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非日常のはじまり  作者: ありま氷炎
第6章 地獄で生きる者たち
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4

「……わたくしを襲ったのは、背の高い男でした」


 数カ月後、精神的にも回復した浅葱の君と貴良は結婚した。そして聞かされた真相。

 独自に調べて行くうちに浅葱の君を襲ったのが自分の家に何度も訪れた検非違使けんびいしであったのがわかった。貴良は彼を糾弾したが、彼が罪に問われることなく、ある日貴良は自らの手で彼を葬った。


「……浅葱の君、先立つ僕を許してください」


 数日後、貴良は海に身を投げ、自らの生を終わらせた。



「……兄上……」


 完全に記憶を取り戻した馬貴は、体の震えが止まらなかった。

 死後閻魔大王に地獄行きを申し渡され、兄の姿を探した。しかし、その罪のため醜い餓鬼になった兄に近付く勇気はなかった。貴良は十年程でその罪を償い、転生することが許されたが、彼は地獄に残ることを願った。

 自分が裏切った兄を見守るつもりだった。

 閻魔大王はその願いを叶えることを承諾したが、代わりに彼の記憶を封印し、馬頭として彼を作り直した。そして馬貴と命名し、兄と同じ能力を与えた。


「兄上……」


 馬貴は血が滲む程、拳を握りしめる。

 閻魔大王の裁きは『消滅』に決まっていた。地獄で餓鬼として役目を与えられ、反省が見られれば転生する道もあった。しかし神通となった光長は欲食と共に現世への未練が断ち切られず、死んだものの魂を利用して現世に戻った。

 戻った後も、清吉と獣の魂を使い、人々を混乱させた。


(消滅は逃れられない……)


『……貴…良。馬鹿な奴だ』


 生前、最後にそう言い残した兄の言葉が耳に残る。

 兄を信じなかった自分を後悔していた。


「兄上!」


 馬貴は顔を上げると立ちあがる。


(あなたにまだ伝えてない。僕の本当の気持ちを!)


 半刻前に牛輝が此処を発ち、神通達の牢獄へ向かった。今頃、裁きの間であることが想像できる。


「兄上!」


 馬貴はそう叫ぶと空高く飛んだ。



「抜けたわ!」


 そう茜の嬉しそうな声がして、彼女は空に向かって飛ぶ。境目の世界を超えて地獄に入り、力を使える天女は黒い雲に赤い不気味な色を放つ空の上に浮かんでいた。

 羽衣がひらひらと舞い、纏っている着物が水を得た魚のように空をそよぐ。


(ああ、やっぱり天女なんだ)


 あの物言いからおかしな女性だと思っていた大だが、上空に浮かぶ茜を見て納得する。


「大くん、何ぼやっとしてるのよ。行くわよ!」

「行く?いや……」


(飛べるのか?馬貴さんから力をもらった時、飛んだことはあったけど。やってみるか!)


 大は目を閉じて気合を入れて助走をつける。そして跳んだ。


「?!」


 しかし、それは跳ぶだけに終わり、空を飛ぶまでにはいかなかった。


「力がなくなったのね。まあ、限定だったみたいだから。しょうがないけど」


 茜は尻もちをついて座り込んでいる少年を見降ろし溜息をつく。しかし、急降下すると大の腕を掴んだ。


「ちょっつと、待って?!」


 戸惑う少年を無視して、天女は一気に空に舞い上がる。


「……ぃい」


 声にならない悲鳴を噛みしめる大に茜が意地悪な笑みを浮かべた。


(自分で飛ぶとなんとなく、気合が入ってるからいいんだけど、こうやって引っ張られると怖いんだけど)


「ほら、行くわよ!」


 しかし茜は容赦なくそう言うと、裁きの間に向かって一気にスピードを上げた。


⭐︎


「馬貴です。入れてください!」


 裁きの間までたどり着く、馬貴は扉番の同僚にそう懇願する。


「駄目だ。馬貴と言えども、現在裁き中だ。誰も立ち入ることができない」


 しかし牛頭の扉番は構えた槍を馬貴からはずすことなくそう答えた。


「……こんなことはしたくないけど、今は構ってられない」


 馬貴は手の平に力を込めると、牛頭に放つ。


「ぐはっつ」

「ごめんね」 


 扉に体を叩きつけられ、気を失った同僚に馬貴は謝ると、扉を押した。


「開かない?!どうして?」


 馬貴は力を使って開けようとするが、光の弾は扉に当たり霧散するだけ扉を傷つけるはなかった。


「馬貴さん!」 


 焦る彼の耳に聞き覚えのある声がした。


「大ちゃん?!飛天?!」 


 馬貴は空から舞い降りた大と茜の姿に驚きを隠せなかった。飛天は空を飛ぶ天人。天国の住人で地獄などに現れるはずはなかった。


「こんにちは。馬貴!あんたは心が読めるんだっけ?だったら事情はわかるでしょ?」


 天人と言葉を交わしたことはなかったが、無粋な物言いに馬貴は戸惑う。しかし、茜の心を読み事情は読みとることはできた。


「ここはアタシに任せて!下がって頂戴」


 飛天茜はそう言うと両方の手の平を扉に向け、力を溜め始める。手の平に光が集まり始め、その眩しさに大も馬貴も目を細めた。


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