた。
「可愛くないなあ。花埜ちゃん」
馬貴は少女の反応につまらなさそうにぼやく。
「えっと、それでなんで同化なんですか?」
しばらく黙っていた大が、何も言わない花埜に馬貴の突っ込みという、自分だけ取り残された状況に、痺れを切らして口をはさんだ。
「そう、それね」
馬貴は少年にごめんねと笑って言葉を続けた。
「餓鬼は地獄から出られないんだ。結界を張ってあるから。でも、魂であれば地獄から逃げ出すことができる。だから、欲食と神通は魂に同化し、逃げ出したみたいなんだ」
「えっ、魂がそんなに簡単に地獄から逃げ出たら大変じゃないですか!」
「通常は無理なの。でも閻魔大王様が不在だから、ちょっと見張りがサボっていたみたいで」
(ありえない~!)
花埜と大は顔を合わせてげんなりした表情をする。
「ごめんね。何百年かぶりのことだから、みんなリラックスしちゃってさあ」
(さあじゃないと思うんだけど!)
「花埜ちゃん。怒らない、怒らない」
「今はきちんと見張ってるんですよね?」
大もあきれながらも、念を押すためにそう聞く。
「もちろんだよ。これ以上逃げ出すと大変だから。牛輝が気合いれて見張りを強化させているから大丈夫」
馬貴が胸を張ってそう言うが、二人の不安は消えることなく、これからのことを思い肩を落とした。